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(2)不純な親戚

 

 事件のショックが大きく、心理的支柱をなくした私は、高校受験に失敗。

 神戸市内の伯父宅で生活を始めていた。死んだ母も喜ぶと思い懸命に勉強し、翌年希望校に合格。入学してみた……が、常識のない先生らとバカをやっているクラスメイト、そして何より生活を共にしている煩わしい伯父に嫌気がさし、三ヶ月程でフェードアウト。


 伯父宅を出、小学生の時から優しく接してくれた親戚、「いつでもおいで」と声を掛けてくれた明石市でパン屋を営む母の従姉妹宅へ。……優しいのは最初だけだった。

 二ヶ月もしないうちに徐々に態度が変化。高校にも行かず、アルバイトもせず、家事を手伝っていた私に、飯代や酒代を要求する主の男、洋服や装飾品などをせがむ男の妻、ゲームソフトやマンガ本をねだる中学生の息子。


 ある日、この夫婦の会話が耳に届いてしまう。


(えっ!? 私のことを心配してたわけじゃないんだ。お金が欲しかったんだ……)


 母が私に遺してくれた遺産が目的だったことを、この時知った。

 そう、母の遺産額――この頃には一部だが、2億円余が私名義の通帳に入っていた。手続きは全て、母の友人の弁護士さんが行なってくれている。伯父も承知の上だ。だが額が額だけに、弁護士や伯父から他に口外しないよう厳重に言われている。ただ母の生命保険や遺産が入ることなど、親戚の誰もが分かっているはず。それを狙ってきたのが、この夫婦だったのだ。


 お店の経営が思わしくなく、現地から神戸か尼崎の良い立地に店舗を移転する計画をしていた。それも私の、金で。昔から母に援助を求めていたようだ。

 借金がいくらあるかなど、どうでも良かった。“信頼”というものが失せた。この日から夫婦の顔を見るのが怖くなった。家事手伝いも減り、外出も減り、部屋に閉じ篭るようになっていった私。食事は、時々外出する際に即席麺やスナック菓子、ドリンクを大量に調達し、稀にコンビニの弁当などで済ませた。

 そんな私の態度に疑問を感じていたおばさんは、部屋扉の外で優しいコトバを掛け続けていた。が、その偽善振りに怒りを感じた私は、ついに言ってやった。


「放っといて。どうせ金が目当てなんやろっ!」


 と。


 それ以来、この夫婦の態度は私に冷たい。

 電気代、トイレ使用代、洗濯機使用代、冷蔵庫使用代、最後には部屋代など、こと細かく請求してくるようになった。口喧嘩するたびに、私は物を投げ壊し、ガラス窓を割り、いわゆる家庭内暴力気味へと発展。その度に、修理代を請求される。

 次第に、自分自身にも愛想を尽かし、生きていることが嫌になり、母の元へ行きたいと、ある日の夜部屋で、迷いなくカッターで手首を切った。この時は切り傷浅く、数時間後目を覚ました。シーツをお漏らし程度に血染めしたくらいで、意味を成していない。


 ただ気づいたことがある。“神”がいないなら、あの世などもない。死んでも母と会うことはない、と。母の仇をとることが私の目標であり使命だと、本気で思った日となったことは事実。

 この出来事は、ここの夫婦は知らない。血で汚れた布団を、「生理による出血で汚れたから」……新品に交換したことにした。私の金で。


 不思議なことに、この夫婦から「一度話し合いましょう」というコトバはあったものの、「この家から出て行け!」というセリフを浴びせられることはない。考えるに、店舗移転計画を諦めていなかったのだろう。「私がいなければ遂行できないから」と、17歳になる私でも予想がついた。

 だから、わざと店舗に客のいる時を見計らい、夫婦目の前で100万円束を叩き付け、


「お店の移転費用の足しにしてください。今までお世話になりました」


 そのままキャリーバック一つで、その親戚宅を出て行く。

 後々に耳にしたけど、私が出て行った後半年もせず、パン屋は閉店したらしい。移転計画を知った近所の常連客が減った、つまり見放され、ジ・エンド。少しやり過ぎた感もあったと思ったが、あの夫婦ならどこにお店を出そうと失敗しただろう、と予想がついたから、後悔はなし。


 


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