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(34)彼女への嫉妬

 

詭弁きべん


「なっ?」


(詭弁、だと?)


「あなたの言っていることは、詭弁です。

 言わんとしていることは理解できますが、純粋な場合のみ。あなたがた組織が行なっていることは、ただの連続殺人、大量殺戮です」


(大量? 殺人?!)


「なっ、何訳分かんないこと言ってるの? どこが連続殺人なの? どこが大量殺戮なの? ……ふん、寝言は寝て言うものよ。ふざけたことを……私は純粋に被害者の」


「あなたこそ、分かってない……」


 大人しくなったと思った女命毘師が、私のセリフを遮ってきた。彼女のひ弱な可愛い眼は、真剣、いや怒りも含んだ鋭視に変わっている。


「あなたの組織は、犯罪者を処理するだけじゃない。犯罪者に仕立て上げて処理してるの。不要ってだけで……それに、色んな方法で何の罪もない国民も、殺してる。

 あなたは……ミナトさんは、それを、知らないだけ。……利用されてるだけ!」


(りよう?)


「っ!? 何それ? なんで話が飛躍するの?! 国民を殺す? そんなわけない。そんなデタラメ、信じるわけないでしょ!」


「……私も最初は、信じられなかった……日本を、国民を守る人たちが、そんな酷いことを行なってるなんて思ってなかったです。でも……でも、もしそれが本当だとしたら……ウソだと思いたい、ウソであって欲しい、だから、ミナトさんの今やってることもウソであって欲しいんです!」


 彼女のそれに、戸惑ってしまう。


「ウソであって……ふん、あり得ない。そんなのウソに決まってる。騙されないわよ。

 ……もしそうだとしても、私のやってることは、私が選んだことなの。私の力を必要としている人たちがいる限り、使うわ。悪い奴らを成敗する。被害者遺族の代わりに復讐するの。遺族がそれで幸せになるなら……私は、私は、悪魔にでも何にでもなってやる!」


「違う!」


 彼女の力強い否定に、ピクっと身体全体が攣縮れんしゅくする。


「遺族は……残された家族は、それで幸せになれるんですか? 復讐は新たな哀しみを生むだけじゃないんですか? 

 被害者になっても皆が、復讐するわけじゃありません。哀しみや苦しみを乗り越えて、前に進もうとする人たちもいます。忘れるんじゃなく、絶望するんじゃなく……だから、人は支援したり助け合ったりするんだと、私は思っています」


 言い返せない自分がいた。


(復讐……新たな哀しみ……乗り越える? ……違う。乗り越えられない人のほうが多いはず。いや、人数の問題じゃない。その人の抱える問題。……私は間違ってない! 支援なんかで幸せにはなれない。愛する人を失って、幸せになれるはずないじゃない!)


 心の闇が燃え出し、高ぶった気持ちをぶつけた。


「あなた、偽善ね。支援なんかで哀しみは乗り越えられないわよ。犯人が同じ空気を吸っている以上、怨みは消えない。一生背負って生きるしかないの。

 私がそうだった。目の前で母を殺された私の苦しみは消えなかった。この力のお陰で、仇を討てたからこそ乗り越えられたのよ。幸せそうなあなたたちには分からないわ」


「……私も2歳の時両親を殺された。……それを知った時、カヅキさんと同じように私も辛いし、犯人を憎みたい。でも……」


「一緒にしないで! 2歳だったあなたはラッキーよ。私はね、母が好きで好きでいつも一緒にいるのが楽しかった、あの幸せが一瞬で壊れた、奴らに簡単に奪われた。それ以来、私に幸せはこなかった!

 ……世の中に私のような人が沢山いるの! 親、兄弟、子ども、愛する人たちを、自分の身勝手に、自分の利益のために、人を傷付ける獣たちは、人間の世界にいるだけでも吐き気がするわ。

 私は、一生続けていく。私がどうなっても、愛する人を失った人たちの“闇”を減らすために、獣たちを、抹殺していく……」


 話しながら目頭が熱くなっていく。いつの間にか涙を、目に溜めていた。彼女らの前で流さないよう、必死にこらえた。


「…………」


 沈黙が続く。私も次のコトバが出てこない。でも、言いたいことは言った。そして、すぐにこの場を去りたい気持ちになっていたのだ。噛みしめている唇を緩め、最後に言い放つ。


「今度私の邪魔をしてご覧なさい。絶対に許さないから。闇の苦しみを味わってもらうわよ!」


 彼女らの顔を凝視出来ず、身体を反転させ歩き出す。スッキリしない感をそのままに、車に乗り込んだ。保留していた目の涙は、この時一度だけ袖で拭いた。エンジンを掛け、公園を後にする。


 私の涙は、母のことを思い出し悲しかったわけではない。何かが悔しかったのだ。確かに自分の活動を否定された。でも、それが理由ではない。

 あのハシガミレイという高校生に対し、怒り等ない。どちらかというと、羨ましさを感じていた。まだ高校生なのに、自分の意見を持ち、自身の足で歩いている。

 それに、あの建毘師は真剣に彼女を護ろうとしていた。ハシガミレイの純粋さ、強さ、そして周りを惹き付ける愛らしさを、たった10分程の短時間でも察することが出来た私は……彼女に嫉妬、していたのだ。




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