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ネタ枯渇

作者: 竹仲法順

     *

 毎日、午前九時過ぎぐらいに起き出して、キッチンでコーヒーを一杯淹れる。そして洗面し、電動髭剃り機で髭を剃ってしまってからリビングに入り、パソコンを立ち上げた。僕の仕事はネット掲示板にいろんな書き込みをすることだ。それで月に十万ぐらい稼ぎ、貧乏生活をしていた。

 毎月、銀行の口座にまとまった額のお金が振り込まれてくる。それを少しずつ使いながら、生活していた。別に気にしてない。単に稼ぎが少ないだけで抵抗はないのだ。贅沢をするつもりはないのだし、倹しくやろうと思っていた。食事はなるだけお金が浮くよう、三食完全自炊している。

 あまり外に出ない。必要なことがあれば外出するのだけれど、それ以外は家にこもっている。運動不足気味なのだけれど、平気だった。単に外出を嫌っているというだけで。それに対人関係は苦手だ。人前に出るということが、ほとんどない。一日中パソコンに向かっていた。

 ネット掲示板が、実に恐ろしいということは十分分かっている。でも書き込めば、それに応じてお金が入ってくるのだ。大学中退後、ずっとこの仕事を続けていた。パソコンさえ使えれば出来る仕事である。職能がない僕にとって、仕方ないことだった。

 三十代半ばで就職氷河期にあり、大学を中退した後、この仕事に有り付けた。珍しくも何ともない。単に自分の立ち位置が時代とは逆風で、アンラッキーだったというだけで、気に留めてなかった。そういった人間は大勢いるのである。いつの時代でも。

     *

 実家にはもう十五年以上帰ってない。いるのは立ち上げていた事業に失敗し、朝から酒を飲むアル中のオヤジだけだ。そんな人間、いくら相手したところで意味がないのである。いつも思っていた。こうなると、もう終わりだなと。

 いつも朝飲むコーヒーはインスタントなのだけれど、別にいいのである。今の季節、ホットで一杯淹れて飲み、パソコンを立ち上げてからキーを叩く。確かに昼間は顔の見えない匿名の掲示板に書き込みを入れ、それで報酬を得ていた。

 だけど、ここに来て問題が出てきたのである。ネタがないのだ。書く際にネタが必要なのだけれど、それが枯渇しかけていた。ネットユーザーは朝からパソコンやスマホなどのIT機器で何でも知ってしまう。ところが僕もネットを利用する際、限界を感じているのだった。何も思い付かなくてなって、ネタが枯渇するという現実に直面していて。

 ゆっくりする間はない。一日に数件の書き込みをするのだけれど、これにはかなりの労力と時間が掛かる。僕も思っていた。ずっとキーを叩きながら、考えることが大いにあると。 

     *

 九月下旬、自宅マンションの玄関口で物音がしたので扉を開けると、運送会社の人間がいて荷物を届けに来た。

「あ、大賀さんですね?」

「ええ」

「お荷物が届いております。ここに受け取りのサインをお願いいたします」

「……」

 何も答えずにサインし、荷物を受け取った。対人関係が嫌だから、いつもこんな感じなのだ。届いたのは通販で買った商品だった。一般の店舗じゃ買えない品物で、これから使うつもりでいる。

 買い物には週に二度行っていた。週末金曜と週明けの月曜だ。もちろん食材や日用品まで宅配してもらうわけにはいかない。だからちゃんと行っていた。外出は億劫だったけれど、仕方ないと思っていたのである。

     *

 掲示板に書き込むネタは日々考え付く。相当ネットサーフィンしているので、情報は山ほどあった。それを元に書き込む。別に不自然なことなど何もなかった。キーを叩き続ける。今はブログなどだけでなく、ツイッターなどのSNSがあり、そっちの方のアカウントも持っていた。

 オヤジが末期の肝臓ガンに罹り、入院中だとは親戚筋から聞いて知らされている。だけど、見舞いに行く気など更々ない。あの人間が僕に対し、どんな暴言を吐いたか……?そして母に対しても散々暴力を振るい続けた挙句、自殺に追いやったか……?一度として考えたことがないだろう。だから縁を切ったのである。もういいと。二度と会いたくないと。

 ずっと一人でいる。秋は何かと物憂い季節なのだけれど、我慢していた。花粉症や頭痛など、持病による症状が絶えない。でも、冬に入れば入ったで、また寒さでやられるだろう。ちなみに扇風機は回していた。室内を涼しくしておく必要があるからだ。エアコンはもう稼働させてないのだけれど……。

 時々スマホに電話が掛かってくる。大学在学時に同じ学部・学科で知り合った人間だ。大学を辞めてから、この街に引っ越してきた後も、古い型式のケータイの電話帳に番号やアドレスを入れていた。それを全部スマホに移し、今使っているのである。スマホ使用歴は一年とちょっとだった。

「大賀、今どうしてる?」

 同級だった野川が電話越しにそう訊いてくるので、いつも適当に答えておいた。「何とかやってるよ」と。野川は学部卒業後、院まで行ったのだけれど、博士課程を単位取得退学して地元に帰り、今、そこでカルチャースクールの講師をやっているらしい。一番仲がいい人間だった。気の置けないというのか、何というのか……?もちろん、ほとんど会ってないので、彼がどんな感じで仕事をしているのかまでは分からなかったのだけれど……。

     *

 日々ネット上の情報は更新される。掲示板に書き込むネタは本来なら潤沢にあるのだろうけれど、ここ一ヶ月ぐらい僕の方が遅れがちだった。使っているパソコンはノート型で、最新式のものより一つ前のOSだったけれど、使いやすい。別に抵抗はなかった。

 昼間はずっとパソコンの画面を覗き込んでいたのである。キーを叩きながら、書き込むのだけれど、ネタは枯渇してしまっていた。あまり新鮮味があるものはない。でもスランプだと思えばそれでもいいだろう。それにこの世の中、ネット社会で僕のような働き方をしている人間もたくさんいるのだし……。

 絶えずマシーンに向かっていた。地味ながらも仕事は続く。生活が懸かっている以上、仕方ないのだった。ネットを使い、書き込みを続ける。かなりネタ枯れしていたのだけれど、載せられるものもあると思い……。時間に追われながらキーを叩き続ける。常に情報収集を怠らずに、だ。そう考えながら、引き続き仕事する。確かにネットを利用した仕事は難しいのだけれど……。それに同業者などにはネタを取られまいと必死になるのだし……。その繰り返しで時が流れていった。

 午後三時になると、椅子から立ち上がり、コーヒーのカップを持って窓辺へと行く。そして飲みながら窓の外を見て、ゆっくりした。いろんな想いがあるのだけれど、それは全部仕事にぶつけようと思っていて、だ。ネタ枯渇の状況もいずれは解消されるものと考えていた。目の前のことに淡々と取り組んでさえいれば……。

                           (了)



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