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(32)命毘師、現る

 

(さてと、来るかしら、命毘師みょうびし


 命毘師への憎悪感と共に、少しのワクワク感が入り混じる。


(どんなやつなのか、楽しみだわ)


 命毘師による蘇生期限は二十四時間と聞いている。つまり二日後の夜まで現れなければ蘇生はない。それを望むと同時に、現れることも期待していた。


 雨が激しくなってきた。いつ来るか分からない命毘師を待つために一睡もしないまま、夜が明ける。朝6時過ぎには、すでにマスコミらしき男が二人、道路に立っている。車中テレビでは朝のニュース。


『速報です。兵庫県議会議員回道(かいとう)正志まさし氏、50歳が、昨夜入院中の病院で死亡が確認されました。回道氏は二日前に体調を崩し、姫路市内の病院に緊急入院、治療を受けていた模様です。先月から不可解な事件の重要参考人として……』


(マスコミどもが押し寄せて来るな。……命毘師、そんな状況では来ないだろうね)


 朝8時頃には雨もやみ、回道宅に出入りする人、外にはマスコミ関係者が増えてくる。目的の人物は数時間来ないだろう、と考えた私は、その場を離れ、最寄り駅付近の駐車場で二時間ほど仮眠を取ることにした。



 目覚めた私は、再び回道宅の見える場所まで移動。誰がマスコミで、支援者で、野次馬で、等とはどうでもいいほど戯れている住宅街の一軒家。常備してあるお気に入りのドリンク剤を一気飲みし、ぬるいブラックコーヒーとおにぎり一個を食しながら、その状況を窺う。

 停車する場所を何度か変え、時には徒歩で張り込んだ。午後3時を過ぎる頃、烏合の衆は半数以下に。


 状況の変化は、午後5時半を回った頃だ。回道宅から出てきた複数の人らは各々その場を後にし、スーツの男が外にいるマスコミ関係者なども追い払い始めたのだ。


(どうしたのだろう?)


 運転席に前屈みになり、さらに凝視する私。静閑な住宅街のため、近隣住民への配慮もあるかもしれないが、家にいた関係者らしき人物たちも追い出したように感じた。六時頃には、外に一人もいなくなった。


(……来るか?)


 命毘師が来るかもしれない、と考えた私は、車を移動させた。

 車で来るのか、電車で来るのかは分からない。少し離れた最寄り駅からなら、タクシーを使うだろう。車で来るにしても路駐するか、公園の駐車場に停めることになる。どちらにしても南東側から来ると予想出来る。南西側の玄関と南東側の勝手口がある回道宅。勝手口側の側道と、玄関側の道路が目視出来る位置で待機することにした。


 時計は7時に近づく。太陽は沈み、薄暗い住宅街。

 数分前に南東側へ下ったはずのショルダーバックの男と、身長の差のある女性二人が、視線左から徒歩で現れた。その三人は、回道宅の勝手口に消えた。


(もしかして……)


 すぐに車から降り、足早で勝手口付近まで来た私は、聴こえるはずもない家からの声に耳を傾ける。どう見ても不審者の私だが、その側道を近隣住民が誰一人通過しなかったのは幸いだった。

 30分ほど経っただろうか、時間は把握していない。家の中から、悲鳴のような声、ドタバタと階段を下りるような鈍い音。その後、台所から「ありがとうございました」という女性の声が聞こえた。

 咄嗟にその場を離れ、車に戻る私。乗り込んだと同時に、出てきた三人を捉えた。私は張り込んでいる間、静命術で奉術師としてのみょうを無にしているため、相手には気付かれていない。


 歩く三人の道に平行している住宅街の道路を、無灯で車を進めた。出来れば彼らを写真に収めたいが夜の住宅街では、灯りも乏しい。小型カメラのため、もっと近づく必要がある。それに、奴らの交通手段が不明だ。車なら撮るタイミングがない。

 悩んでいたが、三人は公園に入った。男はタバコに火をつけ電話を始める。背の低い女はベンチに座り、背の高い女は遊具の支柱に背凭もたれている。


(タクシーか!?)


 時間があることに喜んだ。

 公園に沿った路上に愛車RXを停車、降りた私は三人のいる公園の土を踏んだ。近づきながら、奉術師の命を解放。その瞬間、背の高い女が私に気付いた反応を示す。

 私も三人のみょうを観察、背の高いスレンダーな女が建毘師、ベンチの女が命毘師、男は一般人と察した。


 建毘師の女は、命毘師の女の前に立ち、構えた。


(そぉう、護衛してるわけね)




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