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稗田日記 〜稗田阿斗の日常〜

作者: 4771

オリキャラが主人公の東方二次創作小説です。

あと突拍子もないオリジナル設定ありますので苦手な方はお気をつけて。

第一幕



稗田家には『御阿礼の子』と呼ばれる子供が百年から百数十年単位で生まれる。

そして稗田家に代々伝わる「幻想郷縁起」を編纂している。

約1200年前から転生を続けている存在なのだ。

私はその10代目である。

名は稗田阿斗(あと)、年齢は15。

稗田の人間は皆、短命のため人生の殆どを「幻想郷縁起」の編纂に費やしていると言っても過言ではない。

私もそうであるからだ。

しかし私はこれまでの稗田とは違う部分がある。

一つ、上に記したように稗田家では御阿礼の子が百年単位で生まれる、しかし私は違っていた。

先代の9代目稗田阿求が亡くなったのは60年前と聞く。

つまり私が御阿礼の子として生まれるがはやすぎるのだ。

どういう経緯でそうなったのかは不明。

--そしてもう一つ、私は他とは異なっていた。

それは私が……私が…〝男〟だということだ…。

稗田で御阿礼の子として役割を果たすのは初代阿礼と当代である私以外は皆、女性なのである。

つまり私は初代以来初めての男の稗田家当主なのである………のだが……。

「阿斗様~!お着物をお持ちしましたよ~」

お手伝いの二人は身の回りのお世話を良くしてくれるのだが…。

「あの……これ女性用の着物ですよね?」

持ってこられたのはフリルやらの装飾がついた可愛らしい着物だった。

「あらら~私とした事が間違えたしまいましたぁ」

「いやぁ~ねぇ」

なんやかんや言ってるけど私にはわかる。

この人たちはわざとやってる!そうやって私で遊んでいるのだ!

「女性用でも女の子みたいに可愛らしい阿斗様なら似合いますよぉ」

「えぇ本当にお人形さんみたいに可愛らしいですものね~」

ぐぬぬ、確かに私はよくよく女性に間違われる…この前も知らない男性に告白された。

いやいや、そんなの関係ないよ私!?

何一瞬仕方ないか、とか思ったし危うい、私危うい。

ここは当主としてビシッと渇をいれなきゃ!!

「今日は約束があるんです!ちゃんとした服をお願いします!」

「えーえー」

「ぶーぶー」

「お願いですからぁ!」

「はーい」

そうして二人はそこはかとなく残念そうな顔をして普通の服を持ってきた。

ま、という具合に男であるというのに男として扱ってもらえない。

まぁもう慣れてしまったから良いんですけどね。

着替えを済ませた私はお茶を飲んでまったりとした時間を過ごしていた。

「………」

恐らく恐らくだが……。

そんな時間がぶち壊れるまで後5、4、3、2、1、ゼ…。

「阿斗ぉぉぉぉぉぉう!お待たせぇ~!」

……騒がしい声とともに現れたのは私の友人の本居鈴莉(すずり)である。

里にある鈴奈庵という貸本屋の孫で年齢は14で私より一つ下だ。

どうも先代の阿求と彼女の祖母本居小鈴さんが友人であったらしく昔から小鈴さんから色々と話を聞いていた。

鈴莉とは五歳の頃からの付き合いでいわゆる幼なじみというものである。

「阿斗~!早くいこうよ~」

「あ~ハイハイ今いくよ~」

鈴莉に急かされながら外出の準備をする。

お手伝いさん達が影からニヤニヤしているが気にしない。

「今日は何処に行くんだい?」

そういえば行き先を聞いていなかったな。

何処に行くのだろうか。

「今日は香霖堂に行くよ!」

「あぁあそこか。あの店は色々と珍しい物があるしね」

「出発~!」









香霖堂、人里の外れにある何でも屋。

店主の森近霖之助は半妖であるためなかなかの老舗である。

「お邪魔しまーす」

「どうもお邪魔させていただきます」

二人が香霖堂入ると霖之助の姿はなく妖怪が1人で本を読んでいた

「あれー朱鷺子さんだけですか?」

「あー…いらっしゃい。霖之助なら出掛けてるよー」

朱鷺子は本を置いて二人にお茶と茶菓子を用意して本を読みに戻った。

「霖之助さんはどちらへ?」

「さぁ?でも遅くなるって言ってたよ」

「そっかー………どうする?」

「う~む。仕方ない店主がいないのに店にいてもね……」

「うーん……」

予定が狂い悩む二人、何処へ行くかを思案する。

「そんなに霖之助に会いたかったのかい?」

朱鷺子が二人に尋ねた。

この二人はそんなにあの甲斐性なし眼鏡に会いたかったのか?と思ったからだ。

「いえいえお茶して面白いものがあったら買って帰ろうかと思ってたので」

「私は以前貸すと言った本を持ってきてて」

「ふーん、でもまぁ霖之助がいないからねぇ、売り物は売れないよ…ごめんね。けど今日は晴天だ、どっか他のところ行ってみたら?」

再度悩みだした鈴莉は閃いた!と言わんばかりに腕をポンと叩いた。

「そうだ!」

鈴莉は阿斗の腕を引っ張った。

「うわ、ちょっと!?鈴莉、何!?」

「阿斗!」

「何!?」

満面の笑みの鈴莉が行こうと言った場所は阿斗が考えてもなかった場所だった。

「太陽の畑に行こうよ!!」

「えっ!?ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」









どうしてこうなった。

どうしてこうなった。

どうしてこうなった。

雲一つない青空の下、さまざまな花に囲まれ私はお茶をしている。

誰と?もちろん鈴莉と…………四季のフラワーマスター………大妖怪…風見幽香!!……さんです、ハイ。

「阿斗?どうしたの?」

「どうもしてないよ……お菓子…美味しいね」

「うん!そーだね」

嘘です、頭の中ぐちゃぐちゃで今のこの状況に混乱しまくってます!目の前に置かれたお菓子…凄い美味しいんだろけど緊張で味がわからない!

「フフフ」

私を見て幽香さんがクスクスと笑う。

恐らくこの人は全部見透かしている、それで困っている私を見て楽しんでいる!

先代、阿求が書き記した記録による彼女の記述…危険度、狂暴性、戦闘能力の全てが最強クラス(移動速度を除く)!!

今はこうしてお茶をしているけど何をされるかわからない!なんとして鈴莉だけは守らねばならない!!

「あっ!幽香さん!お花見てきていい?」

え?

「ええ良いわよ、前来たときに気に入った花かしら?」

え?今なんと?この前?

「うん!奥の方だよね~?」

「ええ、そうよ」

え?え?

「さて…これでゆっくりお話できるわね?」

えー…えええええ…お、おわた…。

「とりあえず警戒をといでもらえない?」

「こちらも好きで警戒したい訳じゃないんですけどね…」

警戒なんてしたくないよ本当に…、けど何かあったらと思うとね…命に変えても鈴莉は守ろうと思ってるくらいの覚悟ですよ…。

「新しい稗田…本当に男なのね」

「ええ、まぁそうですね」

沈黙が続く…幽香さんはただこちらを見て笑みを浮かべているだけだ。

私は沈黙に耐えきれなくなり幽香さんに話しかけた。

「あのッ!」

「なにかしら?」

幽香さんは相変わらず笑みを浮かべこちらを見る。

「鈴莉とは……知り合いなのですか?」

「ええ、そうよ」

やっぱり……か。

「いつ頃から……」

幽香さんはニヤリとすると一息ついて話始めた。

「彼女と会ったのは去年の夏の暑い日だったわ」









太陽の畑、風見幽香が住み、四季折々の花が咲き誇る場所だ。

風見幽香…花を愛し花の為に生きる四季のフラワーマスターといわれる大妖怪である。

風見幽香はその日いつも通り花に水をやっていた。

いつも通り鼻歌混じりで花の世話をしていた。

「冷たい!!」

「あ?」

1人の少女がいた。

幽香を恐れ本来ならば誰もいないはずの畑に人間の少女がいた。

花を見るためにしゃがんでいたのか、幽香が気づかず水をかけてしまった。

「悪いわね…タオルをとってくるわ」

また人間がこんなとこにまで来るようになったか…。

幽香にとって人間の来客はあまり好ましくはなかった。

しかし。

………おかしい、なんだ?この気持ち。

普段ならば追い返す、人間は花を積み己の都合で花をからす……そんな人間が嫌いだった。

その考えは変わらない。

けれど……彼女は戸惑いの中に嬉しさを、喜びを感じているのに気がついた……。

あの人間の娘は純粋に花を好いて花を見ていた。

花に話しかけ。

花を思い。

花を愛す。

風見幽香は人間達は等の昔にそんな感情すら忘れてしまったと人知れず嘆いていた。

だが、眼前の少女はそうではなかった。

目を見ればわかった。

「タオルありがとうございます!」

「いえ、水をかけてしまって悪かったわね。何かお詫びをしたいわ」

「えぇ!!良いですよ!勝手に見ていた私が悪いんですし!!」

この娘と話がしたい………。

風見幽香はそう思っていた。

「………」

「では!失礼しました。また今度!!」

「待って!!」

「?」

「これからクッキーを焼こうと思っているの……一緒に食べない?」

「ふええええ!!!いいんですか!!!私、クッキー大好きなんですよ!!!!お言葉に甘えちゃおっかな」

何とか彼女を引き留められた………さぁ先ずは何を語ろうか……。

幽香は自らの胸の高鳴りを止めることができなかった。

「花は好きかしら?」

「はい!!大好きです!!!!」

娘の返事は単純な答えだった。

けれど幽香には一番嬉しい一言で一番聞きたかった一言だったのだ。

「ありがとうございましたー!!」

あっという間に時間は過ぎ去り夕日が沈みはじめていた。

「じゃあーねー!!幽香さぁぁぁぁぁぁん!!!」

「えぇ、また会いましょ」

二人は互いに手を振り別れを告げた。









私は幽香さんの話を聞いて呆気にとられた。

それと同時に笑いが込み上げてきた。

「フハハハ…」

私が笑ってるのを見て幽香さんはキョトンとした顔で此方を見ている。

当たり前だ、急に私が笑いだしたのだから。

「……そんなに面白かったかしら?」

不思議そうに私の顔を見て幽香さんは言った。

「イヤ、そうじゃないんですよ。ただ……」

「ただ?」

「本当に鈴莉らしいなって思いましてね。あの子は昔から花とかが好きだったんですよ、だからこの太陽の畑は鈴莉にとって宝箱みたいなものですかね」

幽香さんは納得した顔で「なるほど」と小さく呟いていた。

私は幽香さん特製の紅茶を飲んで一息つき幽香さんに私が笑ったもう一つの理由を述べた。

「それに……ですね…」

「?」

「幽香さんは良い方なんだなと思ったんですよ」

「ん?どういう事かしら?」

「幽香さんは本当に純粋に花を愛してるのですね…。以前、鈴莉が『花が好きな人に悪い人はいない』と言っててですね、それを思い出してその通りだなぁって思ったらさっきまで貴女を恐がってた自分が馬鹿馬鹿しく思えて笑いが込み上げてきたんです。幽香さんあなたは良い妖怪(ひと)だ」

「フフ、そういってくれると悪い気はしないはね」

「なんだか話してるうちに凄く可愛いげのある方だと思いました」

「可愛げって……私かなり年上何だけど」

そう言うと幽香さんは若干頬を赤めながらそっぽを向いてしまった。

「これは9代目の貴女に関する記述を書き直す必要がありますね」

私がそう言うと幽香さんは首をふり、私に優しく微笑みかけてきた。

「それはやめてもらえないかしら」

意外な事を言われた。

「どうしてですか?幽香さんは人里では危険視されています、私も話をするまでは貴女を危険な妖怪だと思っていました。ですが幽香さんはそんな方じゃなかった!だったらその事実を人里の人達に教えるべきです!」

幽香さんは優しい笑みを私に向けている。

けど、それは哀しさを秘めている笑みだった。

それを感じとった私は凄く胸が痛く、哀しくなった。

おもむろに幽香さんが口を開いた。

「私が………」

「え?」

「私が阿求に頼んだのよ……私についての記述を危険な妖怪と書いてくれってね」

「!?………ど、どうして…ですか?」

「人間は花を愛す心を忘れてしまった。それでも人間の中には鈴莉のように花を愛してる者もいたわ………でも、だからこそここに来てはほしくなかった」

「花を愛してるからここに来てほしくなかった?」

幽香さんは頷き話を続けた。

「昔……花が好きな人間の女の子がここに来たのよ。けど……その娘は私のせいで不幸になった」

「え…………」

幽香さんのせいで不幸になった?一体……どういう事だ?

「あの……それは……」

私が幽香さんに問いかけようとした瞬間。

急に胸を鷲掴みにされた。

「阿斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うぐぉぉぉぉぉ!!???」

な、な、な、な、な、な、な、な、な

「何をするんどぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ鈴莉!!!!」

「何って……見ればわかるじゃんスキンシップだよー!もみもみ」

「こんにゃスキンシップがあるくぁってダメ、やめ……お願い、あっうあぁ」

「ぐへへっへ、ここかね?ここが良いんかね」

くっ!!鈴莉めぇぇ……なんだこれぇ!なんか気持ちよく……。

「なるわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

鈴莉の後頭部に全力の肘うちを喰らわした。

「へぶしゃ!!!」

短い悲鳴をあげ鈴莉は倒れた。

よっし効果は抜群だよ!!

今の戦闘を見ていた幽香さんが呆気にとられていた。

「あ……幽香さん驚かしてすみません」

「い、いえ、けどあなたたち普段からこんなことしているの?」

「あ……はい。わりと日常茶飯事です」

「そ、そう貴方も大変ね」

「はい」

「確認するけど男よね?」

「男ですよ!!!」









幽香さんに別れを告げ私たちは帰路につく。

「まったく鈴莉は!あんな事をして!凄い恥ずかしかったんだからね!」

「ニョホホごめんごめんて」

反省してないな、完全に。

「……けどさ」

「?」

急に鈴莉が真剣な口調で喋りだしたので私は若干驚いた。

「やめた方がいいよ、あーいうの」

「あーいうの?」

「ハァ……」

うわ、鈴莉にため息つかれた!?

なんか、く、屈辱だぁ。

「幽香さんのことだよ」

幽香さんのこと?……はて何か粗相をしただろうか。

「阿斗さ、誰だって人には話したくない事はあるんだよ。私にだってあるし、阿斗だってあるっしょ?」

「………」

「それは人間も妖怪も同じ、幽香さんにだって話したくない事はあるよ。それを無理に聞き出そうとするのはいけないよ」

「………」

鈴莉の言葉に固まる私、鈴莉の言う通りだ。

私は単なる興味本意というだけで幽香さんから話を聞き出そうとしていた。

それは、確かにいけないことであると思う。

………ん?

待てよ……もしかして鈴莉(コイツ)め話を聞いていたのか!?

だからちょうどいいタイミングでのセクハラを……。

鈴莉は自分なりに幽香さんに気を使っていたんだな。

「………そうだな…今度は注意するよ」

「……」

「ごめん」

「ムフフ、それでよし!!」

私達は気付くと人里の鈴奈庵近くについていた。

「じゃあね阿斗~。襲われないように気を付けて~~」

「あぁ、じゃあね……」

……たく、鈴莉に説教されるなんて。

まだまだ精進が足らんね………。

さぁ帰って今日の日記でもつけよう。

今日という日を忘れないようにね。









第二幕



竹林の深く。

そこにある妖怪たちに人気の夜雀の屋台。

今日は二人の客が昼から酒を飲んでいた。

「あーーーーーーーー暇だぁ」

「暇ですねぇ妹紅さん」

「何かないのかい文」

「そう言われましても」

藤原妹紅(ふじわら もこう)射命丸文(しゃめいまる あや)、不死身の元人間と天狗の珍しい組み合わせの二人が屋台で暇であることを嘆いていた。

「あーそういや」

屋台の店主、夜雀のミスティア・ローレライが何か思い出したようである。

「永遠亭が温泉を作ったらしいよ」

「温泉ですか、ほうほう」

素早い手つきでメモをとりはじめる射命丸。

「楽しそうじゃないですか?妹紅さん」

「まあ…あの馬鹿ニート姫にしちゃ面白いこと考えたじゃぁないか」

「ここは行くしかないっすよ妹紅さん!!」

「あーそうだな!!うっし行くか!みすちーもどう?」

「良いねぇ行かせてもらおうかしら」

「ほんじゃ行くかね」

ミスティアも加わり不死鳥と鴉と夜雀の何とも奇妙な三人組が竹林の奥深く永遠亭の温泉へと向かった。









「温泉でも行ったらどうですか?」

と、言われた私は現在温泉へと向かうため竹林の中の永遠亭を目指す。

………かれこれ一時間はいるだろう。

迷ったのだ私は。

まぁここは迷いの竹林とも言われる場所であり行方不明者が絶えない。

現在、私がそれである。

「うーん困った……今日は妹紅さんもいないし……」

「阿斗じゃないか何してるんだい?」

「!?」

こ、この声は!

途方にくれている救いの手が差し伸べられた。

聞き覚えのある声、見覚えのある触覚。

「リグル!!」

リグル・ナイトバグ、虫の妖怪で私の親友である!

まぁ勝手に親友と思っているだけだが。

「道に迷ったのかい?」

「う、うん、そうなんだ永遠亭に行きたいのだけれど」

「永遠亭?もしかして阿斗も温泉目当て?」

「うん」

「奇遇だねぇ実は僕もなんだー」

おぉこれはついてる、リグルがついてるなら心配ない。

「よ、良かったら永遠亭まで道を……」

「もちろん良いよ」

流石イケメンはやること違う。

感謝してもしきれないな。

「じゃあ行こうか」

「そうだね」

やっぱりリグルといると落ち着く。

幻想郷は、特に私の周りは女性が多い。

そんな中に彼という存在はとても有難い。

リグルは唯一の『男友達』だからね!









リグル・ナイトバグには悩みがあった。

彼女はよく男に間違われる。

初対面の相手は10人中7人は彼女の事を男と間違える。

その度、自分の性別を伝えるのが面倒だった。

口調や髪型のせいだと周りは言うが彼女は直すつもりはなかった。

男に見られのは嫌だけど、今の自分を変えるのも嫌だった。

そんなある日、人間の少年と知り合った。

二人は直ぐ意気投合した。

のだが……。

「リグルはカッコいいね!」

なんだ……彼もか。

この人間も自分を男と勘違いしてるのか…。

いつものように男でないと告げようと思っていると。

「嬉しいな!私実は男友達って初めてで凄く嬉しいよ!!」

言えなくなった。

女なんて言ったら彼が可哀想だ……。

そう思ってしまった。

それから彼女は彼に女だとバレないようにしている。

彼の前では男を装っている。

慧音や妹紅には相談をし彼がいる時には女だとバレないようにしてほしいとお願いした。

「男に間違われるのが嫌だったんじゃないのか?」

妹紅に言われた。

その通りだ…男に間違われるのが嫌だ。

……けど友達に嫌われるのはもっと嫌だった。









リグルと竹林を奥へ奥へと進む。

でも……迷ってないよね?

「リグル……」

「なんだい?」

「いや…この道で本当にあってるの?」

そう聞くとリグルはニッコリと笑った。

「はは、信用ないなぁ。これでも僕は君よりも何十年も長く生きてるんだよ」

「そ、そうだよねリグルは頭も良いから、竹林の道も覚えてるよね」

そうだ、彼リグル・ナイトバグは昔は弱小妖怪と言われていたらしいけど今では『氷帝』、『闇姫』、『抂歌』とならんで『蟲王』と呼ばれ四天王と称されている。

彼等は妖怪の賢者から巫女とともに幻想郷の平和を守り管理する役割を任されている。

そう!リグルはとても頼れる友人なのだ。

「どうしたの?」

「へ?あーいやなんでもないよ」

どこかの誰かにむけて誰もが知っている幻想郷の常識を説明していた僕をリグルが現実に引き戻してくれた。

「そういえばさっき阿斗は僕が道を覚えてるって言ったよね」

「うん言ったね」

「実は僕が道を覚えてる訳じゃないんだ」

「へ?」

どういう事?も、もしかして適当に歩いてたの!?

「正確にはね、よしあった。……ホラここ見て」

リグルは一本の竹を指差した。

そこには赤い手拭いが巻かれていた。

「こ、これは?」

「これはね妹紅さんとてゐが設置した目印さ。竹林にたくさんあってね赤い手拭いがある竹を辿っていくと永遠亭に……ホラついた」

リグルに説明を受けながら竹林を歩き進めるといつの間にか永遠亭に着いていた。

「おぉ……やっとついた…」

「お疲れ様」

「ありがとリグル、君がいなかったらのたれ死んでたかも」

「はは、まぁせっかく着いたんだから中に入れさせて貰おう」

「う、うん」

やっとゆっくり休めるのか…良かっ……。

「うおらぁっxqxくぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁざ!!!!!クソニートがっぁあぁぁぁ!!!死ねおらぁっぁぁぁぁあっぁぁぁぁ!!!!!」

……………。

「ハハハハハ妹紅ったらちょっとオパーィを触ったりなで回しただけなのにぃ照れちゃってー!」

「うるせぇぇぇ!!!死ね!!!!!!!!!」

「ぎゃはっははは良いぞーニートもホームレスも頑張るウサー」

……っは!?意識飛んでた。

てか、これは何なんだ?

「これは良いネタです!」

「私BGMかわりに歌う!?ねぇ歌う!?」

「おい妹紅!他に客もいるんだ!止めないか!!」

「慧音は離れてなって!!!」

一体何が起きているんだ?

「姫ぇお止めくださいぃぃぃ」

「うどんげ、諦めましょう……もう無理」

「師匠!?諦めないで!!」

あんまりだ。

やっと……やっと休めると……そう思ったのに。

休め………。

休める………。

こんな………。

こんな状況で………。

こんなんで………。

「こんなんで休めるわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

私のその一声で永遠亭は静まったが、そのあと全員説教してやった。









「稗田阿斗氏、幻想郷の有力者達を一瞬で黙らせ一時間にわたる説教をする」

どうやら射命丸さんが先程の出来事を記事にするそうで………マジ勘弁して下さい。

「あのっ…記事に書くのはちょっと…」

本当にやめてほしいのだが…。

「えっー!!良いじゃないですか!!」

「う、うーん…」

「良い写真も撮れたんですよー!!」

「ふぇ!?………ふわわわ…!!いつ撮ったんですか!!!!」

「これがプロの仕事です」

射命丸さんはにっこり微笑んで言った。

「ところで」

射命丸さんがメモ帳片手に顔を近づけてきた。

ち、近い……この人は性格はアレだけど凄く美人だからこういう事されるとドキドキするなぁ。

「な、何ですか……?」

「今日はどうして永遠亭に?」

取材か、まぁ疚しい事もないし答えよう。

「ええと今日は……」

「性転換ですね!!分かります!!!!」

は?

「あの何を言って…」

「やはり貴方のその外見では男では生きづらかったのですね!!しかし私は男の娘というのもこのご時世、需要があると思うわけですよ!!!私は好きです!!!!でも阿斗さんがそうすると決めたのなら止めませんのでご安心下さい!!!!!むしろ応援しちゃいますからねー!!!!!!!手術頑張って!!!!!!!!」

「………………よ」

「へ?」

「手術何かしないよ!!!!!しませんよ、するわけないでしょうがっぁぁぁぁ!!!!!!!」

パシャ。

「ふぇ!?」

「良い顔が取れましたよー!阿斗さーん」

「………」

「でも笑った方が可愛いですよー」

………まったく、この人は…自由な人だなぁ。

この人にはいつも振り回されるな。

けど、何故か嫌いになれないんだよなぁ……。

「あやや?阿斗さん?どうしたんすか?もしやガチギレ……!?」

でもそれがこの人の良いところでもあるんだよね。

「あのっ阿斗さん?」

気付くと射命丸さんは半泣きでこちらを見つめていた。

「ええと何故に泣いてらっしゃる?」

「だって無視するから怒ってるのかとぉ」

「怒ってませんてハハハ」

「本当ですか?」

「はい本当です」

ホッとしたようすの射命丸さん。

「ん?」

私は机に置かれた射命丸さんのカメラに目をやる。

私はコッソリとカメラをとる。

射命丸さんは気付いてないようだ。

「射命丸さん!」

「はい?」

今だ!!

パシャ。

よし!撮った!!

……あれ?撮れ…て…ない!?

「あややや~?どうしたんですか?」

射命丸さんは私の後ろに立っていた。

「この射命丸の泣き顔を撮ろうなんぞ甘いですねぇアマアマですねぇ」

やはり幻想郷最速は違う……速い!!

てか、もしかしてさっきの嘘泣き!?

「まったく阿斗さんのように悪い子には……ククク」

鳥肌がたった。

悪い予感が!!

「オシオキですよぉ」

後悔しても、もう遅かった。

「あっ……あぁだ、ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

「おぉ…エロいエロい」

「何やってんだ文」

「おや妹紅さーん混ざります?」

「いや……いい、程々にな」

「ういーす」

「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇあ、ああああああああああああ!!!!!!」









「あー…酷い目にあった」

射命丸さんにあんなとこやそんなとこを揉みしだかれたせいで体が火照ってしまった。

さっさと温泉に入ろう。

そう思いながら廊下を歩いていると女風呂から三人の女性が出てきた。

「ん?おー阿斗じゃんか」

「魔理沙さん!…それに」

魔理沙さんの後ろに佇む少女。

「おいーす!阿斗っち」

「お久しぶりですね阿斗さん」

「琴波さん、舞織さん久しぶりですね」

霧雨魔理沙さん、元人間の魔女である。

60年前に人であることを止め魔女になったそうで現在の幻想郷で『最強』である。

如月琴波(きさらぎ ことは)さん、人間で魔法使い志望の魔理沙さんの一番弟子。

親しい人には『っち』をつけて呼ぶらしい。

博麗舞織(はくれい まおり)さん、当代博麗の巫女で血の繋がりはないが霧雨魔理沙さんの娘である。

「おーいどしたー?」

「あっ少しボーッとしてました。すみません」

また私、トリップしてた…。

何やってんのだ、私は…第一この人たち知らない人なんて今の幻想郷にいるわけない。

「お二人の修行ははかどっているのですか?」

「もちろんっすよ。この前も紅魔館で咲夜さんと試合して勝ったんすよ」

ふぇ!?

「私は美鈴さんに負けちゃいましたけどね、でも琴波ちゃんはスゴいんですよ、かっこよかったです」

「まったく舞織っちは~褒めてもチューしかでないっすよ」

二人が紅魔の二人と試合……しかも琴波さんは咲夜さんに勝った……!

「何か……スゴいですね」

そういうと魔理沙さんはにっこり微笑んだ。

「だろ?私の自慢の娘と弟子だぜ」

「えぇ、流石幻想郷最強の弟子達ですね」

「まぁ舞織の方の修行は紫も手伝ってくれてんだけどな」

私と魔理沙さんが話していると琴波さんが後ろから抱きついてきた。

「うわぁ!こ、琴波さん!?なんですか!?」

「いやー阿斗っちはいつ見ても可愛いっすねぇ食べちゃいたいくらいすっよぉ」

「何いってるんですか!!!私、男ですよー!!!!」

「イヤイヤ私は女っすからセクシャル的に問題ないっす!」

いや、その通りではあるが。

「その通りだけどダメでしょう」

「良いじゃないっすか、ね」

「助けてー!!!舞お……!?」

舞織さん?何顔真っ赤にしてガン見してるんですか!?見るの恥ずかしいけど興味深々!!的な!?

誰でも良いから助け……てか私、ここ来てセクハラしか受けてなくね?

「いい加減にしてやれ」

「ヘグシッ!!!!」

魔理沙さんが琴波さんに強烈なチョップを決め助けてくれた。

「大丈夫か?」

「は、はい大丈夫です」

「お前さんも温泉に入るんだろ?変なのに捕まらんように気をつけな」

貧民街か何かっすか?ここは…。

「それでは失礼します」

「おうまたな」

三人と別れ温泉に向かう。

ん?あれは……。

「リグル!」

「……っ!!…あ、阿斗、やあ」

「リグルも今から温泉に?」

「あぁええっと、うん、君も……かい?」

「うん奇遇だね!あ、良かったら一緒に入らない?」

「ふぇ!?あ、え、うーん、ええっとそのぉ」

リグルの様子がおかしい。

も、もしかして私と一緒に入りたくないの……かな。

「あ、嫌だった私は…後から入るし」

「イヤ違うって嫌なんかじゃないよ!うん!一緒に入ろう阿斗!!!!」

「ほ、本当!?よ、良かった…」

良かった…嫌われたのかと思った。

「じゃあ行こう!リグル!」

「う、うん」









リグル・ナイトバグは今世紀最大のピンチに陥っていた。

彼女は今から人間の少年と男湯に入るのだ。

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!ど、どうしよう。あ、阿斗とお、お、男湯なんて……。バ、バレる!?ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、どうしよ!!!!」

「リグル?」

「ふぁい!!??」

「どうしたの?なんか喋ってたみたいだけど」

「な、なんでもないよ!?独り言さ!」

声が漏れていたようだ。

マズイ、阿斗に正体がバレる、それは回避せねば…!!

などとリグルが思っていると二人は脱衣場に着いてしまっていた。

「…………どうしよ…」

入浴回避不可能。

……こうなれば。

「入るしかない…!」

リグルは幸か不幸か胸が小さい為、上はまだ問題ない?

……の為、問題は下である。

無論、生えていない。

タオルで隠して入るしか………ない。

「あーやっとお風呂だー!」

そう言って阿斗は服を脱ぎだす。

「ふぉわっ!!!」

リグルは思わず声をあげる。

「ど、どうしたのリグル?大丈夫?」

「うん!大丈夫!無問題(もーまんたい)!!!」

「そう?……んしょ」

「ほー………」

リグルはほぼ全裸になった阿斗を見て赤面する。

しかし、彼女は阿斗から目がはなせなかった。

「………す、すご……あ、あれ…あれが…」

「リ、リグル?」

「え、あ、はい!?」

「あんまり見られると恥ずかしいよ……」

「うおぉご、ごめん!!」

「リグルも早く脱いで入ろうよ」

「そ、そうだね」

リグルは服を脱ぎタオルで前を隠す。

不自然に思われないために恥をしのんで上は丸出しである。

「ぐうぅ…お、お嫁にいけない……」

二人は温泉に入った。

「うわー綺麗な星空だ」

星空を一望できる露天風呂である。

「リグルー!早速入ろうよ」

「そうだね…」

……温泉は気持ちい。

星空も綺麗だ。

文句の付け所のない温泉……。

昔みんなで入った博麗神社の温泉を思い出す。

だがしかし、ここは男湯である。

『上半身裸で男と一緒に男湯に入っているなんて……』

『しかも阿斗と…』

『阿斗と……混……浴……』

などと脳内でリグル自身もよくわからない葛藤がはじまっていた。

妙に恥ずかしくなりリグルの顔は赤く染め上がった。

「リ、リグル!顔真っ赤だよ!?のぼせたんじゃ!?」

「ふぇ!?だいじょーぶだよぉ……」

「全然大丈夫そうじゃないよ」

阿斗はリグルの二の腕をグッと掴んだ。

「きゃっ!!」

リグルは驚いて声を上げてしまった

「え、あ、ごめ…ん?きゃ?」

「!!!」

思わず女声を出してしまったリグルは立ち上がって脱衣場に向かって走り出した。

「えっリグル!」

しかしリグルは急激な頭痛と目眩に襲われた。

「あ……れ…?」

リグルはその場に倒れてしまった。

ゴンと鈍い音が響く。

どうやら倒れた拍子に強く頭をうったよである。

「リグル!!!」

阿斗はリグルに駆け寄った。

「リグル…!リグ……!!リグルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」









「リグル、本当に大丈夫?」

「うん…大丈夫だよ」

リグルが倒れて直ぐに阿斗は八意永琳を呼びに行ったためリグルの秘密はバレずにすんだ。

風呂で興奮しためにのぼせてしまった挙げ句に勢い良く脱衣場に駆けたため目眩と頭痛をおこし倒れた時に頭をうって気絶してしまったようだ。

「大分良くなったみたいね」

「ハイ、すみません先生」

「あまり無茶しないようにね」

「ハイ」

「今日はもう休みなさいな。阿斗君、あなたも帰りなさい。てゐに送らせるわ」

「はい…リグルお大事に」

「うん」

阿斗と永琳が部屋から出るとリグルはゆっくりと目を閉じ眠りについた。









リグルが目を覚ますと朝になっていた。

「うーん…朝か」

眩しい日差しが窓から射し込む。

「昨日は大変だったな~、本当に大変だった」

昨夜の反省をしているとドンドンとドアが叩かれた。

「おーいリグル~起きてっか?」

「この声……はーい起きてますよ」

ドアが開かれた。

「ウッス元気か?見舞いに来てやったぞー!」

「妹紅さん、わざわざすみません」

「良いってホレ、林檎持ってきてやったぞ」

妹紅は椅子に座り林檎を丁寧に剥きはじめた。

「なんつうか、お前も無茶するねぇ男湯に入るなんて」

「ハハハ本当ですよね」

妹紅にはリグルが無理をしているのが一目でわかった。

明らかに落ち込んでいた。

「お前が何に悩んで……てか十中八九阿斗の事なんだろうが、それについてお前がどう思ってんのかは知らんけど」

「……」

「阿斗はそれを知ってどう思うと思う?」

「……わかりません」

「私は…阿斗はどうとも思わないと思うぞ」

「え…?」

リグルが妹紅へ顔を向けた。

妹紅は真剣な顔つきでリグルを見ている。

「阿斗は…お前が思ってるほど小さい男じゃないさ」

「……」

「お前が今まで阿斗と築いてきたもんは本物だ、それに自信を持て」

「僕が……阿斗と築いてきたもの……」

「そうだ。それはお前が今、抱えているちっぽけな悩み1つで砕けちまう様なもんなのか?お前たちが築いてきたもんはその程度のもんなのか!?もし、その程度のもんだとしたら、そんなの捨てちまったほうがいい」

「……」

「お前の知ってる稗田阿斗はその程度の事でお前と築いてきた関係を断つ様な奴か?」

リグルは阿斗との思い出を胸に手をあて振り返っていた。

そして……。

「許して……くれますかね。阿斗は」

「あぁきっと」

「僕が…僕が…」

妹紅は優しくリグルの話に耳を傾ける。

「僕が……僕が阿斗のち○○○を見てしまった事を!!」

「ぶふぉう!!!!!」

リグルの告白を聞いた妹紅は勢い良く吹き出した。

「はぁぁぁああああ!?お前、おま、お前が悩んでたのって…えぇ…ええええええええ!?」

「駄目なんです!阿斗を見るとアレを思い出してしまって恥ずかしくなるんです!でも……それじゃ阿斗に失礼だし……」

「お、おう…予想以上に深い悩みだなぁ、オイ…」

「妹紅さん!!どうしましょう!!」

「………………」

「妹紅さん……?」

「………スマン、無理」

「えぇぇぇぇぇ!?悩み聞いてくれるんじゃないんですか!?」

「しゃーないだろ!予想の斜め上を行く悩みだったんだから!どう答えれば良いのかわからねぇよ!」

「う、うぅ」

再び悩み始めるリグル。

そんなリグルを妹紅は見てられなくなった。

「例え阿斗の顔を見て変なもんが脳裏に浮かんでもな…」

「……」

「阿斗の笑顔を思い浮かべろ!笑顔で見たくないもんぶっ潰せ!わーったな!」

「そんなんでいいんですか?」

妹紅はリグルを真っ直ぐ見つめ頷いた。

「……!ちょうど来たわね試してみ」

「ハ、ハイ!」

太陽の様な大きな花を持って歩く少年の姿がそこにはあった。

リグルが彼に本当の自分を知ってもらうには……。

「リグルおはよう!」

「おは、おはは、はよ、おは……べふぅ!」

「リ、リグルゥゥゥゥゥ!?」

「鼻血でぶっ倒れるて……おま………」

もう少し時間が必要のようだ。









三幕




「阿斗、おはよう!」

「おはよう鈴莉、おはようございます小鈴さん」

「おはよう…阿斗君」

今日は朝から鈴莉と小鈴さんが訪ねてきた。

と、いうのも今日は私達にとって大切な日であるからだ。

「お線香あげさせてもらうね」

「はい、どうぞ」

今日は、先代稗田阿求の命日なのだ。

毎年この日は人妖問わず様々な人達がうちに来る。

それも稗田阿求の人徳であろうか。

「うぃーす、邪魔するぜ」

「お邪魔します」

「お邪魔するっす~。うわーデケー家っすね」

戸が開かれ聞き慣れた三人組の声が響く。

「魔理沙さん、舞織さん、琴波さん、いらっしゃい」

魔理沙さんは毎年来てくれていたが今回は舞織さんと琴波さんも同行している。

「ん?おー!小鈴ー!」

「お久しぶりで、魔理沙さん」

「おぅ久しぶりだぜ」

「ふふ、変わってませんねぇ」

来て早々に魔理沙さんは古くからの友人である小鈴さんと談笑を始めた。

「舞織ちゃんに琴波っちだー!」

「うおー!鈴莉っちすか!」

「鈴莉ちゃんおはよう」

「おはよー!!!」

相変わらず鈴莉は大きな声で元気良く挨拶をした。

正直うるさいくらいの声だな。

「まったく騒がしい人達だなぁ」

けど…こんな日がいつまでも続いてほしいな。

「相も変わらず賑やかですね~」

「ですよね~」

………!?

「ふぉわぁ!?あ、文さん!?いつの間に」

「どうも~。う~ん今の声、良かったですね~、新聞で音を伝えられないのが残念です」

急に現れた文さんに驚き思わず変な声が出てしまった。

「そんなの記事にしたら本気で怒りますから」

「おぉ怖い怖い……まっ私も今日は仕事とかじゃなく個人的に阿求さんにお参りに来ただけですから」

「今、魔理沙さんと小鈴さんが向こうで話してますよ」

「おぉそうですか」

文さんは仏壇のある部屋に向かった。

「文じゃんかー!」

「どうも~」

魔理沙さんと文さん、小鈴さんの三人ってのも珍しい組み合わせだなー。

まぁ年長者達で積もる話もあるのだろうな。

「邪魔すんぞー」

また来客のようだ。

今日は休む暇は……ないな。

「はーい、どうぞー……って妹紅さん!それに慧音先生!」

「オッス」

「やぁ阿斗、お邪魔させてもらう」

「どうぞどうぞ」

「あぁ阿斗、これ今日の酒」

「ありがとうございます、みんな喜びますよ」

実は今日の夜の宴会…というか来て頂いた皆さんにお酒と料理を振る舞うので、その酒を妹紅さんに頼んでおいたのだ。

本当にありがたい。

私はお酒が飲めないので詳しくなく毎年、いろんな人に頼んでいるのだ。

「あら妹紅さん、慧音先生」

声を聞きつけ部屋から小鈴さんがひょっこりと出てきた。

「小鈴じゃないか!久しいな」

「えぇお久しぶりです」

「最近、店に行ってやれんで悪いな」

「いえいえお忙しいのですから無理せずに」

慧音先生嬉しそうだな……。

けど…何故か、とても寂しそうにも見える。

「おーい阿斗」

「はい?」

「私達で先、宴会の準備してようぜ」

「え、あ…でも先生は?」

「アイツにも色々あるんだ。今は小鈴と話させておいてくれや」

「は、はぁ…わかりました」

「わかったら良し!行くぞ」

バシィンと妹紅さんに背中を叩かれる。

痛い…とても…。









率直に言おう、妹紅さんの作る料理は凄く美味しい。

以前、慧音先生の家に招いてもらったときに食べたのだが本当に美味しかった。

長い人生経験の成せる業であると思う。

そして今晩の料理も妹紅さんが作ってくださるそうだ。

「なぁ阿斗、これ使って良い?」

「はい、どうぞ!お好きに使って下さい」

「サンキュ……阿斗、なんでそんなにやついてんの?」

「え、あぁ…だって妹紅さんの料理が楽しみで」

「そうか、じゃあ頑張るかね」

いやぁ楽しみだなぁ。

いや、でも客人である妹紅さんに少し申し訳ないな。

これは私もとっておきのアレを出しましょうかね。

アレとは、私が丹精込めてつけてきた漬け物の事さ!

実は私は漬け物をつけるのが趣味である。

ぬか漬け、浅漬け、たくあんなど色々なものがある。

今日はこれを皆さんに食べてもらうのだ!

「クククク…」

「何笑ってんの?」

「うわぉ!?」

また急に後ろから話しかけられて変な声が出てしまった。

そしてその声の主は。

「チルノ…!」

「よぅ」

四天王氷帝チルノ!な、なんで!?

「あのチルノ何故ここに?」

「ん?あー阿求に手だけ合わせたんだけど、やること無くてな暇だったから来てみた。」

「そ、そうなの…。あぁそっちで妹紅さんが料理の支度をしてるよ」

「何ぃ妹紅の料理!?よし、つまみ食いを…」

「聞こえてんぞチルノ」

「妹紅さん!」

「良いじゃねぇか一口くらい!」

「嫌だね宴会まで我慢してろぃ」

「ぐぬぬ……!」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて」

喧嘩でも始まりそうだったので止めた。

この二人の喧嘩は本当にヤバいからね。

「そうだな、とりあえずチルノ宴会で使う大広間を掃除してこい早く飯食いたいろ?」

「えー……しょうがないなー他の奴等も手伝わせるか」

「お願いね」

「へいへい」

ていうかもう日が沈みそうだなぁ。

今日は大変だったなぁ。

料理の準備を終えて大広間に向かう。

「おー集まってるねぇ」

本当だ……かなり集まってるな。

「ごきげんよう」

「幽香さん!いらしてたんですね!今日はゆっくりしていってください」

「フフ、そうさせてもらうわ」

幽香さんと話していると肩をチョンチョンと叩かれた。

「え?」

振り返ると四天王の一人、闇姫ルーミアと私の親友リグルだった。

「阿斗久しぶりー」

「やぁ阿斗」

「ルーミア!それにリグルも来てくれてたんだ」

「まぁなー」

「今日は大事な日だから」

「……ありがとう」

「私もいるわよ」

「み、みすちー!?」

「はいこれ八ツ目鰻」

「わぁありがとうみんな喜ぶよ」

四天王に幽香さん、他にも凄い人ばかりだ。

稗田阿求は皆に愛されてたんだな……。

「おい阿斗」

「魔理沙さん?なんですか」

「宴会の始まりの合掌しろよ」

「あぁ、そうでしたね」

「頼むぜ!今年はお前のおかげで去年より集まってんだから気張れよ」

「うぅん毎度ながら恥ずかしいな」

でも…まぁ気合い入れて行きますかね……。

よし!

「皆さん今日はお越し頂きありがとうございます。今日は存分に飲んで食べていってください。それでは、乾杯!」

『乾杯!』









稗田邸、屋根の上。

「おーい魔理沙」

「ん?いよぉ妹紅どした?……みんなは?」

「みんなはもう寝たよ。」

「そうかい」

「お前こそどうした?一人で月見酒か?」

「ん?んー……そんなもんかな」

魔理沙は妹紅に酒を注ぎ妹紅はそれを一気に飲み干し魔理沙同様月を見上げる。

かつて憎んだ美しく輝く月…。

不死の身になり気の遠くなるような時間を過ごした。

そんな彼女だから人の様々な悩みや痛み、苦しみを理解できると思っている。

魔理沙は60年前、大切な友人を亡くした。

幻想郷を守るため命を落とした友人の意思を継ぐため……彼女は人間を捨てた。

妹紅は時々、魔理沙に会うと自分がちっぽけに思える時がある。

魔理沙は友のため、世界を守っていくために人間をやめた。

けど自分は違う。

自分は…復讐のために……殺すために人間をやめた。

不死になるために人も殺した。

その復讐も今ではどうでも良くなっている。

これまで長い時を生き、人からも妖からもは化け物扱い。

幾度か出来た友も死んでいく。

全てが業火に焼き付くされていく。

今では灰となり思い出せもしない。

「おいどうした妹紅」

「えっ…あ、いや…なんでも……ない」

「そうか?顔色わりぃーぞ」

「……」

「………もうすぐアイツの命日でもある」

「そうだな、その時は行かせてもらうよ」

「おう、アイツも喜ぶ…」

「そうだな」

「文、お前もちゃんと来いよ?」

「へ!?」

「あややバレてましたか」

屋根の裏からひょっこりと文が出てきた。

「いたのかよ…」

「えぇ天狗があれくらいの酒で潰れるもんですかいな」

「流石というか…」

「んで、来るんだよな?」

「えぇ行きますよ」

「アイツはなんやかんや騒がしいのが好きだったから……今日以上に騒ごうぜ」

「良いですねぇ」

「うっし決まりだぜ……そろっと私も寝るかね~」

「私は一応見張ってるよ、変なのいたら起こすから」

「へいよ」

「私ももう少し起きてます」

魔理沙は屋根から静かに降り舞織の眠る布団に入っていった。

屋根に残る不死鳥と鴉。

「……なぁ文」

「何でしょう」

「私は……長いこと生きて、いろんな人と出会ってきた」

「……」

「私と違ってみんなは寿命がある……過去に出会ってきた人はみんな死んじまった」

「……」

「その人の事は良く覚えてる……けど…顔が思い出せないんだ。顔だけじゃない名前も声も…その人がいた事は覚えてるのに……何も思い出せない。…こんなんじゃいなかったのと一緒だよな」

「……」

「私は……恐いんだ!今が幸せで満ち足りて、そんな日が終わって全部…全部全部灰になって消えちまうかも知れない……私の記憶から消えてなくなっちまうかもしれない」

「……」

「そんな日が来てしまうかもと思うと私は恐いんだ」

「……」

「魔理沙は強いよな……私は違う。ちっぽけで弱い……」

「……確かに魔理沙さんは強いですね」

文はゆっくりとして優しい口調で続ける。

「彼女が背負っているものは私や妹紅さんでは背負いきれないほど大きいものでしょう」

「あぁ…そうだな」

霧雨魔理沙が背負っているもの……。

友人から受け継いだ意思、彼女を助けられなかったという後悔。

「……けどですね」

「え?」

文は妹紅を見つめ話を続ける。

「強くないなら、背負いきれないなら……分けあいましょうよ」

「え?」

「妹紅さんが少しでも楽になれるなら……私が貴女の背負っているものを一緒に背負います!妹紅さんが悩んでいるのなら私も一緒に悩みましょう!」

「文……」

「だから妹紅さん!元気出してください!大丈夫!天狗は長生きですから、みんながいなくなっても、妹紅さんがみんなを忘れてしまっても私が撮ってきたみんなの写真をいつだって見せてあげますよ!」

妹紅は少しだけ胸のつかえがとれた気がした。

「……文、ありがとな」

「いえいえ」

「うっし、じゃあさ今日の写真見せてよ!」

「はいっ!」









「んー、うーん……っう、頭痛い」

朝起きると激しい頭痛に襲われた。

そりゃそうだ昨日は大人たちに散々飲まされたからな~。

ほとんど記憶がない。

みんなまだ寝てるなぁ。

「ん?」

宴会に参加していた人達が雑魚寝しているなか台所から良い匂いがしてきた。

匂いにつられ私は台所へ向かう。

誰かな?

「あら、おはよう」

「ゆ、幽香さん!」

「お、匂いにつられて起きたか」

「魔理沙さんまで」

幽香さんと魔理沙さんが二人で料理!?

……なんか凄い絵面だ。

「あら?なにかしらその顔、私達の料理じゃ心配?」

「え!?いや、そんなわけでは」

「おいおい、阿斗ぉ私はこれでも一児の母、幽香は昔っから独り暮らししてんのだぜ?料理くらいできるっつぅーの!あ、まさか変なもんでも入れてるとか思ってるのか?」

「べ、別にそんな風に思ってませんよ」

「かっかっかっ冗談だ!まったくお前は面白いな」

「フフ」

ゆ、幽香さんにまで笑われた!?

地味に…いや、かなりショック。

「阿斗、みんなを起こしてきてもらえない?」

「あ、はい。わかりました」

寝ていたみんなを起こし朝食をすませた。

うん、幽香さんたちの作った朝食………………物凄く美味しかった。

「とても美味しかったです」

「かっかっかそうだろ?私が作った味噌汁はうまかったろ?」

「はい、それに幽香さんの作った料理も凄く美味しかったです!」

「…………そう、良かったわ」

「照れてやんの」

「魔理沙ぁ何か言ったかしらぁ?」

「いやぁ何も~」

「………ふふ」

ん?なんかヤバい雰囲気が?

「なぁ、久しぶりに………」

「そうね……久々に」

「…………ん?」

二人は駆け足で外に出た。

え?

何する気?

え?

「さぁ……スペルカードバトルだ!!」

「本気で行くわぁ」

「行くぜオラァ!!」

え?

スペルカード……?

「オゥラァァァァァァァァ!!!」

「フフフフハハハハハハハ!!!!!」

二人がスペル宣言をすると私の上空は閃光に包まれた。

…………綺麗だ。

……………って!?アカンアカンアカン!!!

こんな里の真ん中で!?

「うおー久しぶりだなぁ」

「アイツらマジだぞ?」

「チルノ!?妹紅さん!?あの二人ヤバいですって止めなきゃ!!」

「あ?良いの良いの。あれが、あれこそが幻想郷のあり方だ」

「そうそう」

「え?」

「周りを見てみろ」

え?

「………!?」

みんな、凄く楽しそうな目をしてる?

「何十年たとうが弾幕勝負の美しさは変わらないな。そして人達の美しいものを感じる心もさ」

「ひゅー妹紅さん今の台詞イケてますよ?新聞に載せて良いっすか?」

「や め ろ」

騒ぎにつられて鈴莉が出てきた。

「すごーい!綺麗!すごいね阿斗!」

「………そうだね」

な、なんかドキドキしてきた。

隣にいる鈴莉がなんかいつもとちがく見え……?

そ、そ、そんなこと、こと、な、な、ない!?

か、かわ、か………可愛い?

「可愛い」

「ふぇ?なんか言った?」

「え?いや、何も!?」

「ふーん」

危なっ!

聞かれるとこだったよ危なっ!

「ん?」

気付くと私の手は鈴莉の手に握られていた。

………って?

「なっ!えぇ!」

鈴莉は私の顔を見てニヤリと笑った。

「こういう時は黙って握りかえしてよ」

「あ、うん」

そうして弾幕はじける空の下、私は彼女の手を握りかえした。

…………ハズイ。









「一体この騒ぎはなんですか?」

私達が弾幕勝負に魅入っていると横から声がした。

ふと、声のした方を見る。

「げっ!」

まず声をあげたのが妹紅さんだった。

「四季映姫……」

「あ、四季さんに小野塚さんだ!おはよー!」

「お早うございます鈴莉」

「うぃー、おはようさん」

「急にどうしたのですか?」

もしや報告書に何か手違いが!?

地獄の説教タイムですか?

私死にますか?

「阿斗…物凄く失礼な事を考えていないですか?」

「い、い、いえ!?そげな事は」

「そうですか」

小町さんが四季様の隣でニコニコ笑っているのがわかる。

何がおかしいんですか?

「わざわざ、説教するためになんて来ませんよ」

見透かされてら……。

「昨日は忙しくて行けなかったので来たんですよ」

「え、では先代の命日だから?」

「はい」

四季様の返答に私は素直に喜びを感じた。

「ありがとうございます!どうぞ中へ」

「いえ、その前に」

四季様が上空の弾幕勝負を見つめる。

「相変わらず美しい」

四季様の呟いた言葉は歓声と弾幕の音で聞き取れた者はほとんどいないだろう。

唯一、隣にいた私と小町さんは聞こえていた。

「弾幕は幻想郷の花ですしね」

「いつしか無法者が蔓延り、その花は枯れていってしまったと思っていましたが」

四季様はとても優しく微笑んでいた。

「やはり美しいですね」

私も弾幕は資料で見たことのある程度だった。

それほど今の幻想郷にスペルカードルールを守るものが少ないという事である。

一つの文化の衰退とも言っていいものだろうな。

けど、忘れてはならないものなんだ。

「ゴホン、ところで」

わざとらしい咳払いのあとに四季様がこちらを見てくる。

「いつまで握っているんですか?」

「へ?」

握って?…………あ、鈴莉の手か!

私は鈴莉の方を見た。

すると鈴莉は顔を赤くしてこちらを見ている。

「阿斗」

「な、何?」

「私、阿斗のこと考えると、なんかおかしいんだ」

鈴莉がいつもと違って弱々しい声で話してくる。

顔は赤く、握られている手は温かい。

これは、もしや。

「私、阿斗のこと……す、す」

「鈴莉!」

「はう?」

私は鈴莉の額に手を当てた。

「あつい、やっぱり熱がある!」

さっきからおかしいと思ってたらコイツ熱があるじゃないか!

鈴莉を見るとキョトンとした顔で此方を見ていた。

「阿斗……」

「どうした?」

「アホ」

「え?」

「もう良いよ!アホ!」

鈴莉はその場から走り去った。

「え?ちょっ!?」

なんなんだ?一体?









何故か四季様に小一時間説教された。

「という訳で!」

「はい……」

「相手を思いやって行動しなさい!わかりましたか!?」

「はい」

「かっかっか!青春してんなぁ!阿斗!」

上機嫌な魔理沙さんが肩をくんでくる。

あの後、弾幕勝負は魔理沙さんの勝利で終わったからである。

一方で少し不機嫌な幽香さんである。

「本当に貴方は女の子みたいな顔なのに女心をわかってないのね」

顔は関係ないですよね、幽香さん。

「とりあえず鈴莉探してこい魔理沙さん命令だ」

「う、わかりました」

「いってらっしゃい」

四季様がそういうので「いってきます」と言おうとしたが、私は四季様に聞いておきたい事があったのを思い出した。

「あの四季様」

「なんですか?」

「質問なんですが、私は何故男なのですか?そして、何故私はこんなにも早く生まれたのですか?」

「………それは」

私は四季様をジッと見つめる。

「鈴莉を探して、やる事やったら教えますよ」

「そうですか………ではいってきます」

そして鈴莉を探しに向かった。









鈴莉がいつも隠れる場所、私はそれを知っている。

悲しい時、怒った時、かくれんぼの時。

鈴莉はいつも同じ場所に隠れていた。

彼女曰く、安心するから。

鈴奈庵の古びた書庫。

私は書庫の扉を開ける。

案の定、そこには鈴莉がいた。

本に囲まれた少し埃っぽい中で三角座りしてうずくまってる。

そして私の方を睨む。

その目は赤くなっていて泣いていたようだ。

私は鈴莉を見つけられて少しホッとした。

「見つけた」

「……」

「昔から此処はお前のお気に入りだものな、すぐに見つけられるよ」

「………此処は安心するから」

「心が安らぐってのは良い事だ、私も此処は好き……っていうか慣れた。昔は暗くて怖かったけど」

「阿斗はここ来るとよく泣きべそかいてたものね」

「うぐ、仕方ないだろ!」

「ねぇ、阿斗」

「なんだい?」

「ここでした約束って覚えてる?」

約束?

…………約束約束約束約束約束約束約束、えぇと、なんだっけ、ヤバイ忘れたかも。

「覚えてないの?」

「え、いや、覚えてるとも…………………蒲焼のやつ?」

「違う」

「あ、熊!?」

「違う」

「えーと、ブレイクダンスか!」

「うん、違う」

「蒲焼でも熊でもダンスも違うって事は……………………あ」

一つ、思い出した。

幼少期によくする約束。

とても大切な約束。

「思い出した?」

「う、うん」

「言ってよ」

「………お、大きくなったら、け、結婚しよう……ってやつ?」

「正解、よく自力で思い出したね」

鈴莉がニヤリと笑う。

「この約束言ったのって阿斗だったよねー?」

「……はい」

ゆっくりと鈴莉は私に近付いてくる。

「いや、でも、ほら小さい頃の約束だろ?ほ、本気する人なんていないだろう」

「本気にした人でーす」

「ふえ!?」

鈴莉は私に抱きつき、そのまま私にキスをしてきた。

頬ではない唇である。

そして私の初キッスであった。

「す、す、す、鈴莉さん!?」

「阿斗」

「は、はひ?」

「好き」

「へ?」

へ?え?え?

えええええええええええええええええええええええええええ!?

驚く私はそのまま鈴莉に押し倒された。

私にまたがりながら鈴莉は服を脱いでいく。

「え?ちょっ!?これは、まだ早いと思うんだけど!?って何処で覚えたこんなの!?」

「琴波っちから教えてもらった」

琴波さんんんんん!?何してんのあの人ぉぉぉ!?

照れんなよ、という琴波さんの声が聞こえた気がしたので今度会うときに割とキツめで拳骨いれよう。

ってそんな場合じゃないだろ!

やばいよドキドキしてきた。

イケるとこまでイケそうな気がしてきた!?

いやいやダメだってだって私達はまだ未成年で。

「阿斗」

「……何?」

「好き、大好きだよ」

鈴莉はまた私にキスをしてきた。

ここでそれは反則だよ……。

もう自分を抑えられないかも。

「ありがとう、私もだよ鈴莉」

私は鈴莉を抱きしめた。









帰ってきた私達は二人揃って四季様に再度お説教された。

「心配かけてごめんなさい」

「良いって良いって、基本阿斗のせいだし」

「それについての問題は解決させたんで」

「な!?それって、もしかしてそういう事か?」

自分でも口が滑ったと思ったが別にもうどうでも良くなった。

「まぁ、そう言う事ですね」

「ちょ、阿斗!?」

珍しく鈴莉が赤くなって焦っていた。

私は鈴莉を抱き寄せた。

「こんな可愛い子は他の誰にも譲る気ありませんので」

「ふぉわぁぉぉぉぁぉぁ!?阿斗!!!」

「おぉ!よく言ったな男だぜ!!」

「ぬはー!甘いっす!チョコレート以上にアマアマっす!!」

「あ、琴波さん」

「ふぇ?なんすか?」

「後で一発殴らせてくだい」

「なして!?」

忘れていたが四季様との約束があった。

私は四季様に近付く。

「四季様」

「なんですか?言っときますが不順異性交遊は駄目ですよ?」

ハハ、すんません。

「先程の話ですが」

「あー、そうでしたね」

「何故私は男で、そして転生が早かったのか教えてください」

「それを知って貴方はどうするのですか?」

「………私はずっと自分というものがわかりませんでした。何故阿礼乙女として転生する筈が男だったのか、早すぎる転生をしたのか、それが謎でした。けど今はそれに感謝しています。男で良かった。早く生まれてこれてよかった。稗田で良かった……そう思えてます。だからこそ私は自分という存在が何なのか知りたいと思ってるんです」

「なるほど、わかりました答えましょう」

「ありがとうございます」

「まず何故早く転生したのかですが、先代阿求が亡くなって直ぐこの幻想郷は結界の外から溢れ出る瘴気により多くの人が死んでいきました」

幻想郷最大最悪の絶望的な異変……未だに原因は不明であり先代の博麗の巫女博麗霊夢の命と引き換えに解決された異変だ。

人を殺す瘴気により幻想郷に多大な被害を与えた。

魔理沙さんに……いや、ここにいる殆どの人達にとって今も尚、忘れることのできない出来事。

「知ってのとおり稗田は次に転生するまで私の元で働いてもらうシステムになっています。阿求の時は最悪でしたね、瘴気により死んでしまった魂達が彼岸に押し寄せてました。しかもその頃、外の世界でも大きな災害があったらしくそちらからも多くの魂が来ました。あの世はパンク状態、死人の魂で溢れ帰りました」

四季様が淡々と語っていく。

それはとても絶望的なものだ。

「ですが、そこで活躍したのが先代九代目稗田家当主稗田阿求でした。彼女は押し寄せる魂達相手に冷静に迅速に対処、指示していき無事に全ての魂を裁くことができました」

「………すげぇな」

魔理沙さんが呟いた。

私も本当に凄いと思った。

資料によればあの異変でかなりの人が死んだ、それだけでなく外の災害によって死んだ人もいるというのだ。

どれだけハイスペックだったのだ先代は。

「阿求は昔からやるときめた事はキチンとやる子だったからねぇ」

「うむ、社交性も高く、誰とでも付き合って行ける奴だったな元気でやっていたのだな」

小鈴さんと慧音先生は目に涙をためて話す。

先代が死んでも元気でやっていたという事が嬉しかったのだろう。

「話を戻します。そうして阿求に働いてもらって60年程たった頃です。その頃は阿求の手によって殆どの仕事が片付けられていました。その功績を認められた阿求は上層部から特別に早めの転生を持ちかけられました。一部では阿求に残っていてもらいたいとの声もありましたが彼女は60年で最早、200年分の仕事をこなしていました。なので転生が早まりました以上」

60年で200年分の仕事かたすとか………自分が死んだ時に残念がられないか心配になってきた。

「さて、次に性別についてですが」

「はい」

「阿求の意思ですよ」

「へ!?」

「転生の前に彼女は言っていました。私はもし次に違う人生を選べるなら男になりたいって思ってた、そして次の十代目には私とはもっと違った人生を歩んでもらいたい……と」

「…………え?」

え?マジ?そんだけの理由?

「それから最後に阿求から貴方宛の手紙があります。この話をしたら私て欲しいと言われました」

先代からの手紙?

一体何書いてあるんだ?


どーも、先代の阿求です。君がこれを読んでるって事は四季様、全部話したって事ですね?ビックリしたでしょう?まぁ、私頑張ったから超頑張ったから。えっとところで私のお願い通りに男になれたのかな?色んな事を経験できたかな?幻想郷は楽しいところだし優しい人も沢山いる、とても素晴らしい場所よ………って知ってるかそんな事、書きたい事は山程あるけどとりあえず私は君に言いたい事があります。

君の人生は君のものだ、稗田家としてとか、当主としての責務とか……んな堅苦しい事に縛られないで欲しい。君は君だ。君は君自身がしたいと望んだ事をしていてほしい君自身の道を歩みなさい。なんてカッコ良く言ってる割に私に出来なかった事を君に求めてるだけなんだけどね。

稗田は短命だ、だから後悔せず最後の時まで愛する人と愛すべき仲間たちと生きてください。

最後に幻想郷のみんなへ。

私はみんなの事を忘れない、みんなの事が大好きだから。

本当にありがとう。

君と親愛なる幻想郷の皆様へ

稗田阿求


私は私自身の道を歩め……か。

私はできてるのかな、ちゃんと歩めているのかな。

愛する人、愛すべき仲間たち。

貴方のおかげで今の私があるんだ。

だから、先代……本当に。

「ありがとうございました」









終幕



朝起きたら枕元に変な手紙が置かれていた。


午後5時までに部屋から脱出して博麗神社へ来い。

脱出したのち博麗神社に来ないで逃げたら人質の命はない。


とだけ書かれた手紙だった。

何故博麗神社?

というか脱出ってなんだ?

てか人質?

意味不明。

布団から起き上がり戸を開こうとする……がどれだけ力を込めても開く気配がない。

「何だこりゃ」

まさか本当に閉じ込められたのか、窓を開けようとしても開かない、他にも調べてみたが脱出出来る場所はなく机の上に時計が置かれてあるだけだった。

恐らくタイマー代わりだろう。

これは、ヤバイ系のやつ?イタズラ?どっち?

とりあえず誰か呼んでみよう。

「馬場さーん?鹿島さーん?」

いつものお手伝いさん二人組を呼んでみる。

が来る気配がない。

「ど、どうしよう」

そうだ戸を蹴破ろう!

ふ、遂に3週間だけやってた空手の実力を見せる時がきたか(誰もいないけど)。

いくぞ、セヤァ!

ドンという音ともに私の足を痛みが襲う。

「おおおおおおおおお!いっでえ!!!」

クソぅ!てか5時までにとか書いてあるけど今一体何時なんだよ!

机の上に置かれたタイマーを見る。

午後2時。

2時!?もうそんな時間なの!?

どうやらあれこれしてうちに時間は過ぎ去っていたらしい。

これから脱出して5時までに博麗神社って博麗神社まで大体1時間くらいだし、そもそも人質って………もしかして鈴莉?

そんな事ナイナイナイナイ。

……………ないとは言えない。

くそ!こうなったら。

「やってやる!やってやんよ!!」

もう一度くまなく部屋を探す。

隅から隅まで調べあげる。

するとタンスの中から小さい箱が見つかった。

「何だこれ?」

箱の横には紙が置いてあった。


初めての感想を叫びなさい。

そうすれば箱は開かれる。


What?

初めてってなんの初めて?

鈴莉とした事じゃないよね?

でもそれ以外思いつかないよね私?

密室に閉じ込めておいて羞恥プレイ?

おかしくない?

これ考えた人おかしくない?

なんで叫ばなければならないん?

………………え、言わないといけない感じ?

叫ばないと開かないとかイミフ。

……や、や、や、やってやるよぉー!

やるって宣言したからねー!

叫んじゃうよ?

いいの?

やるぞ?

誰に言ってんだよ私よ?

「ふぅー」

私はゆっくり深呼吸をした。

そして。

「気持ち良かったぁぁぁぁ!!!!!」

思いっきり叫んだ。

すると、箱が勢い良く開かれ中から鍵が出てきた。

やったー鍵だー。

しかし大切な何かを失った気が……………。

気にすんな!

鍵を使って部屋の戸をって…………元々鍵なんてついてねぇよ!

なんの鍵だよ!

鍵を見ると小さく文字が書かれていた。


扉を探せ。


ていうか字を見て思ったけど全部筆跡が違うな、複数犯……だろうな。

扉、扉、扉………何処に?

青い狸の桃色の何処でも行ける扉なら直ぐに博麗神社へ行けるのになぁ。

てか本当に扉ってどこだ?

さっき探した時にはなかったし。

あと探してないっていうなら寝てた布団だけだし。

……………布団ね。

私は布団に近付き捲ってみた。

すると。

「扉発見!」

なんと布団の裏に扉らしきものがあったのだ。

鍵を入れてみる。

見事に鍵がはまり開けることができた。

意を決して中へ入る。

中は真っ暗で何も見えない。

「暗いし、狭いし何だこれ?」

壁伝いにゆっくりと歩いていくと正面に扉を見つけた。

「やった!」

私は扉を開けた。

どうやら鍵はかかってなかったようで外へ出られた。

外に出られた私は博麗神社へ向かって走り出した。









只今博麗神社の階段を猛ダッシュ中である。

ここを登りきれば犯人との直接対決!

人質を救って急いで逃げなければ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

良しあと三段!

二段!

一段!

よし!

やっと着いた!!

辺りを見回す。

どうやらここにはいないようだ。

とすれば神社の中か。

私はゆっくりと近付き。

戸を思いっきり開けた!

パン!

パパーン!

『誕生日おめでとー!!!』

…………あ?

戸を開けるとそこには見知った顔ばかりだった。

「何これ?」

「何ってサプライズっすよー!」

「サプライズ?」

「みんなで計画立てて頑張って用意したんだぜ」

「驚いたかしら?」

琴波さん、魔理沙さん、幽香さん?

「その驚いた顔goodですねぇ」

「おら、座れよ」

「こちらへどうぞ」

文さん、妹紅さん、舞織さん?

「人を驚かすなんて本当は黒に近いことですが、こういうのは白ですね」

「飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだー!」

「主役来たし早くはじめよっぜー!」

「はじめるのかー」

「歌う?私歌う?」

「みすちー派手にやっちゃえ!」

四季様、小町さん、チルノにルーミア、みすちー、リグルまで!?

「姫!こんな時までゲームしないで!」

「うえー良いやん」

「ふ、カリスマの足らない姫ね……咲夜ープリンあるー?」

「はい!お待ちをお嬢様!」

永遠亭と紅魔館の皆さん!?

「妖夢〜お腹減ったよー」

「もうじきですのでお待ちください」

「らんしゃまー!お酒おつぎしますー!」

「はぁぁぁ橙かわ!かわ!かんわぃぃぃぃ!!」

「キモいわよ藍」

「慧音先生どうぞ」

「っととすまんなぁ小鈴」

他にも沢山いる……って何これ?どゆこと?

「ぬふふふ、みんな阿斗のために集まったんだよ!」

いまだに状況を把握できないに私の背後から誰かが声をかけてきた。

振り返ると満面の笑みの鈴莉がいた。

「私のためってなんで?」

「あれ?覚えてないの?」

「覚えてないって?何を?」

「今日は阿斗の誕生日じゃん」

…………………………………あ。

そうだ、今日は私の誕生日だー!!

そうそう忘れてた!

「じゃあ、あの脱出ゲームとかも?」

「うん、みんなで阿斗の寝てる隙に作りました!」

「戸が開かなかったのは結界か……」

「そう言う事、因みに脱出ゲームの様子はここで紫さんの能力使って見てましたー!」

「へぇ、そうなんだー……………え?」

おいおい?

見てた?

て事は……………。

「あんな大声で気持ち良かったなんて叫ぶなんて」

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「今度の新聞に載せますねー!」

「良い酒の肴になるわー」

「気持ち良かったぁぁぁぁ!!!!!だってさー」

「や、やめ、やめて!!」

恥ずかしい!

めっちゃ恥ずかしい!!

「別にそんな意味で書いたわけじゃないのに、あんなこと言うなんてー阿斗っち大胆っすね!」

あんたか!犯人あんたか!

あーー、クソぉ。

「阿斗阿斗!」

「えー何?」

鈴莉はまた満面の笑みになった。

そして。

「誕生日おめでと!」

そのまま私にキスをした。

「ん!?んん!?」

とても長いキスだった。

私は恥ずかしさと嬉しさで何も考えられなくなった。

後ろからみんなの声が聞こえる。

あとめっちゃシャッター音聞こえる。

でも、まぁいいか。

なんか凄い幸せ。

「ぷはー!へへ」

「んぁ、あ、ああ、はっ!!」

余韻に浸っていたかったが先に文さんのカメラを破壊しようと思った。

が結局壊すどころか逆に写真取られまくって終わったのでもうパーティーを楽しむことにした。









深夜1時頃にパーティーは終わり、博麗神社に泊まる人達以外はみな解散した。

小鈴さんが慧音先生と先に帰ったので鈴莉は私と妹紅さんで家まで送ることになったが。

「私お邪魔みたいだから慧音も待ってるだろうからこの辺で、またなー!」

「え、ちょっと!妹紅さん!……………行ってしまった」

気を使ってくれたのだろう。

だが、何だろ凄いドキドキするんだけど。

こ、このまま二人で………………。

変な妄想はやめろ私のアホ!

「今日は楽しかったね阿斗!」

「そうだね、誕生日のパーティーなんて嬉しかったよ」

「ふふ、感謝してくれたまえよ!」

「うわ、上から目線とか感謝する気失せたわー」

「なんでよー」

こんな楽しい日々が、後どれくらい続くのかな。

こんな日に暗い事は考えない考えない。

「鈴莉の誕生日も祝おうね」

「うん!またみんなでやろうね!」

二人で、とか言い出せない私はチキンですよ。

……良く考えたら私からちゃんと告白してないよな。

しなきゃダメだよね?男として………。

「す、鈴莉」

「ん、何?」

私は鈴莉の手を握った。

意を決して、この思いを言葉に表す。

「鈴莉、好きだ!!」

「う、うん私も阿斗こと……大好き!」

私は鈴莉を抱きしめた。

愛おしくて愛おしくてたまらない彼女を抱きしめた。

私の日常はこんなにも素晴らしいものなんだ。

私は最後の時が来るまで、この愛する人と愛すべき仲間たちと生きていきたい。

大好きなみんなと歩んでいきたい。













本当に色々な事があった人生だと思う。

劇的で毎日が輝きを放っていた。

愛する家族と仲間たちの見守る中、死を迎える。

素晴らしいじゃないか。

思えば私は幸せすぎる人間なのかもな。

毎日が忘れられない思い出だ、それが走馬灯のように頭の中を巡る。

私は今、28歳になる。

まぁ、長く生きたほうだと思うよ。

ふと横を見ると傍らにいる彼女が泣いている。

ダメだよ………泣かないでくれ。

君は笑っていた方が可愛いよ。

だから頼む悲しまないでくれ、私は君のおかげで私はこんなにも幸せになれた。

私は君に出会わなかったら、こんなに満足して最後を迎える事はなかったと思う。

だから、頼む最後に私の大好きな君の笑顔を見せてくれ。

彼女は笑顔を見せてくれた。

そうだ、それで良い。

その方が君らしい。

出来ることなら君を抱きしめたい。

けど身体が言う事を聞いてくれない。

だから、最後にせめて君への想いを伝えよう。


「鈴莉、今までありがとう」


ーー愛してる。









今日は私の誕生日だ、そして彼の命日になるだろう。

大好きな彼が今日、私の誕生日に死ぬ。

それが怖くて、辛くてたまらない。

彼は私に笑えと言う。

彼の頼みだから笑ってあげたい。

けど涙が止まらない。

彼は私の太陽なんだ。

その彼が死ぬなんて考えたくなかった。

心底、運命というものを恨んだ。

稗田の運命、その短すぎる命の灯火。


最後に私の大好きな君の笑顔を見せてくれ。


彼が言った。

最後なんて嫌だ。

けど私はここで笑わなければ一生後悔すると思う。

だから私は彼に向けて笑みを見せる。

彼は喜んでくれた。

彼が弱々しくなっていくのがわかる。

彼はもう………死ぬ。

そんな時。


「鈴莉、今までありがとう」


段々と小さくなるその声で彼は最後に呟いた。


「愛してる」


そのまま、彼は眠りについた。

覚めることのない眠りに。

今まで、何度も彼の口から聞いた「愛してる」という言葉。

そして今のが最後の愛してる。

私はもう目覚める事のない彼に向かって呟く。


「私も愛してるよ阿斗」

楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでいただけたのならば嬉しいです。

読んでくださった方に感謝です。

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