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第5章 A棟201号室 星本実莉さん(9)

「お部屋の壁紙は、屋根の修理が終わってから貼りかえるってお伺いしてますけど」

 私たちの突然の訪問に、星本は戸惑いの表情を見せた。

「いえ、今日はそのお話じゃないんですよ、星本さん。いえ、森戸志穂未さん」

 憲二郎の言葉に、星本実莉、いや、森戸志穂未の顔が凍り付く。

「人違いです。失礼します」

 そして、私たちを押しのけてドアを閉めようとした。

「ちょっと待ってください」

 直人がドアを両手でつかみ、閉めさせまいと必死で声を上げる。

「どうか、兄の居場所を教えてください。ご存知ですよね?」

「兄って?」

 志穂未の力が緩む。

「吉田幸一です」

 すると、志穂未が諦めたようにドアから手を放した。直人が続ける。

「母が生体肝移植を必要としているんです。でも、誰も合わなくて。兄なら血液型も一緒ですし、母を助けることができるかもしれない。だから、一刻も早く兄の行方を知りたいんです」

 志穂未は下を向いて黙り込んでいたが、やがて覚悟を決めたように顔を上げた。

「実は、私も幸一さんがどこにいるかわからないんです。不動産屋さんで別れて以来、一度も会っていなくて。携帯電話も料金未納で使えなくなってますし、もう連絡の取りようがないんです」

「そうなんですか」

 直人の顔に落胆の色が浮かぶ。

「本当にごめんなさい。私のせいで、こんなことに……」

 志穂未は消え入りそうな声でそう言い、頭を下げた。

「横からすみません。そこで探偵事務所をしている山下といいます」

 私たちの背後から、山下が顔を出す。

「幸一さんから受け取った、郵便物か何かありませんか?」

 すると、彼女はゆっくり顔を上げた。目に涙がたまっている。

「郵便物……。現金書留なら、これまでにも何度が届いてますけど、住所も電話番号もデタラメで」

「それでも、何か手掛かりはあるかもしれない。お手元にありますか?」

「ええ。ちょっとお待ちください」

 志穂未は目元を指でぬぐいながら、部屋の中に入っていった。食卓の上に置かれていた現金書留を手に、こちらに戻ってくる。

「これ、今日届いたものですけど」

「ちょっと失礼します」

 山下が、手を伸ばして受け取る。中を改めると、そこには1枚の写真が入っていた。幸一の顔がアップで写されている。

「お金と一緒に、こうやって自撮りの写真を入れてくるんです。元気だってことを伝えたいんだと思うんですけど」

 志穂未の説明を受け、山下が写真をじっと見つめる。そして、再度、封筒を眺めた。

「郵便証紙が貼られていますね。それに、写真には風景も少し写り込んでいます。これなら、何とか居場所を特定できるかもしれません。――これまでに届けられた他の封筒とか写真、残していらっしゃいますか?」

「はい。捨てることができなくて、全部取ってあります」

 志穂未がうなずく。

「それも、すべて見せていただけますか?」

「わかりました。持ってきます」

 志穂未が再び部屋に入っていくのを見て、山下が直人に向かってほほ笑んだ。

「少しだけ時間をください。きっと居場所を突き止めてみせますから」

「本当ですか?」

 直人が不安げに尋ねる。

「うちの探偵さんは優秀なんだぜ。任せとけよ」

 憲二郎が直人の肩をポンと叩いた。

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