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状況開始、銃芸部!!  作者: 矢壱
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麗華VS智乃

 咄嗟に階段の方へと三人が逃げる。

 鉛弾ではないので壁などはえぐれない。それでもむせ返る様な火薬のにおいと、空中に放り出された薬きょうが、地面に落ちて甲高い金属音を響かせている。

 それぞれ四十発を撃ち尽くしたところで様子を窺う。

 現在赤川高校の戦闘不能者数は十三人。今ので三人を倒していれば逆転できる。

 足にでも五発当たっていてくれと願う文人だが、ガチャッ、という音が三つと銃口が三つ出てくる。


 その先は当然発砲である。

 文人と麗華が今度は身を隠す。

 パーティションを貫通してこないのが唯一の救いであった。

 隠れている間に、二人はこそこそと相談し文人は自分のアサルトライフルの弾倉の残りを麗華に投げ渡す。麗華は代わりに自分のハンドガンを床に置き文人に向かって滑らせる。


 彼は持っているアサルトライフルを手放し、滑ってきたハンドガンを受け止める。

 文人はホルスターに収まっているハンドガンを右手に持ち、代わりに麗華の銃をそのホルスターに収める。

 銃声は止んでいないが文人だけが飛び出した。

 銃口が全て文人に向くが、引き金を引かれる前に左右に揺れながら疾走し距離を詰める。


 そして最後は、スライディングで相手の視界から消えるように距離を零にする。

 足元をすり抜ける瞬間に撃ち込み、狙いもロクに定まっていないが数発は当てる。

 そして、相手の視線が一秒に満たなくても、完全に足元に向けられれば麗華が動く。

 気付いた時には三人のうちの二人が倒れるが、残る一人は後ろの麗華への注意を捨て文人を仕留めに動いた。

 相手はアサルトライフルを捨てハンドガンを取り出す。

 文人も素早く体勢を立て直し、右足に力を込め地面を蹴り出す。

 直接の接触と攻撃はルール違反。そのぎりぎりのラインは銃身での迫り合いである。


 今、銃口を向けられた方はかわせない。必然的に迫り合う形になるが、銃がぶつかると同時、文人は自分の銃から手を離す。それによって力のぶつかる先を失った相手の体勢が前のめりに崩れる。

 文人は素早く麗華の銃を抜き、敵の胸部に全弾を撃ちこんで決着を迎える。

 そして一息つく間もなく、倒れている敵を安全な所まで運ぶ。

「いつの間にあんなアクロバット出来るようになったの?」

「色々練習してんだよ」

 麗華に言われ、文人は照れたように笑う。

 祖父との稽古の後に銃芸に関する本を書店で買い漁り、徹底的にルールなどを頭に叩き込んだ後、身に付いている武芸を独学で銃芸の戦闘スタイルに改良していた。初の実戦でまぐれ成功だがそれが今だったのは僥倖だった。


「次はどうする?」

「上に行くわよ」

 短い会話だけで次の行動が決まる。

 いつ敵が飛び出してきても不思議ではない。視界を一点に留めないように動かし続ける。

 文人が四階のフロアを扉越しに覗きこむと、一番奥の椅子に座った智乃を視認した。周りには誰もおらず彼女一人だけに見える。

 智乃も文人に気付き声を掛ける。


「どうッスか? 私ラスボスっぽくないッスか?」

 素直に出て行く事はしまいと考える文人の目の前を麗華が歩いていく。

「他の人たちはどこかしら?」

「え、私のセリフはスルーッスか」

 言ってはいる智乃だが、大して気にしている風ではない。

 文人は慌てて麗華の背を追い、

「何やってんの、敵が隠れてたら」

と、麗華の腕を引く。


「少なくともこの階にはいないと思うわよ。アタシたちを倒すなら挟み撃ちがベスト、でもそれがない」

 だから今は安全だと言いきる麗華を信じて文人もフロアに足を踏み入れる。

「その通りッス。この階というよりは、既にこの建物にいないッスよ」

 そんなセリフを想定しているはずもなく、そろって小首を傾げる。

「本当ッスよ? 十七対十六で赤川高校が勝ってるわけッスから、私がやられても同点。どちらかと相撃ちでも問題なしッス」

 智乃の言葉に対し麗華は冷静に問う。


「どうやってこの建物から脱出したのかしら」

「もちろん企業秘密ッスよ」

「階段は一カ所だけだしエレベーターは動いていない。四階から飛び降りるのは考えられないから、アタシたちに見つからずに消えるのは不可能じゃないかしら?」

 そこまで言って麗華は上を指さす。

「上の階に居る、とか」


 そこまで話しても織り込み済みなのか智乃に動揺は見えない。

「上に行ってみるッスか? 仮に上にいるとして、何の対策もしてないわけないッスよね? 当然二・三年生もいるんで、二人が扉を開けた瞬間に蜂の巣ッスよ」

 麗華はこの状況の打開策を考える。

 明らかに智乃にとって会話は足止め以外の意味は無く、上の階に人がいたとして関係が無い。


 上にいるであろう赤川高校部員を倒しに向かっても、彼女の言う通り相手も待ち構えているだろう。下手に仕掛けて自滅するより静に任せる事も考えるが、現時点で上から物音ひとつしないのは狙撃が無い証拠。視認できない様にしているのか隠れているのか、もしくは本当に居ないのか。

 何個も考えが浮かび、しかし否定される。この時間さえも無駄にできないのに自分と文人が倒される事を危惧して踏みだせない。


 この場で出来る事はない。

「はぁー、負けたのかしらね。私はここで大人しくしてるわ。ごめんね文人」

 文人は何も言わず麗華の頭に手を置く。


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