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珈琲の香りに誘われて

Happy Halloween

作者: 白猫


「ハロウィン?」

「そうだよ天馬。ハロウィンを楽しまなきゃ。」



唐突に雪が言いだすのはいつものことだが、何故よりにもよってハロウィンなのか?



「大学に来るまでは家族達と一緒に祝ってたんだけど、こちらでも同じことをしたいと思ってさ。

天馬はハロウィンを祝って来なかったの?」

「あー。どちらかというと興味のない部類だな。」


そもそも、元々イベント毎に対してあまり関心のない生活を送ってきたからな。

嫌いなわけではないが、わざわざ力を入れて取り組むことでもないというスタンスだ。



「そうか、もったいないな。みんなで仮装して、一緒に楽しめる素敵なお祝いなのに。」

「それにわざわざハロウィンを祝わなくても、すぐにクリスマスが控えているだろ?」

「いやいや、全く別のイベントじゃないか。むしろ僕はクリスマスにはあまり興味がないかな。」


雪の考えは相変わらず良く分からない。

日本人であればハロウィンよりもクリスマスの方が身近ではないだろうか?

まあ嫌でも町中がクリスマス一色になれば、そう思っても仕方ないのだが。



「というか、具体的には何をするイベントなんだ?」

「ハロウィンはね、悪霊除けのイベントなんだ。西洋で行われるお盆だと思ったらわかりやすいかな。

秋の収穫祭をかねてるところもあるしね。」

「お盆ね。地味なイメージしかないんだが。」

「そうかい?日本のお盆も親族が一同に会して、先祖を迎え入れ、供養し、敬う大きな行事だろ?」

「いや、そこまで気にしたことはないんだが。」

「うちは爺様婆様が長だから、毎年全国から親族が集まる大きな行事なんだけど、他はちがうのかな?」

「雪の家の取り組み方の規模が平均ではないという事は確かだよ。」


雪の家と俺の家の行事に対する姿勢では雲泥の差があるからな。



「まあそれはどうだっていいさ。この際だから、天馬も一緒に祝おうね。」

「まあいいけど、何をしたらいいんだ?」

「さっきも言った通り、基本は仮装をして、それぞれ料理やお菓子なんかを持ち寄って夜通しお祝いするって感じかな?

ホストを務める家があればいいんだけど、こちらでの伝手はないからね。できればダンスやライブとまでは言わなくても、屋外で音楽を流しながら行いたいね。」

「俺はクリスマスでもそんな規模のイベントはお目にかかったことないんだがな。」




かくして、今年はハロウィンを祝うことになりそうだ。

雪の食いつくポイントはいまいちよく分からないが、まあ楽しそうなのでいいとしよう。





ハロウィン当日、行きつけのカフェで、常連やお客さんの方々とお祝いをしたのはまだいい。

そこまでは雪の行動力なら創造の範疇に収まる。

しかし、何故雪のバイト先の大将が寿司を握り、向かいのイタリアンのシェフがパスタやピザを焼き、あまつさえは、お店の外装や内装が品を損なわない程度にハロウィン仕様になっているのか。

昨日来た時はこんな様相はしていなかったのだが、朝から雪が忙しなく動き回っていたのはこれだったのか。


どこの誰が、たった半日でかぼちゃのジャックオンランタンを数十個(うち、入口のものはどう見ても数十キロは超える規格外)揃え、白黒赤色のキャンドルと金色の飾台を集め、甲冑の騎士が佇み、見たこともない謎の植物をバランスよくレイアウトすることを考えるだろう。

その他にもある細々としたハロウィンっぽい置物や装飾品の数々。

おまけに壁や天井を這いまわる蔦と、風もないのに揺らめく真っ黒いカーテン。

雪のハロウィンへの思い入れは思って以上だったらしい。


極めつけは、参加者の方々の仮装がコスプレやなんちゃって仮装の域を遥かに超えていることだろう。

リアルタキシードのドラキュラ(もちろん牙あり)や、艶のあるローブを纏い、おもちゃには見えない年季の入ったひしゃげた杖(後で触らせてもらったが、本物の木製だった)を持ち、折れ曲がった三角帽子を被った魔女、全身を包帯で包みこんだミイラ男、本物の衣装にしか見えないピエロ(ピエロではなく、クラウンだと言われた)の格好でジャグリングをしている人、あきらかに特殊メイクであろう鬼の形相と角を付けているなんかはまだいい。

常連の方の行動力ならまだ理解できる。


しかし、糸も何もなく宙に浮かぶ半透明な犬の様なものを連れた真っ赤な仮面を着けた人や、宙に浮かびながら移動する身長の低い道化師の様な格好をした人、メイクやマスクではなく、本当に埋め込まれているとしか思えないネジを体や顔から出しているフランケンシュタイン、ただ白衣を着ているだけかと思いきや、明らかに隠せるスペース以上の質量を持った物体が時たま蠢く科学者風な人、顔の大きさと体のバランスが5:1な立っていることが不思議な小柄な角を生やした鬼の人など。

どう考えてもオカシイ現象を伴った人々がいる始末。


あ、真っ白い仮面をつけた黒子の様な人が後ろを通りかかったけど、どう見ても2mではすまない身長だよな。

ていうか、この人足が存在してないよな。




拝啓

お父様、お母様。

普段接することのない物事は、どうやら僕の創造の域を軽く凌駕する出来事のようでした。

ハロウィンを甘く見過ぎていたようです。






「天馬、何端っこでぼーっとしているの。みんなで写真撮るよ。」

「あ、ああ。今行く。」



今日の雪はシャーロック・ホームズの様な格好だ。

まあ、見かける度に服装や顔が変わっているので、今の姿がハロウィンパーティー開始直後と同じ格好でなければ気付かなかっただろうが。



「それではみなさん、せーの。」

『☆Happy Halloween☆』




後日、みんなで撮った集合写真に写っていたであろう数名が、写真に写っていないことを確認した俺は、もう一度筆を取ることになったのは言うまでもない。

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