(10)三つ目の条件
「三つ目……とても大事なことです。……依頼人は“命をかける”必要があります。“命をかける”とは、依頼人の寿命を頂戴する、ということです」
「寿命? ……あげる?」
「はい、寿命を頂戴します。正確には寿命を決めている“命”を頂戴します。一種の生命エネルギーとお考えください。闇を吸引するために、その方の命と一緒に吸引することになります。闇のみを取り出すという都合の良いものではない、ということです。
頂戴する命の量は、闇の深さ、怨度によって違います。吸引する闇に適する命が減るということ、つまり寿命が短くなるということです。……だから“命を懸ける”のです。依頼人の意志が強固でなければ、私の力は発揮されません。……と言っても、生命自体を奪うことはありませんので、ご安心を。
人には寿命がありますが、いつ絶えるか事前に分かることではありません。しかし、私たちは命の量によって寿命の長短を察することが可能です。闇を吸引する際、寿命が十分でないと判断した場合、残念ながら闇の吸引を控えさせて頂きます。つまり復讐もできない、ということです」
キョトンとしている自分がいることを疑わず、ファンタジー小説を読んでいる夢物語感は否めない。現実味のない話しに反応する言葉が、見つからない。
「驚くのも仕方がありません。ただ、そのくらいの覚悟がなければ、復讐は諦めた方がいいと思われます。この三つの条件を依頼人が同意しなければ、この話しはなかったことになります」
予想を超越する三つ目の条件に戸惑いを隠せなかった。単純に、金銭で依頼するとばかり思い込んでいた私。仲介男に言われた“命をかける”覚悟とは“勇気”という意味で捉えていた。違った。“寿命を減らす”というのだから、信じがたい条件だ。
この時の戸惑いは条件を受け入れるか受け入れないか、ではなかった。寿命を吸い取る力がある、闇で復讐する、という白髪男の話しを信じ、そして任せていいのか、である。私の希望は、同じ時代、同じ時間に生きている憎き犯人に復讐することであり、抹殺すること。念願というべきその希望を本当に果たしてくれるのか、疑念が残るのは当然であった。
過去に起きていたであろう『加害者連続死亡事件』の記事、犯人が捕まっていない理由、仲介屋の話し、そして目前の白髪男が示す三つの条件……頭の中を整理し始めた。そして……
(信じる、信じないは、私次第だ!)
ここまで来た私の決意は、体中に力を注ぐ。
「大丈夫です。お願いします」
返事を聞いた白髪男は、後方に立つ連れの中年男へ視線を変える。無言で首を縦に振る中年男。
(何かの合図なのだろうか?)
視線が戻り、さらに詳しく教えてくれる彼。
「私の力は、“闇喰”と呼ばれています」
「やみく? ……」
「そう、“やみく”です。依頼人の命と同時に、怨みや苦しみなどの闇を吸引します。全てではありませんが……」
「その命や闇を、どのようにしてお渡しするのですか?」
「手を握るだけです。痛みなどはありません」
「…………」
「その際、依頼人の寿命を確認します。寿命の少ない人から頂戴することは掟として許されていません。もし間違えば、その場で息を引き取る危険性もあるのです」
「…………」
「それから、“命を懸ける”ということに、もう一つの意味があります。それは、純粋であるかどうかです。言葉では“命をかけます”と言っておきながら、そこに心がない場合、私の力は発揮されません。命も闇も吸引できないのです。私利私欲、エゴが強い依頼人、例えば利権、地位、名誉などが絡んでいる人の命と闇は、私たちにはどうすることもできません。“闇喰”の掟とお考えください」
少々難しい掟だが、覚悟は決めている。その程度の内容なら驚くほどではない。しかし……
彼の次のコトバには驚き、ショックを隠しきれなかった。いや、怒りの情へと変わっていった。




