(38)「僕のことを信じるの?」
7月13日21時、三条駅、陽との約束。
組織の裏切り者とされている、風間の処理。復讐ではなく、始末だ。組織への不信を払拭出来ずにいる私は、ただ陽の気持ちと、保身のために、この指令に臨む。
三条駅に着いた私のRV車に陽を乗せ、彼がカーナビにセット、目的地へと向かう。10分程度の場所に、ターゲットの自宅があった。
車内で私の保管している三人分の幽禍を受ける陽。いつものように、彼は一人で風間宅まで歩き、闇儡を実行。10分後、待ち合わせた場所で彼を拾い、移動。
「今回は苦しめることが目的じゃないから、深夜2時頃に、脳と心臓の血管を破り死ぬよう、仕向けたから」
陽の冷静さと精確さに、いつものことながら関心する。
「陽、食事は?」
「まだ」
「食べに行く? 少し話しもしたいし」
「いいよ」
「あまり高いのは奢れないけど」
「今日は僕が奢るよ。毎回車で送ってもらってるし、この前迷惑かけたし」
「高校生に奢ってもらうなんて、出来ません」
「気にしないで、僕の金じゃないから。NSのお金。活動費の一貫だからね、養父も知ってることだし」
「そぉう……陽は家族と外食したりするの?」
「しない。家にいる時は僕、勉強忙しいから。欠席が多い分、テスト頑張らないといけないからね。それに、今の養父母と、仲良く家族ごっこしたいと思わないから……」
「そうなのぉ……」
沈黙を避けるため、すぐに次のコトバを発す。
「で、どこで食べようか。甘えてご馳走になるわ」
「姉さん、嫌いな物ある?」
「如いて言うなら、トマトとイチゴ」
「何で?」
「赤いから」
「……」
「冗談よ。食べる度に、酸味が強かったり甘かったりするから、いい加減ムカついてるの。どっちかハッキリしろって感じ」
「……」
「で、どこにする?」
スマホで探し出した陽は、カーナビに設定。
周辺パーキングに駐車し、西大文字町にある和風居酒屋に入った。肉類を好んで食べないと言う男子は、野菜を主としたこの居酒屋“棲○”を選んだ。時間的にファミレスだと思い込んでいた私は、居酒屋の選択と彼の食の拘りに、新たに驚く。
空室の個室でゆっくり、食事することになった。
「ところで姉さん、話しがあるって」
「あっ、そうね……」
二口ほど料理を口にしながら、脳内でコトバを選ぶ。
「陽は、組織のことをどこまで知ってるの?」
「どうして?」
(やはり、そう来るわよね)
「私、組織と関わって今年で三年。でも何も知らない。ただ指令を受けるだけ」
「それだけじゃダメなの?」
(ダメな気がする)
「陽のことも知らない、組織のことも知らない。それに……このままでいいのかなぁって。私、組織に必要なのかなぁって……」
そう言いながら、自分で気持ちを沈めていた。それを察したのか、応えてくれる陽。
「僕の知ってることなら、教えてもいいよ。ただ機密事項は無理だけど」
(機密事項まで知ってるんだ)
「ありがとう」
「何を知りたい?」
「先ずは、なぜダークネスと呼ばれているのか。ダークって闇とか暗いとかの意味でしょ。自分たちで使うかなぁって思ったの」
彼は料理に箸をつけながらも、教えてくれた。
「ダークはそういう意味じゃない。もともと他の人がつけたものを使ってるだけ。四人の頭文字D・A・R・Kでダーク。その四人の名前は僕も知らない。
NSは、ニューシステム(New System)新体制、またはナショナリティ・セルフディフェンス(Nationality Self defense)国家自己防衛という意味らしい。本当のことは四人に聞かないと分かんないけどね。……僕も会ったこと、ないから」
「陽は誰から聞いたの?」
「連絡やアドバイスくれる人。組織の中で一番近い人、かな」
「そう。私にとっての陽みたいな人ね」
「別に僕じゃなくても……誰か相談しやすい人、見つければ。例えば最初に誘ってくれた人とか」
神戸のホテルで会った二人の男。そう言えば、あれ以来会っていない。というより、名前も連絡先も、知らない。
「私は陽だけで充分。……ダメ?」
「……姉さんは、僕のことを信じるの?」
そのコトバに私は違和感を憶えた。人間不信の私が、陽には心を開こうとしているし、陽を知りたいとも願っている。でも“信じる”とは違うように、思えた。
「私は陽に頼ってる。あなたのことを尊敬してるの」
「そうなんだぁ。……でも、人を簡単に信じないほうがいい。所詮人間は弱い生き物だから。歳下の僕が言うのは何なんだけどね」
「歳なんて関係ない。陽は私よりシッカリしてるし、色々知ってる。弟みたいに思うこともあるけど、師匠みたいなもんだから」
「そう思ってくれることは嬉しいけど……でも僕だって醜い人間だから。もしNSから姉さんの処理を指示されたら、迷わず実行する。だから、僕のことも信じないほうがいいよ」
彼のコトバには信憑性があるものの、恐ろしさを感じない。もし彼に処理されても、本望だとも思えるくらい、だから。
「他に知りたいこと、ある?」
「その前に、陽にお願いがあるの。学校があるのは分かってるんだけど」
「なぁに?」




