一年生の本拠地
「おい、最後尾の男女。ロッカールームにまだ着替えてるヤツいたか?」
男女ともに自分が最後であることを伝える。
「それじゃあ、今から一つ下の階の教室に向かう。そこがお前らの本拠地だ」
歩き出すその背中を一年生が次いで歩き出す。
階段を降り左に曲がる。
目的の教室は三階の一番端にあり、ドアプレートには『銃芸部』と書かれていた。
その部屋の中に入ると、中央には一メートル四方の机が置かれ、その上には部室棟の見取り図がある。窓際ににはホワイトボードがあり、一片の壁には端から端までロッカーが置かれていた。
夏彦は机まで歩いていく。
「ここは普段銃芸部の部室として使用しているが、今日はお前らの本拠地だ」
机のまわりに一年生を集め、今日二回目の説明を始める。
「この部室棟の各階の見取り図は好きに使っていいし、テスト時には部室棟にある机や椅子を使ってバリケード等は作っても構わんが、破壊だけはするなよ」
言って手元の資料に目を落とし、説明する項目を確認する。
「今から銃の扱い方を教える。一回しか教えないから、ちゃんと覚えろよ」
自分のホルスターからハンドガンを取り出し、扱い方の説明を始めた。構えてから照準を合わせ、引き金を引くまでの動作など基本的な事を教える。
一通りの事を終え、一呼吸置く。
「銃の使い方は以上だ。お前らの使う装備一式と銃は、ロッカーにそれぞれ入ってるから後で取れよ。あと、テスト開始時刻は十一時だ。校内放送で開始のカウントダウンをしてもらう手筈になってるから、それに従ってくれ。俺たち二・三年生の本拠地は一階の一番奥の教室だ。位置はこの部屋の真下だからな。間違えんなよ」
一呼吸を置く。
「一応これで俺からの説明は終了だが何か質問は?」
手は上がらず、沈黙だけがある。
夏彦は頷き、
「あと、三十分もすればテスト開始だ。アドバイスがあるとすれば、ちゃんと役割決めて、足並みそろえて行動することと、これはテストだって事を忘れるなってことだな」
頑張れよ、と言い残し夏彦は部室を出て行き、扉が閉まる重い音が響く。
夏彦がいなくなり、作戦会議が始まるかと思われたが、何から話せばいいのか? という空気が流れ、友人同士で顔を見合わせ戸惑う姿もある。
「時間が無いからアタシがし切ってもいいかしら?」
麗華が口火を切った事に対し、左にいる文人と右にいる静は声を合わせ、おおと感嘆の声を上げるが、麗華はそれを横目でそれぞれチラリと睨んで黙らせる。
「取りあえず、忘れないうちに銃の取り扱いの再確認をしましょう。その次に作戦の話、自己紹介なんかは時間が余ったらでいいわ」
それを聞いて、静がハンドガンと書かれたプレートがぶら下がっている、両開きのロッカーに歩み寄り手を掛ける。
開いた扉の中には、数十丁ものハンドガンが縦横何列にも納められ、劇鉄とグリップが静の方に向いていた。
静はその整列した銃を眺めてから、視線を左に向ける。
すると彼女は短い悲鳴を上げた。
何事かと集まる彼らに、静は無言でロッカーの扉の内側を指さす。指された方へ目を向けた一同も同じように驚く。
そこには、デフォルメ化された人間が銃らしきものを構え撃ち合っている絵が貼ってあった。しかも、ご丁寧にも打たれた方の人間からは血が噴き出している。
誰かがポツリと色々間違ってるだろ、とつぶやき、また誰かがデフォルメが逆に怖いし、銃芸って撃たれても血なんか出ないよね、と続く。
その絵をよく見ると、ただ撃ち合っているだけではなく説明文がある。
それは先程、夏彦が説明した弾倉の交換方法などが詳しく書かれていた。
「ま、まあ良いじゃない。記憶だけが頼りだったんだから、これがあれば確実に手順を追えるんだし」
そう言いながら、麗華は目の前にある銃を一丁づつ取り出して、後ろにいる人に渡していく。




