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状況開始、銃芸部!!  作者: 矢壱
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それぞれの会話

 全員にい行きわたった事を確認し、自分の手にもハンドガンを納める。銃の意外な重さに驚いている時間は無かった。少しでもスムーズに話が進むように感情を押し込める。


「まずは、弾倉と弾丸の確認。それと弾倉の交換も練習しましょう」

 麗華の言葉に従い、ガチャガチャと音を立てながらそれぞれを実行していく。

 しかし、聞こえる音は銃を扱う音だけではなく、会話による声も増えてきた。

 先程までは皆、一様に自分の友人としか会話が無かったものの、今や様々な所で会話が聞こえる。それは結束というには遠いが、この後の戦闘には必要な信用を築きつつある。


 部屋の雰囲気が和らいでいくのを感じ取った麗華は、自分の唇の端が微かに上がっているのを自覚し、気を引き締める。今、自分から積極的に話の輪に加われば、必要な話をする前に時間切れしかねないのでそれは避けたい。一歩外から眺めていると、三つのグループの会話が微かに脱線しているので、やんわりと注意を促す。


「話せる友人が増えるのは良いことだと思うけど、今は目の前の事に集中しましょう。 本番でミスしたら元も子もないわよ」

 言われて反省したように黙る一同に、言葉を付け加える。


「テストが始まれば、話しやすい雰囲気っていうのは武器になるわ。コミュニケーションがないままだと、不測の事態には対処できないわ。単に今じゃないってだけよ」

 微笑みながらもキッパリと伝える。


 異論、反論を浴びることも無く、麗華の指示のもと復習は続く。

「取り合えず、手元でできる事は復習出来たと思うけど、実際に撃つのはテストが始まってからしか試せないから、これは皆でフォローし合うしかないわ」

 その言葉には、どうしようもない悔しさと謝罪の色が滲む。


 それを察知した文人は「そんなことは皆言われなくてもやるよ」と言うために息を吸い込むがその瞬間、

「それは誰のせいでもないだろ。誰がどう悔やんだって変わんねぇよ」

と言い放たれる。

 誰が言ったのかはわからなかったが、全員の総意として室内にはっきりと響き伝わる。


 タイミングを外された文人は息を吐き、麗華はほんの少しの驚きによって言葉が出てこない。

 彼女の目の前にいる者たちは肯定の頷きを見せる。その光景に今度は微笑みを隠すことはしなかった。


「そうね、ありがとう。今は出来ることを確実にしていきましょう。テスト開始後、最初に銃を撃つのは自信がある人だけ。その後、自信の無い人に教え、最終的には全員での射撃に移ってちょうだい」


そして、

「じゃあ、これで銃の扱いの復習は終了だけど、これからが本番よ。次は合格に向けての作戦を立てましょう」


●●●


 一年生への説明を終えた夏彦は階段を降り、一階に拠を構える自分たちの本拠地へと向かう。

 朝から慣れない説明作業をした気疲れもあり、ため息交じりに一階の廊下を歩く。

 夏彦の靴音以外に聞こえるのは窓をたたく雨音で、次々に窓に張り付いては流れ落ち、その勢いは時間が経つ程に強くなっている。


 夏彦は二・三年生用の本拠地に着き、ドアノブを回して開ける。

「あ、お帰り。一年生はどうだった?」

 聞いてきたのは教卓の椅子に腰かける部長のサクラだった。

 入部テストの為の準備は数日前には完了し、全員がのんびりとした雰囲気を持ち、開始時間まで暇を持て余している。


「人数は三十人だから、例年と同じ位だな。その中に運動神経が良さそうなのが十数人、頭使いそうなのが二人くらいか。今年のは粋が良さそうだったな」

 夏彦は思い出すように告げながら、サクラに歩み寄り彼女の持っている部員専用の出席簿にチェックを付けて出席にする。


 全員の出席を満足そうにうなずきながら、サクラは質問を重ねる。

「じゃあ、今年は部員数増えてさらに賑やかになるかな」

「増えるどうか、それを今から確かめるんだろ。銃を撃ちたいって奴は大勢いるけど、自分が撃たれる覚悟を持ってる奴は少ないからな。痛みに耐えられる奴は何人いるやら」

 夏彦は軽く頭を掻く。そして自分の入部テストの時を思い出す。部屋にいる全員が入部テストを受け、皆同じように銃弾を喰らっている。その時の思い出が鮮明に蘇り全員が苦い顔になる。


 そこで夏彦は意図的に話題をそらす。

「で、配置場所と人数は変更なしで良いのか?」

「「うん、変更は無いよ。東雲」」

 二つの声が同じタイミングとセリフで重なる。

 声の方には、同じ顔を持つ双子の姉妹が並んでいた。

「一階の廊下の防衛に八人、本拠地に残るのは部長のサクラと副部長の東雲の二人ね」

 長めのポニーテールを揺らす三年生。姉の望月美奈もちづきみな


「今年の新人たちはどうなるかな。サクラの作戦に下手にハマったら全滅もありうるしね」

 短めのポニーテールを揺らす三年生。妹の望月奈月もちづきなつき


 奈月は発案者であるサクラを見る。

 入部テストは、新部長が作戦などの全てを考える伝統行事となっており、今年も それに習い、サクラが考えまとめた作戦を実行する事になっている。今回、スタート後に取る配置は、攻撃を捨て防御に全てを割り振ったその光景を見た一年生の反応と思考を見る意味があった。


「やっぱり、作戦変えた方が良いかな」

 自信が無くなったのか、サクラは視線を左下に向ける。

 今のタイミングで作戦の変更は齟齬や士気の低下も有りうる。

 夏彦は何かを思いつた顔になり、口の端をゆがめ笑う。

「なら、一年生相手に戦闘不能になった奴には罰ゲームを与えよう。腕立て伏せ百回な。それなら死ぬ気で動けるだろう?」


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