新人狙撃手
緑制高校も一つの中隊は前進し三つの小隊は相手の小隊を追う。
文人は静を迎えに、来た道を引き返す。
既に後方では睨みあいから銃撃戦に発展している。そして交差点以外でも微かに銃声が聞こえる。
ビルの裏口で静と合流し、ポイントまで移動。
「ここから迂回すれば大丈夫だと思う」
小隊同士の戦闘に巻き込まれないように歩く。
作戦の第二段階プランCは、相手が複数に分隊した事を想定したプランだ。この場合、交差点を抑えるという優先順位を下げ戦闘を優先する。そして静が狙撃ポイントを変えながら狙撃を繰り返すというもので、相手の排除と斥候を兼ねる役割だ。
本来ならもう少し固まって動いている敵を想定していたが、現状での人数の少なさをカバーできる方法としては最適の判断といえる。
「この建物の二階からなら狙えそう」
無線からの情報で大まかな位置と敵味方の動きを予想し、適当な建物を選択する。この試合の前に美奈と奈月に狙撃手としての技術として教えられた一つだった。
「俺はここで見張ってれば良いの?」
文人は建物の前で見張り、狙撃中の静に近づく敵がいれば排除する。
「うん、ちょっとの間待っててね」
軽く手を振って建物に入る。
階段を昇り、最上階の四階で足を止め周りを見渡す。
四階には天井が無く、壁も静の膝より少し高い程の高さ程しかない。そこから北東の方角を見れば微かに動く人影が数人いる。
方向を定めてから、スナイパーライフルの銃身を壁に乗せ静は腰をおろし構える。本来ならうつ伏せの状態の方がより正確に撃てるが、建て膝の状態での射撃も訓練しているので問題は無かった。
「さて、早く援護しないと」
無線からの情報だと戦闘不能者は出ていないものの、やはり劣勢に立たされている事は明白だった。スコープを覗くと銃撃戦が鮮明に見える。静は慌てずに自分に確認する。
「息を吐きイメージする。相手の動く先、弾が通る道、自分の心拍に合わせ引き金を絞る」
照準をターゲットに合わせるのではなく、動きを先読みして照準にターゲットが入るのを待つ。
息を思いきり吸い、一人の男子生徒にターゲットを絞り息を吐きながら待ち構える。相手は一歩、また一歩と照準に足を踏み入れる。
照準とターゲットが重なる直前に呼吸を止め、ゆっくりと人差し指に力を込める。
飛び出した銃弾が相手の右即頭部を捉える。頭部へのダメージは反映されないので、よろける程度で踏みとどまるが、電子音と共に彼は自分の状況を理解する。周りも同じ結論に至り素早く反応した。
狙撃に警戒し回避に動く赤川高校。そこに緑制高校は追い撃ちを掛ける。
静の援護よりも前の段階で、劣勢なりに相手に銃弾を喰らわせていた事で、あっさりと数人を減らすことに成功する。
数分の間に相手をせん滅し終えた時、味方の一人が突然転んだように見えた。
静は周辺の断続的な銃撃音の中に一発だけの発砲音を聞いた。
「狙撃だ」
スコープと肉眼を使い、敵狙撃手の発見を試みる。が、それらしい建物に人影は無い。
相手は一撃撃った後、早々に場所を離れた事は想像がついた。悔しいが、もうこの場所からの発見は不可能だと悟った。
今やることは、相手狙撃手を追いかけることでは無く各地の戦場での援護。
静は無線で一言、この場所からの離脱を伝えるとライフルを担ぎ立ち上がる。一階まで降りると文人が立っていた。
「ごめんね。お待たせ」
「いや、お疲れさま。次行けそう?」
大丈夫だよ、と文人を促し北側で発生している戦闘を援護しに行く。
静は、戦闘中心地から四百メートルほど離れた使えそうなビルを見つけ出す。慎重にビル内を確認しながら狙撃ポイントを見つけ出す。スコープで下方を見れば既に乱戦が始まっており、敵を倒しながらも同時に味方も減らされている。
戦場をよく見れば前方、百メートルほどのビルに敵の狙撃手が見える。
近い位置からの確実な狙撃を選んだのだ。恐らく、敵狙撃手の静が到着する前にヒットアンドアウェイをするつもりだったのだろうが、自分がその戦場の流れを決めることへの高揚と恐怖で撃つ事に夢中になっている。
(ホントはもうあの場所から離脱してる筈なんだろうな。きっと一年生だよね)
静に銃を構え、スコープを狙撃手の頭部に合わせる。
慎重に素早く引き金を引く。
反動が右肩を強く押す。一瞬揺らぐ視界を立て直し、着弾点を見る。
そこには自分の失態にうなだれる敵が写っていた。
(私も気をつけないと同じ事になるかも)
地上戦の方も人数が減った事で落着きを見せ始め、撤退の流れになりつつある。
静は立ちあがり、ライフルを右肩に掛けその場を離れる。
そしてまた、次のポイントへ向かう。
北上しつつ迂回を繰り返し相手の背後に回る様に歩く。
「宮間さん、ちょっと待って」
言って文人は立ち止り、静の前に出る。
自分たちの周囲の音を敏感に察知した彼は、複数の銃声が近づいてきているのを聞いた。
「戦闘に巻き込まれる前にここから離れよう」
静は頷いてから、
「そうだね。多分位置的に東雲センパイの大隊だと思うけど」
そこに物陰から声がかかる。
「二人とも、こっちに来て」
文人は反射的に声の方にアサルトライフルを向ける。しかしそこには敵ではなく、本拠地にいるはずの麗華が手招きしていた。
「麗華ちゃん、なんでここにいるの!?」




