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(4)「私を殺して」

 

 四ヶ月ほど経った春頃、私の存在を知る近所に住む30歳くらいの独身男が、避けたい一点となった。

 農家の息子で、見た目は悪くなく、好青年と言えるのかもしれない。ここの家主とも仲良くやっている、ふうに見えた。

 

 ある時、この家の者全員が働きに出かけた午前中、この独身男が私のいる母屋にやってきた。驚く私。名前も知らず、話しすらしたことのない彼が、私に何の用かと考える。ただ近所付き合いを大事にしなければ、という思いもあり、扉を開けた。

 最初に名前を告げた彼は、いきなり頭を下げる。


「このことがバレたら、俺はこの土地で生きていけない。年老いた両親を置いてはどこにも行けない。一切誰にも言わないで欲しい」


 何のことなのか、最初は分からなかった。でも、その後に理解できた。


「君に一目惚れした。まだ17歳ということも聞いている。だから肉体からだの関係なしに、先ずは俺とつき合って欲しい」


 彼の告白に、再び驚く。ただ今の私には恋愛など興味ない。が、ハッキリ断ることも失礼かと……。


「考えておきます」


 この時に思いついた、安易なコトバだった。

 しかし、次の週も、その次の週も、家の者がいない時間を見計らうようにやってきた。


「考えてくれた?」

「いつ返事もらえる?」


 誰にも相談できず、私自身で断るしかなかった。


「私はあなたのことを知らないし、結婚などもまだ考えていません」


 軽く断ったものの、引き下がらない彼。


「じゃあ、僕のことをもっと知って欲しい。夜、会える時間を作ってもらえないか」


 彼に、というより、恋愛や異性などに興味のない私は、少しずつ冷たくあしらうようになった。彼が来ても扉を開けず、「もう来ないでください」などと言い放った。それが気に食わなかったのだろう。30歳にもなって17歳の小娘にフラれ、バカにされたと思ったのかもしれない。

 私自身、田舎の生活に安心してしまっていたのだから、自業自得かもしれない、と。


 5月下旬のある日、家主の遣いで買い物から帰って来た昼前、母屋の鍵を開け部屋に入った瞬間だった。突然、後ろから片手で口を塞がれ、もう片手で私の腹に手を回し抱きかかえるように、私の部屋に強引に連れて行く。どんなに足掻いても男の太腕の力から逃げられない。だが無心で暴れた。耳元で囁かれるまでは。


「暴れれば、お前を殺す」


(ころ、す……)


 抵抗を止めた私、というより、“ころす”のコトバが母の事件を思い出させ、頭中を連呼し始めたからだ。


(ころ、される!?)


 大人しくなった私を、畳の部屋に倒し、仰向けの体勢へと変えられた。彼の顔がそこにあった。私に告白した近所の男。


(くさい……お酒!?)


 酒の力を借り、冷静さを失っているような野獣の目。


「お前を嫁にいけない体にしてやる。俺の所に来るしかないよ」


 ニヤリとしながら、私の上半身の服を脱がせようとするため、手で抵抗した。


「殺すぞ」


 再度のそのコトバに、緩める手。

 最初に腹が涼しくなり、次第に胸辺りがスースーし始めた途端、私の胸は経験のない強い感覚を捉える。数回マッサージされると、彼は私の履いているデニムを何やら引っ張っている。ボタンを外し、ファスナーを下ろしているのだろう。勝手に想像しながら、私は天井だけを見ていた。

 その一瞬、ふと思ったことが口から漏れる。木霊こだまのように。


(死んだ方が楽だよね)


「死んだ方が楽だよね」


(殺して)


「殺して」


 私に触れていた彼の手の感触が止まった。それを感じた私は寸刻、顔を動かさず裸眼のみを上半身側にいるだろう男に向けた。不思議に、この時私には恐怖心といわれるものはない。どちらかと言えば、憎悪心。いや、決心かもしれない。


「私を殺して」


 


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