(18)変心
「もし仲間にならないのなら、いつでもあなたを活動できなくすることが出来る」
完璧に脅しである。つまり、「私を殺す」、と理解した。
「我々は警察ではないが、賛同してくれる警察官や団体職員が数多くいる。これは遺族の闇を拭い去るため、法で裁くことができない許しがたい犯罪者を永久に葬り去るため、法の及ばない方法で密かに活動している組織だ。邪魔をする者は、残念ながら活動を止めてもらうことになる」
彼の眼を凝視しながら、考量した。
(拒否すれば、殺される? ……ふん、死ぬことなんて怖くないよ。祓毘師になって八年、ずっと自分が復讐されることを覚悟して悪人を葬っているんだ。死ぬ覚悟がなきゃ、やってらんない。
人を殺した奴らがのうのうと生きている、それが許せないだけ。……ん? 『活動できなくする』とコイツは言った。もしかして、私の力を奪う気? 建毘師……コイツらの仲間にいるのか? ……警察といい、賛同しているやつが多いなら、建毘師がいてもおかしくない。力を奪われるのは困る。力のない私が生きている意味などない。殺人鬼と同じ空気を吸って生活するなど、反吐が出る。絶対それだけは嫌だ。……仲間になって活動することにデメリットはない。いや、コイツらの考えのほうが私には合ってる。特に問題ない)
決断した私がいた。結論を伝える前に、ふと思ったことを訊ねてみた。
「今回のように、祖父、源翠にも依頼したことがあるんですか?」
である。会うことを試みたことはあるらしいが、祖父が会うことはなかった、との返答。
「分かりました。やることが同じであれば、お手伝いします」
彼らの仲間になる意思を伝えた。条件として、自身の選択であるため、どんなことがあっても実父には近づかないで欲しい、とお願いした。実父は力を持っていないし、父の家庭を守りたい、という想いが私なりにあった。一緒に住んだことはないが、たった一人の家族は父のみである。警察を使って私を探し当て、ここに連れてきたこの組織。実父に近づくことなど雑作もないだろう。だから念を押した。
スキンヘッド男は承知してくれた。
「伊武騎家との関係を突然解消するのは危険であるため、両立できるなら両立し、できないのならば徐々に減らしていけばいい」
というアドバイスに納得し、了解した。
彼らの組織は、通称「NS」。真の正体を知る由もなかった。目的が同じであればそれで良かった……と安易に考えていた。祓毘師としての活動自体が変わるわけではない。時々コンビを組む直毘師が変わるだけだ。
この日以来、徐々に私は彼らとともに活動することになる。
連絡方法は組織専用SNSがメイン。パソコンとスマートフォンに対応している。文字、画像のみならず、3分制限の音声や30秒制限の動画も送信可能。活動指示、連絡、報告のみで使用するものだ。プロフィールなどない。顔写真や名前など不要。個人に与えられたIDコードで呼び合う。私は『L13(エル・サーティーン)』になった。
NSからの初要請は、スキンヘッド男と出会ってから三週間ほど後のこと。
初めてその彼と出会い、コンビを組むことになった依頼となった。
―― To.L13
10051530
KAMOWAKE
W L13&N3
Mr.○○○○ 20
・・・・・・・
OK or NO ――
届いたSNSでの指示。先日あのホテルスウィートルームで簡単に説明を受けていたが、今回初めてということもあったからであろう。その後に説明らしき通知も受信。
―― L13へ
10月5日15時30分
賀茂別雷神社
ダブルス L13とN3
(N3は13歳男)
○○○○氏 20歳代
・・・・・・・
OKですか? ――
依頼人に会う日程、場所、シングル(単独活動)かダブルス(コンビ活動)か、依頼人の名と特徴および依頼要因の概略が記載されていた。承諾する場合OKを、未承諾の場合NOをクリックし返信する簡単なシステム。
すぐにOKを出す私だったが、一点不安が……。
祖父が若い時からの付き合いである、現在の伊武騎グループ総帥、伊武騎咲ユリの孫、伊武騎碧の変わりになる直毘師が当時13歳、中学一年生ということ。大学生の碧よりも、さらに年下であることに不安を感じたのは、正直なところだ。
ただ、この不安を払拭するのに、たった一度のコンビで、充分だった。
何度かコンビを組んでいるうちに彼の持つ高度な術、そして冷酷さと闇に惹き込まれていく自分がいた。彼とのコンビは、私を成長させるとともに、変心させたのだ。




