(17)組織の一員へ
天寿を全うした祖父のコネクションを引き継いだ、27歳の頃の私。ある変化が内外ともに起き始めていた。
直毘師である大学生伊武騎碧氏とのコンビで行なっている、加害者への復讐代行活動は続いていた。
ある時、ニュースになっている、それ以外の加害者死亡のことが気になり始めたのがキッカケ。彼と行う依頼遂行は殆どが病死。しかし、ネット記事では加害者の自殺や不慮の事故などが、起きていたからだ。
事実の自殺や事故なのかもしれないが、奉術師によるものではないか、と考えるようになった。他に奉術師がいることは祖父から聞いていたが、その“他”に会ったことがない。全国情報を持っている碧氏に、その“他”に会えないのか訊ねるが、奉術師の居場所は知らないとのこと。実際、私の居場所さえも知らない彼。というより、どこに住んでいるかなど、興味がないようだ。
そんな思いを抱いている時、機会が向こうから飛び込んでくる。
祖父の教えを守り、長年バレないようにしていた……つもりだった。が、愛車BMW・X6は目立ち過ぎた。高級車RVであるため、国内での販売台数は知れたものである。住所を探し出すことなど、彼らには雑作もないことだった。
パートを終え帰宅すると、黒い乗用車が家の近くに停まっている。品川ナンバーであることに疑問を抱いた私に、降りてきた二人の男たちが見せた警察手帳。結果、同乗して神戸へ連れて行かれることになった。その場所は……
ホテル・ラ・スイーツ神戸ハーバーランドのスウィートルーム。
(警察署ではなく、なぜ……?)
警察を装う二人の案内で、不安と不信を抱きつつ部屋へ。そこに、スーツを着こなした紳士的な二人――ソファーに座っている30歳代のメガネをかけた男と、大きな窓から外を眺めているスキンヘッドの50歳代の男がいた。
メガネ男に誘われソファーに座り、そしてスキンヘッド男と対面、話しをすることに。
調査済みの私の過去の出来事、豊富な資金、祖父のこと、これまでの闇喰の成果について、などファイルされた薄い資料を見ながら、わざわざ報告してくれた。警察であれば、その程度の情報を入手することは容易なのだろうが、
「なぜ自分のことを調べているのか? 警察が私に何の用なのか?」
当然の如く、訊ねる。奉術師による復讐殺人は、逮捕し立憲することは不可能であることを、私は知っていたからだ。
「我々は警察ではない」
男の意外な応え。
「では誰なんですか?」
問い質すも、
「今はまだ教えられない」
と言う。
不安と不満のある私は、
「何のご用ですか?」
再び訊ねる。
「君の力を借りたい。手伝って欲しい」
それも意外な返答だった。
「報酬も準備している」
「報酬をもらってはいけない」、と祖父から忠告。かつ資金で困っているわけではない私は、報酬ごときに興味はない。
「どんなことを手伝うのですか?」
不安と不信が積もり積もってくる。
「その前に、なぜ君は祓毘師をやっているのかね」
逆に、スキンヘッド男からの質問。
人助けという意識より、「犯罪者を許さない」という意識が圧倒的に強い。母の事件は忘れられるものではない。
「殺人を犯した奴らを葬るためです。それが被害者の願いですから」
素直な気持ちを口にした。
男は、祓毘師らによって処理された加害者の命について、語り始める。私が始めて耳にすること、というよりこれまで意識になかった。彼が言うには、祓毘師によって亡くなる加害者は、病死なのか、自殺なのか、それで加害者の命が大きく違うらしい。
自殺者の命は闇と化し、自然界に戻ることは二度とない。命そのものを放棄したことになる。その者の闇は浮遊できず、その場所で永久に留まっている。俗にいう“地縛”である。
奉術師による病死である場合、寿命前での死であれば命は存在する。それゆえ、祓毘師らによって加害者が絶命しても、命毘師という奉術師により、人間的死後四十八時間以内なら蘇生させることができる、と言うのだ。つまり、自殺などの命毘師でも蘇生させられない状況にしなければ、蘇生の機会を与えてしまうことになる、と。
命毘師の存在については聞いていた。が、関わりのないものと思い込んでいた。私自身が処理した加害者を蘇生させることなど、許せるわけがなかった。
次の男のセリフは、すんなり受け止めることが出来た。
「伊武騎家らと手を組んでも、病死だけだ。我らと組めば、加害者自殺で処理ができる。被害者遺族のためにも、世の中のためにも、是非仲間になって欲しい」
だが、付け加えられたセリフには、心なしか身構えた。
「もし仲間にならないのなら、いつでもあなたを活動できなくすることが出来る」




