テスト終了
「ハックション。寒い、雨降ってんのにジャージだけってのが冷えるんだろうな」
両手で自分を抱きしめながら非常階段を降りる文人。
未だに雨は降り続き体温が奪われている。しかし雨音と雷とで自分の足音は消えるので満更悪いだけでもない。
何故、文人だけが単独で行動しているのかと言えば、部長を倒すのが目的だった。
麗華の作戦では、二階の廊下を占拠し銃撃戦を行う。隙を見て文人だけが一階に降りて部長と相対すると言うものだった。
二階を選んだ理由は、準備段階で物音に気付いて相手も銃撃戦の準備をしてもらうため。
もう一つは三階ではなく二階を使用することで相手に作戦の意図を不明瞭にするためだった。しかし、どれをとっても確証があるわけでもなく、今のところ順調と言うだけだった。
「このまま一階に降りてどこから侵入しようかな。『文人の判断に任せるわ』なんて麗華には言われたけど、さてどうするかね」
考えてみたものの、正面玄関から以外の良い作戦など浮かばないまま一階に着く。そしていくら考えても、それ以外の結論が見えてこないので諦めて正面玄関へと向かう。
非常階段の真横は敵の本拠地、見つかればそこで終了の可能性もあるが、敵本拠地内のどこに何があって誰がいるのかを確認するために、ガラス窓に近づき中の様子をうかがう。
我が目を疑い、一度呼吸が止まる。
そこには完全にリラックスしながら、椅子に座っている女子部員と、その横に立っている部長の二人がいた。
「本拠地から動けない部長と護衛……なのか? あれで良いのか」
ひとまず二人以外に人は確認できなかったことから、正面玄関から入っても安全という結論に至る。
見つからない様にほふく前進で窓の下を通過する。
なんとか正面玄関までたどり着き、胸をなでおろす。
「ここからなんだよなぁ。相手は二人、あの様子でも俺が教室に入った瞬間撃たれるよな」
うーん、と腕を組んで考え込む。
そこに麗華から無線が入る。
『文人、今どこにいるの?』
「今正面玄関に着いたとこ。相手本拠地には部長と護衛が一人だった」
『そう、こっちには八人、これで十人全員の位置を確認出来たわね。それで、突入方法は決まった?』
「今考え中、何か方法はない?」
『じゃあ時間も無いし手早くいきましょう。選択肢は二つ、音や物で陽動するか、直接乗り込むか、よ。どちらにしてもチャンスは一回だけ』
どうする? と問いかける声に文人は迷わなかった。
「直接乗り込む」
『ふふ、だろうと思ってたわ。今なら好きなタイミングで突入しても大丈夫よ。さっきの借りを返してきなさい』
敗走したことを借りと言っているのは理解した。
続けざまに無線が入る。
『俺たちの分まで借りを返しておいてくれ。頼んだぞ』
仲間からの言葉に気合が入る。
自分の役割を果たす為に文人は廊下を歩く。弾倉を確認し、イメージを働かせる。
先程見えた位置から動いていなければ、扉を開けて十一時の方向に銃を構えれば立っている部長がいる。ならば開けた瞬間に全弾撃ち尽くせば当たる。そう考えながら近づく。
二階の銃声が遠くに聞こえる。
ゆっくりと銃の撃鉄を起こす。
教室の前に立ちドアノブに触れ、呼吸を整える。
覚悟を決め、一気に扉を開く。
身体を教室内に滑り込ませ銃口を向ける。向けられた二人は驚きながらも腰の銃に手を掛ける。
文人は照準すらまともに付けずに部長に向かって撃ち続けるが、数発撃つ間に二人の応戦が始まる。
お互いの間に遮蔽物は無く、最初の数発で部長を仕留められなかった文人に銃弾が飛んでくる。
文人の身体に二発目の銃弾が当たるのと、終了を告げる放送、文人のでたらめに撃ち続けていた最後の銃弾が偶然にも部長の頭部に当たったのは同時だった。
放送から顧問である野坂の声が聞こえる。
『入部テスト終了。一年生は二・三年生の指示に従って行動するように』
しかし、文人には野坂の言葉は雑音でしかなかった。成功した嬉しさで、撃たれた痛みなど無かった。そして見つめる先には倒れている部長の姿と、無線でやり取りをしている先輩の姿。
一通り話し終えたのか文人の方へ近づいていく。
「惜しかったね。あと少し位置が低ければボクに当たってたよ」
文人は目の前にいる女性の先輩が何を言っているのか良くわからなかった。




