(16)伊武騎碧との出会い
幼稚で陽気でヒーロー気取りの彼を好きになれなかったが、彼の直毘師としての能力は素直に認めている。母の件で協力してもらったことにも感謝していた。だから今も尚、彼とコンビを組み依頼遂行することが、年に幾度もある。
祖父が手を組む直毘師は、伊武騎碧氏。
子供の頃から正確に依頼ごとを遂行する、大人顔負けの奉術師だったようだ。彼の祖母は鹿児島の資産家で直毘師の一人、父はリゾート系実業家、母はエステ&コスメ系実業家、らしい。
つまり伊武騎碧氏は御坊ちゃま。ヒーローものが大好きで、『弱き者を助ける』という正義感の強い少年である。直毘師である祖母、伊武騎咲ユリ《いぶきさゆり》氏と祖父は長い付き合いで、碧が5歳の頃には現場に関わっていたみたいだ。
私が母の復讐を依頼した日。そう、祖父と父との運命的な出逢いの日――出雲の伊努神社で会っている時も、近場で待機していた伊武騎家の二人。少年は当時13歳。私が神社を去った後、祖父と共に刑務所内にいる主犯の処理を実行してくれた、ということだった。
祖父は父に対する闇喰――命と闇を吸引。その後、父ともそこで別れ、伊武騎家が所有するヘリコプターで岡山へと向かい、ヘリポートから車で岡山刑務所へ。
刑務所付近に到着したのは、深夜0時過ぎ。
伊武騎碧氏は、祖父から父の幽禍(闇付き命)を受け取る。そのまま闇儡することもできるらしいが、私ほど闇を抱えていない父の怨度(闇の大きさ)では十分でない、と判断。付近を浮遊している既に亡くなっている者の怨度の高い幽禍を選び、闇のみを父の幽禍に付着させた。
対象となる囚人が、施設内のどこにいるかなど窺い知ることはできないが、依頼人の闇が対象とする囚人と共鳴し引き合うため、容易に発見できるらしい。碧氏の制御によって囚人へ闇儡(体内に注入)する。依頼人の闇とプラスした闇を一緒に。
闇儡を受けた対象者は、特に指示をしていない場合は、一時間もしないうちに症状が表れるという。そして予定通り、二日後、愛する母に手を掛けた主犯は死んだ。
私はネット上のニュースで知った。
祖父の闇喰と伊武騎碧氏の闇儡によって、私の復讐依頼は成就されたのだ。




