花崎高のもうひとつの花
「時雨、帰ろ」
肩を叩いたのは幼馴染みの早乙女柚葉。
「おう」
鞄を手に立ち上がると友達である木田陸斗に腕を捕まれた。
「お前ら毎日一緒だよな、付き合ってんの?」
にやにや笑いながら陸斗は問い掛ける。
「そんなんじゃねーよ」
家が隣で学校もずっと同じ、ついでにクラスもだいたい同じ。
お互い家族のように思っている。
じゃーな、と陸斗を置いて教室をでると柚葉はにこにこ笑った。
クラスではあまり笑わないし話もしない。
人付き合いの苦手な柚葉だが上原すみれ並みに人気があるらしい。
「今日はうち来るでしょ?」
柚葉は笑いながら俺を見上げる。
こうして二人で歩いているとカップルだと思われるのだろうか。
「多分な。夜勤だったら行くと思う」
ぼんやり生きているせいで自分のスケジュールすらまともに覚えていない俺は曖昧に答えた。
「別にいつ来ても歓迎するけどね」
笑い声をにじませながら柚葉は言った。
毎日一緒にいても学校から帰るこの時間は柚葉の笑顔がよく見られる。
「柚葉、別に毎日待っててくれなくてもいいからな」
俺のせいで柚葉の人付き合いが悪くなっていたら困る。
柚葉は急に表情を曇らせて黙りこんだ。
「時雨は嫌なの?」
不機嫌な声に微かに戸惑いながらも平然と答える。
「柚葉にも友達付き合いあるかなって思ってさ」
さっきの表情を急に微笑みに変えて柚葉は俺の腕をつかみ、距離を縮めた。
「私は時雨がいてくれたら充分なの」
だから心配なんだが、本人がいいなら良しとしよう。
いつもの帰り道、嬉しそうな柚葉と並んで歩きながら
最近は柚葉といい、すみれといい、あまり知られていない素顔を目撃することが増えたなぁなんて考えていた。