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状況開始、銃芸部!!  作者: 矢壱
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文人の稽古

 部屋の中に朝日が少し入り始め、静はうっすらと目を開けた。そこに見える天井は、自分の部屋の白色では無く木目が写る。


 携帯電話で時間を確認すると朝の六時、寝起きの冴えない頭を無理やり回転させ思い出す。

「そうだ、ここ文人くんの家だ」

 軽く寝がえりを打とうとするが体中に激痛が走る。普段使っていない筋肉を酷使した付けが回って来ている。


 目に涙を浮かべながら悶えていると微かな寝息が聞こえてくる。

 静は、隣に麗華が寝ていることも思い出し、そっと首を横に向ければ可愛い寝顔がある。静の視線がくすぐったかったのか麗華も目を覚ます。

「麗華ちゃんおはよう」

「おはよう静」

 互いにふわりと笑い、上半身を起こし会話を続ける。

 一通り会話に花を咲かせ終わる頃、

「そろそろ布団を片付けましょうか」

 麗華と静は布団を畳み、身支度を整える。


 それが終わった頃、誰かがドアをノックする。

「二人とも起きてる? 朝ごはん持って来たよ」

 麗華がドアを開けると、開けた隙間から良い匂いが入りこんでくる。

「おはよう文人。朝ごはんは嬉しいけど何で部屋で?」

「気を使わないで食べたほうが美味しいだろうってさ。これ食べ終わったら昨日の続きを考えよう」


 おにぎりとみそ汁、おかずを運び入れて、三人で朝食を囲みながら過ごす。

 そして一通り食べ終えて一息つき、さて昨日の続きを考えるかと三人が真剣になった時、静の携帯電話が鳴る。

「もしもし、うん、え? ……うん」

 通話ボタンを切る。

「なんか私、銃芸部に入っても良くなったって。お兄ちゃんが昨日から両親を説得してくれてたみたいで……」


 話を聞けば、静が家を出てから両親と兄が話しあい、無理をしないことを条件に入部に納得したらしい。

「詳しい事とか聞かないとわからないし私は帰るね。このお礼は今度するから」

 月曜日に必ず話すと言って、慌てて帰り仕度を始める静。

 結局麗華も帰ることとなり、平日の朝より慌ただしい朝になった。


「お邪魔しました」

 静は頭を下げる。

「お邪魔しました」

 簡潔な挨拶をする麗華。

 文人は帰宅する二人を外まで見送り、部屋ではなく道場へ向かう。

 道着に着替えて準備運動をする。ストレッチに十分を費やし竹刀を手に取り素振りを始める。


 身体を動かせば色々な事を振り払えるかと思っていたが、一向にそうではなかった。頭を巡るのは入部テストの失敗だった。

 許されたとはいえ失敗は失敗。麗華に言われた部活での貢献とは、試合で活躍して貢献しろという意味なのは文人にもわかっていた。

 しかし、今まで全く縁が無かった銃芸というものに対し、自分に何ができるのか答えが出なかった。


 竹刀を握る力が一層強くなる。

 空を切る音だけが響く道場に人影が現れた。

「どうした文人、雑念を払え振り方が雑だぞ」

 祖父の言葉で素振りを止める。

「あー、じーちゃん今暇? 暇なら相談があるんだけど」

 祖父は何も言わずに文人の傍に胡坐で座る。文人もその場に座り向きあう。

 そして文人は昨日あった入部テストの事を話す。

「なるほどな、それで自分には何ができるのかを考えている、と」

しかし、文人の返事を待たず祖父は立ちあがり壁に掛けてある竹刀を取る。

「来い」

 言って中段に構える。文人も稽古としてそれを受ける。


 稽古といえども文人は一度も祖父に勝ったことが無い。幼い時ならいざ知らず、高校生になった最近でさえ勝てないでいた。それは筋力的なことでは無く、圧倒的な技術と経験に負けていた。

 数度竹刀を打ち合わせ、鍔迫り合いになっても祖父に隙は無い。一度距離を開けて間合いを探る。


 息を切らせながら文人は目の前の相手と対峙する。暫く睨み合いが続いていたが、文人は一瞬の隙を見逃さず前へ出る。

 二人の竹刀がぶつかり、文人がさらに力を込めて迫り合おうとした瞬間、祖父の竹刀と身体が後方へ下がった。

 鍔迫り合いのための勢いが消えなかったので文人は前のめりに転倒する。

 膝を着く孫の即頭部に軽く竹刀を押しあて、祖父の勝利で稽古が終わる。


「精進が足りんな。ちょっと普段しない動きを見せただけで簡単に引っかかる。慣れた相手としか組んでない上に勝つ執着が無いからだ。お前は大会に出ないからピンとこないだろうが、同年代はどうやったら強くなれるかを必死に模索してる頃だろう」


 文人は黙って聞いている。

「十数年の人生で初めて出会った戦闘系スポーツで、自分にできる事を作り上げるには時間を掛けるか、それに秀でた師を見つけることだ」

「そんなん言われてもなぁ」

「なら、作り上げるんじゃなくて応用に切り替えるべきだな。お前には俺が教えた武術の体捌きがあるだろう? それと銃芸の基本を組み合わせて強くなればいい」

 文人は何かを考えるように視線をさまよわせていたが、具体的に出来る事が見えたのか視線が一点に定まる。

 その孫の様子を見て、自分の役目を果たした祖父はそっと道場を後にした。



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