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状況開始、銃芸部!!  作者: 矢壱
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状況開始

「リタイアは二十三人で確定だろう。残ったのが七人っつーのは少ないな。十五人くらいを予想してたんだが」

 室内を照らす蛍光灯の明かりより、さらに明るく光る雷にもたいした反応を見せず、帰って行く人数を数えながらつぶやく夏彦。

「一年生たち大丈夫かな。ちゃんと人数が減った状態での作戦とか立ててるかな」


 最初の銃撃戦でリタイアが続出するのは例年通りのことながら、二十三人も辞めていくのは残った七人には、それなりの精神的にも肉体的にも負担があるだろうと思いながら、教室に置かれているテーブルに両手を伸ばし、突っ伏した状態のまま喋るサクラに、美奈が覆いかぶさるように上に乗ってじゃれつく。

「大丈夫じゃない? 完璧は無理だろうけど頭フル回転で何とかするでしょ。それにしてもさっきは見事に突撃してきたわよね」


「あれにはボクも驚いたよ。誰かの指揮があったからだろうけど、勝つことを考えき過ぎて目の前の餌しか見えてなかった結果だね。あと、苦しいから退いてよ」

 サクラはテーブルを両手でパタパタと叩きながら抗議する。

 仕方なくサクラの上から退きながら美奈は問いかける。


「この後はどうする? 状況を見て考えるって言ってたから、私たちまだ聞いてないんだけど」

 サクラは起き上がり目をつむる。首を左に傾けて一分ほど考え、逆再生の様に首を元の位置に戻し目を開く。


「今の一年生の状況で、ボクならまず指揮者を変える。変えたうえで何処かの教室等に籠城する。相手が向かってこなければ制限時間が助けてくれるし、向かってきたとしても防御は固められるから有利なんだけど……」

 その歯切れの悪さの理由を見透かした奈月が言う。


「だから言ったでしょ? 私たちの中から一人くらい一年生として中に紛れ込ませておけば情報に困る事も無かったのよ。テストなんだし別に誰も怒ったりしなかったわよ」

「でも、それだと何かズルイ気がしてボクは嫌だったんだよ」

 言いながら再度テーブルに伏せるサクラを横目に、物音に気付いた夏彦は廊下へと出ていく。


 しかしすぐに戻ってきた夏彦に、全員が疑問の視線で見る。

 夏彦はニヤリと笑い、

「サクラの予想は当たってるみたいだな。さっきからガタガタ音がするから気になってたんだが、どうやら一年共は二階の廊下に机を並べてバリケード作ってるみたいだ」


 その言葉にサクラは自信をつける。

「そっか。これでボクたちが乗り込むしか無くなったわけだね。じゃあこの後の指示をだすよ。ボクはここから動けない。夏彦は護衛ってことでここに残ってもらう。戦闘場所は恐らく二階、守りを固める一年生の制圧。まぁ後の事は美奈に現場の全権を預けるから、彼女を中心に一年生達と戦ってほしい」


 そう締めくくり、時間を見ればもうそろそろ約束の三十分を迎えようかという時間。戦闘前の空気は相手が素人だろうと変わりはない。

「もうそろそろ時間だよ。皆準備は良い?」

 針が三十八分を指した所で、黙って時計を見つめていたサクラが声を掛ける。

「一年生達に先輩の強さを見せてきてね。これが終わればボクたちと彼らは仲間だよ」

 時計の長針が八を指すとサクラが部長としての指揮を下す。


「状況開始!」


 その合図とともに美奈を先頭に八人は教室を出て走りだす。

 廊下を無音で走り階段へ向かう。

 階段に差し掛かると美奈が左手を上げハンドサインで後列を止める。止まる列の中から男子部員三人が抜け出し左側の教室に入って行く。美奈はそれを見届けた後、五人は一階から二階へ昇る。状態は常に低く保ち、銃は両手で持ち下段に構える。


 美奈は二階の廊下が少し見える所で再度止まり後ろを見る。そこには先程教室に入って行った男子部員三人が机を二脚ずつ抱えて合流している。

 作戦の意図は伝えているので頷くだけで全員が次の行動に移る。

 美奈は腰のあたりで左手の指を三本立てカウントする。指を一本ずつ曲げていき、最後に人差し指も曲げる。


 それと同時に机を持っている三人が飛び出し、机の天坂を非常口の方へ向けながら廊下に三脚ずつの前後二列を作り三人は前列に身をひそめる。

 一年生側は、非常口の前に陣取り天坂をこちらに向けた机を三段重ねで五列、ぎっしりと詰めるのではなく適度に隙間を開け、スムーズに攻撃できるように器用にバリケードを作っていた。


「やっぱりバリケード作ってるね。それに多分だけど指揮者も変わってる。さっきの指揮者ならこっちが飛び出した瞬間に撃って来ただろうけど今回のは冷静だ」

 そして、向かいにいる三人と後ろにいる四人、本拠地にいる二人に無線を飛ばす。

『予想通り相手は時間制限を狙ってる可能性が高いが、念のために一人は三階の人の有無を確認。残りは銃撃戦を開始する』

 偵察として女子部員の一人が階段を駆け上がり、美奈たちはそれぞれ机の前列と後列に隠れる。


 後で彼女が合流すれば、前後四人での布陣が出来上がる。

 しかし、その間にも目の前の相手は動かない。机の隙間から数人の影が見えるので、防御重視を徹底している。

『三階クリア。二階にいるのが全員と思われます』

 偵察からの知らせに答える美奈。

「了解。二階に合流して」

「どう思う? お姉ちゃん」

 美奈の隣にいる奈月が聞く。双子故か、幼いころから主語がない会話を振られても何を言いたいのかは見当がつく。

「わざわざ三階の部室を捨てて二階の廊下を陣取った理由でしょ? 退避する時なんかに上に行くか下に行くかの選択肢を増やす為だと思うけど、まあ、実際にやってみればわかるわよきっと」

 それもそうか、とお気楽な指向で統一する双子。

 二人は前を見据えて思う。

((さあ、そろそろ始めましょうか))


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