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(26)「今晩泊めて欲しい」

 

 恋愛、異性、結婚、子ども……伝授。


 人間不信の私でも、三十路みそじ近くにもなれば意識する。それは恋愛をしたいわけではなく、好きな異性がいるわけでもなく、ただ……“力”の子孫伝授。

 結婚せず、シングルマザーの選択もないわけではない。だけど、自分がいつどうなるか分からない。一般人より遥かにハイリスクの生き方をしている私が、死んだら子どもはどうなるのか、心配するのは当然のこと。だから、父となる異性の存在は必要、と考えることは、間違っているだろうか。

 もちろん、この力、血統、活動を理解してもらえる男でなければならない。でも……そんな相手が簡単に見つかる、とは思ってもいない。


 母と死別して三年後、初めて父と出会った。とても誠実な方だ。母が愛した人だから、素敵な人だと思っている。

 祖父宅で生活し始めて数年経った頃、機会があった。


「母との馴れ初めは?」


 父は、母との出逢い、プロポーズ、結婚について、さらに私の出産の時のことも事細かく、話してくれた。正直、(羨ましい)と思った。

 私も本当なら、幸せになれる筈だった。なりたかった。……でも、人の人生なんて思い通りにはいかない。簡単に壊れてしまう。それも他人によって。こんな社会である限り、幸せ感は公平じゃない。運良く事件の加害者や被害者にならなくても、結婚生活の矛盾、離婚者の多さ、DVや虐待など、世の家族に発生している問題は多い。

 だから……だから、結婚というものに抵抗が……違う、自信がない……だけかもしれない。異性が怖い、ということはない。ただ、信じていないだけ。それは男に限ったことではないけど……。


 女の間で必ずと言っていいほど、会話に出現する。


「好きな人いる?」

「恋人いる?」

「エッチしたことある?」


 中学生時代にもあったが、職場でもある。正直、そんな会話に意味があるのだろうか。どうでもいいことのように思える。他に考えることはないのだろうか……。ただ自身のことを話さないことで、ありもしない噂を勝手に……噂……女たちの人間関係を保つ潤滑油なのだろうけど。


 私に対する噂の一つを否定する。私は処女、じゃない。一度だけ……それも16歳の時。

 一年遅れで高校に入学したけど、すぐに嫌になり、居候していた伯父宅でも色々あって、自虐的状態……伯父と大喧嘩した日に家出をした。行く宛は母の友人の弁護士さんの所だけだったのに……


「かづきちゃん、私、今東京なの。ごめんね。今度の土曜なら会えるよ」


「力丸さん、忙しいのにごめんなさい。また連絡します」


 当てがなくなり、小雨の夜の三宮で途方にくれていると、二人の警察官に補導された私。


「かづき、ちゃん?」


「つ、土屋さん」


 偶然にも母の会社で働いている男社員が気づいてくれた。大学新卒で入社した彼とは、母主催のBBQで一度会ったことがある。彼も私も覚えていた。とても優しくて誠実な兄のような印象を持っていた。


「すみません、知り合いの娘さんなので」


 彼が警察官と話してくれ、私は解放された。


「どうしたの?」


 当然の質問。


「……家出、してきた」


 迷ったが、誤魔化す余裕も意味もなかった。困ったような表情の彼。


「大丈夫です。友達の家に行きます」


 お礼を言って立ち去ろうとした私に、声をかけてくれた。


「行く場所があったら、ここに一人でいないだろ?!……しょうがない。今晩は俺のアパートに泊まりな。俺は同僚のとこで寝るから。その代わり、明日帰って伯父さんとちゃんと話し合うこと。逃げたって何も解決しないからね」


 彼の厚意に甘えることにした。この時は精神的にも参ってて、異性の部屋にドキドキとかそんなものはなかった。正直、疲れててすぐに休みたかった。土屋さんに申し訳ない気持ちと感謝はあったけど、それ以外はなかった……なのに……

 彼のアパートに向かってる途中、電話している相手。「今晩泊めて欲しい」と同僚へ。


(女だ)


 私も一応、女。話し方、嘘の内容からして、


(同僚じゃなく、彼女!?)


 変な勘だけが働いた。


 

 

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