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(3)保護者

 

 私は親戚宅を出た後、三ノ宮にあった流行り始めたばかりの二十四時間営業ネットカフェやファミレスで数日を過ごす。でも、未成年である私は当然ながら、制服警官らによって署に連行された。

 幸いなことに、事件当時の私を憶えていた中年警察官と30歳代の婦警。憐れんでくれたお陰で、その日の夜は署員用仮眠室で過ごし、二週間婦警さん宅へ。

 通常あり得ないが、婦警さんが職場に内緒で泊めてくれることに。彼女のご両親が中学校教諭であったことで、簡単に話しがついたようだ。ただし条件としては、私が20歳になるまで面倒を見てくれる親戚、つまり保護者となる人を、自分自身で探し、お願いすること。

 婦警さんやご両親の助言もあり、未成年であるデメリットを私は知り、お金があってもどうすることも出来ないことを知り、保護者となってくれる人を探すことにした。いなければ、残念ながら……。


 私は、母と離婚した父のことを憶えていない。父方の親戚は全く知らないということになる。母の兄弟は兄のみ。神戸の伯父宅に戻るつもりはない。母の両親である私の祖父母は養父市に健在。ただ、嫌いではないが祖父が苦手であること、それに母との思い出深い神戸付近から離れて住むのが嫌であることが最大の理由で、祖父母宅は避けたかった。他にいなければ、最後の砦とした。

 一週間ほど悩み続け、ある親戚に連絡をとる。

 独りの生活を望んでいたため、母屋のような別宅のある環境を想像したら、一ヶ所思い出した。親戚宅近くに、母の好きなBBQをするために行ったキャンプ場がある。その際、食材を仕入れるために、この親戚宅を母と二度程訪れており、広い敷地に複数の建物があったことを、記憶の中から呼び起こすことが出来た。


 この家主である60歳代の夫婦は、畜産農として三田牛を飼い、畑で農作物を穫り生活している。同居の40歳代の息子は市街で会計事務所を営み、彼の妻は家事手伝いと近くの工場でパート勤務。息子夫婦の一人娘は大学を卒業後、愛知で働いている。

 私は電話で説明をし、受け入れてもらうことが出来た。


 それが今お世話になっている三田市の、遠い親戚宅。孫娘が使っていた古い母屋が、綺麗な状態のまま空いているということで、使わせてもらうことに。私にとって助かったのは、その母屋に電話回線が通じていたこと。ADSLによるインターネット開通をすることが出来た。


 それから、私の条件――母の事件以来、精神的に病んでいることを正直に話し、独りになりたいこと、さらに光熱水道費や家賃などの生活費を支払うこと、食材費を支払い自炊することなどを家主のおじいさんに明示した。

 でも、「分かった」と言いながらも、「会計上、面倒だ」「近所の目もある」「母屋で火事はご免だ」などという理由で、結局家主の条件をのむことになった。

 農作物を無人販売所などで売っているため会計上問題ないとし、食材費としては月二万円、封筒に入れ所定の箱に毎月収めること。食事は妻か息子嫁が準備するから、自分で部屋に持っていき、食器は洗って返すこと。光熱水道費の代わりに、風呂を洗い、夕方に風呂のお湯を溜めること。風呂には必ず入ること。自分の洗濯は、自分で行なうこと。

 家賃の代わりに、金とメモを置く箱を設置するため、一週間に一回程度、タバコや薬などを買って来ることと、月に一回宝塚市にある和菓子店の、大福餅を買って来ること。

 愛車の洗車を月一回行うこと。おじいさんの愛車とは、濃紺ツートンのダブルキャブ・ダットサンピックアップである。

 さらに、近所の人たちに会えば、必ず挨拶すること。友だちなどを部屋に呼ばないこと、入れないこと。外出外泊する時は、玄関内にあるホワイトボートで報告すること。

 細々した条件であったが、「後は自由にしなさい」ということで、勿論私は了解した。


 そしてもう一つの条件は少し戸惑った感もあったが、それも受け入れた。それは、学校へ行かない代わりに本を月最低一冊読み、A4紙一枚の評論や感想を書いて、見せることである。読書が嫌いではない私は、言う通りにした。


 20歳になるまで、問題を起こさないように努めようと決意した私。

 実際、この親戚宅で生活を始めて見ると、私に配慮されていたことに気づく。条件をこなしていくが、家の人、近所の人、買い物先で、挨拶や多少の言葉を交わすものの、ストレスを感じるような深い接触がない。それ以外は自由であり、独りであった。引き蘢る時間と場所が確実にあった。数ヶ月過ごしてみると、この生活なら20歳まで頑張れそうな気もしたのだ。

 ある一点さえ、なければ……。


 


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