スタート
つかの間の休日を終え学校に向かう。
静の事も気になるが学業も疎かにはできない。気になりつつも本人から直接聞くまで授業に集中する。
無事に帰りのホームルームも終わり、教室が放課後特有の緩い空気に変わる。
「さて行くか」
文人は席から立ち上がり教室を出る直前、目の前を通り過ぎようとする静と目が合う。
「これから部活行くでしょ? 麗華ちゃんも誘って一緒に行こうよ」
麗華を迎えに行く途中らしい静に誘われる。
一学年にクラスはA~Eの五つ。A組には麗華。B組には文人。C組には静が在籍している。
「そうだね。麗華のクラスはまだホームルーム中みたいだから待つようかもね」
二人はA組の教室の前で待つ。
「そうだ、これ良かったら食べてよ。手作りで悪いけど土曜日のお礼」
ごそごそと静がカバンから取り出し手渡したのは、小さな袋に入ったクッキーだった。しかも、丁寧に可愛らしいリボンでラッピングも施されている。
「甘い物は大丈夫?」
「ありがとう。甘いもの好きだよ」
言って、文人はリボンを解きクッキーを一枚取り出して食べる。
口の中に広がるほのかな甘みと、オレンジの風味。見た目も丸や四角だけではなく、星型などもあり、店舗で販売していても不思議が無い程に完成されている。
「美味いよこれ」
そう言ってポンポンと二枚三枚と消費していく。
「そこまで喜んでくれると作った甲斐があるよ。今度マフィン作ったら食べてくれる?」
「良いの? 家で甘いもの好きなのは俺だけでさ。肩身狭いんだよね」
文人は会話の合間にも五枚目のクッキーを頬張る。
するとそこで、A組から椅子を引く音と号令が聞こえ、生徒が次々と廊下に出てくる。その中に麗華の姿も見えた。
麗華は静と文人を見つけると歩み寄り、申し訳なさそうに眉を下げる。
「随分待たせちゃったわね。先に部室に行ってても良かったのよ?」
「大丈夫だよ。一人じゃ無かったし」
ねっ、と文人に話しを振る静。
頷きながら、最後のクッキーを食べ終えた文人は満足そうにしている。
「さっきから思ってたんだけど、何食べてるの?」
麗華は不審そうに文人の手元を覗き込む。
「これだよ。良かったら食べて」
文人と同じクッキーが入った袋を静が渡す。
「すごい美味いんだよコレ」
美味しさを適当に伝える文人を横目で無視する。
「ありがとう。これ手作りよね、家でゆっくり頂くわ」
クッキーが砕けてしまわない様にバックの中にそっと仕舞う。
そこで、文人は静に聞かなければいけない事を思い出す。
「ところで、入部の許可が下りた理由ってなんだったの?」
すると静も忘れていたのか、慌てて説明する。
「一昨日文人くんの家に泊めてもらう時、麗華ちゃんとの写真送ったのを覚えてる?」
二人は黙って頷く。
「その写真が決め手になったみたい」
中学生時代にあったと言う人間関係を両親が考慮し、入部に難色を示していたが、友人と写っている写真を見た事で安心感があったのだと言う。静の兄の援護もあり、入部に納得したのが事の顛末だった。
文人と麗華もその話を聞いて安堵した表情になる。
「それじゃ部活に行きましょうか」
麗華たち三人は、部室棟の階段を昇り三階の銃芸部の部室へと向かう。
部室のドアを開けると、中には数十人の人数が集まっていて、一年生の姿もある。
「やっと来たね。これで本日は全員そろった」
三人を確認したサクラが嬉しそうに微笑む。
「一年生は七人全員が入部だから嬉しいよ」
立ち話が思いのほか影響したらしく、最後の登場となってしまっていた。
三人は遅れた事を謝罪するが、サクラはそんなことはどうでもいいという素振りをする。
彼らが部室に入ってきたのを確認したサクラが、一呼吸置いてから宣言する。
「今日からこの場にいる全員で一年間を頑張っていくよ!!」
それに続いて全員が、おー! と声を上げ、今年度の緑制高校銃芸部が始まった。




