轟焔《ごうえん》
あらすじ
度重なる戦闘。終わりなき終末。
死期を見た王国の、神々が幼い頃。誰かの、記憶。
平和な森、輝く石、焼けた故郷、飛翔する神。
轟焔は、終わらない。
この作品は私まっちゃの代表作、『死期近き王国』の一部を掘り下げた作品です!もし、まだ読んでいないよ!という方はブラウザバックすることを推奨します!
なお、この作品は王国での"幕間 廻りだす運命と変わらない命運――第-1話 創まりの記録簿"にあたる部分なので要注意。
轟焔――開幕。
1.紅炎燃
紅。林檎。橙。蜜柑。黄。檸檬。
揺らめいてはその少し上を登る熱気が辺りの景色を歪ませている。轟々と燃え盛る炎は私の故郷を焼いて、爆音は鳴り響き、広がる衝撃波は私を震わす。視界が暈されていく。頬を何かが伝う。胸が苦しい。嗚咽が漏れる。見える景色が歪んでいく。涙。嫌だ。死にたくない。生きたい。
2.夜啼鳥
まだ、朝が優しくて、川が澄んでいた頃。村に降りる陽光は眩しくて、それがとても嬉しくて、今日も私は、畑仕事を手伝っていた。採れたての馬鈴薯は土の温かみをもって、人参は鮮やかで、蕪は瑞々しくて。この時間が、ずっと続けばな、と思っていた。
朝が暖かくてなると、母は私を呼んだ。採れたばかりの野菜をふんだんに使って、父が狩った獣肉を焼いて、母は朝食を作った。天井には柔い湯気が昇って、美味しい香が鼻の奥へと届いて。肉が焼ける音が響いて、お腹が鳴る。それはとても、幸せだった。幸せだったんだ。
3.陽橙夢
熱い、痛い!
小さな音を立てて爆ぜた木片が、私の脚に飛びついて、黒く冷めていく。焦げた欠片を払うと、色が移ったかのように、小さく赤に染まった脚が見えた。焼け焦げた木の麓、座り込んだ私は、空を覆う黒い鳥のような、何かを見送った。鳥々は一斉に、大きな何かを産み落とした。それは地に着く瞬間に、微かな光と共に轟いて、熱を放ち、家々を吹き飛ばした。
「ん……っ!」
腕で顔を覆う。隠しきれない隙間から、その光は私を照らした。
それは悪夢のようだった。
4.八岐梟
朝食を食べ終えた私はすぐに、父から貰った靴を履いて、川の上流へと向かった。濡れた枯葉を踏み締め、滑る岩を超え、ちょっとした崖を登る。軽やかな潺ぎを耳に入れて、湿った苔で転ぶ。顔に、服に泥が付いたけれど、私は寧ろ楽しかった!
川に飛び込んで、泥を落とす。顔を沈めて、岩陰に潜る魚を見る。川の一番上に着いて、魚たちの群れに釣り餌を投げる。煌びやかに光を跳ね返す水面が、宝石のようで美しかった。まだ朝早いからか、理由はわからないけれど、森の奥では梟が鳴いていて、可愛らしく思えた。
5.燦琥珀
肌を震わす悲鳴。耳を裂く爆撃音。目を貫く閃光。赤色に染まろうとしている、暗雲。空を裂くプロペラ音。揺らぐ大地。僅かな草花、燃え散る木々。地獄。走る。逃げる。すぐ横を誰かが通り抜ける。熱い。痛い。眩しい。痛い。苦しい。疲れた。死にたくない。吐き気がする。走る。辛い。走る。爆破音。走る。熱い。痛い。衝撃波。爆弾が、墜ちた。
既に枯野、灰と化した村を、それでもなお焼き払おうとしていた。走る。途中で倒れる人。燃え、黒く染まった人。既に先で死んだ人。瓦礫。土砂。灰。走る。
黒く焦げた腕。掴み走る人。赤に背かう白銀。黄金。そして紫紺。私はまだ、死んでいない。
6.虚蟋蟀
仕事量が増える、この季節。実りの秋。鮮やかな紅葉が村を囲い、色とりどりな風景を示す。
森へ行って、栗を集め、小石を拾う。大きくなった鮭を釣って、川に枯葉を投げ込む。流れていく木の葉を追いかけて、また村に出る。絶えることの無い好奇心が、私を秋の紅へと投げ込んで、だから私は秋が一番好きだった。黄金に輝いた稲穂が、今年もこの村の安泰を示していた。空一面に広がった茜、朱。宙を舞う蜻蛉。日が暮れれば、蟋蟀や鈴虫が合唱をはじめ、また翌朝には飛蝗が私を追い越し、蟷螂の卵巣を家の壁に見る。また、冬が来ると。そう信じていた。
7.翠光弾
雪は、降らない。灰が舞い、煙が昇り、炎が盛る。
暦以外で、冬などは来なかった。春。夏。秋。獄。四季とは儚いものだった。こんなの…”死期”じゃんか。私は森の奥へと走り続けた。最奥部の神社なら、無事だろうと思った。走った。肺に灰が入り込んで、私の酸素を阻害する。煙が燻っている。枝が落ちる。かろうじて躱す。もう無理。でも、足は止まらない。言うことを聞かない。
ようやく、その形を目にしたとき。そこに見えたのは希望であり、絶望だった。
鳥居は、すでに吹き飛んで。神像は砕け散って、石の破片となっていた。
池の中央には、どこかで見た白銀の人が、妖しく光る石を持ち上げていた。
8.闇星鴉
冬を控えた夜空は煌びやかだった。澄んだ空気が星々を主人公に囃し立てて、いつかは私もあんなふうになりたいと、かなり小さいころから思っていた、気がする。今思えば、夜にしか輝けない星々に、私はなりたくないやと思った。それなら、朝も夜も光を届けられる、太陽になりたいな。
冬を控えた夜空は瞬いていた。澄んだ空気の中、1羽の鴉が一番明るい星を覆うように飛び去った。眼に宿っている、輝き。星をも凌駕する、その、彩度。異様な配色。”この世”のものではないと、そんな考えはすぐに掻き消されてしまって、私はただ茫然と、鴉を見つめることしかできなかった。それはただ、美しかった。
9.絶碧空
石は、風を起こした。久しぶりに、涼しさを感じた。いつからかそこにいた影が、あの腕だけ肉体を成して、光を纏う方――”彼”に何かを語りかけた。影を呑む方――”彼女”は、どこか哀しい声音で、辺りの争いなど気にも留めず、彼と見つめあっていた。彼女は言った。”返して、 ”。何故だろうか?私の耳は、彼女の声がうまく聞き取れなかった。彼は言う。”ごめんな、 ”。きっと、名前なのだろうと思った。鳴り響く轟音は、まだ終わらなかった。ただ一つ言えることは、私はこの光景に見覚えがあることだけだった。そう、あれは―――
10.暗魔猫
煩い小鳥の囀りで目が覚める。窓の外、舞うのは雪だった。白く純粋な、粉雪。暖かな家。柔らかい母の声。美味しい香り。空腹を訴える腹の音。思わず広がる笑み。夢でよかったという安堵。長い年月を過ごしたかのような疲労感。母に返事をして、着替えを取り出して、寝間着のまま台所へと駆けた。おはよう、母は言う。おはよう!私は言う。父はもう狩りに出ていて、近所の兄妹は雪遊びをしていて、温かいスープが平和を映し出して、涙が零れた。ありがとう、ごめんなさい。言葉にはできなかった。嗚咽。大丈夫、心配ないよ。そういうと母は不安げな顔をして、また料理へと戻った。私は、生きている。
久々に章タイトルに全力になった気がする。
奇数(現在)は色、偶数(回想)は動物をモチーフにして名付けてます。
また、色は虹色に沿って、動物は夜のものからとっています。
余談ですが、夜啼鳥は”鵺”がモチーフです。
さらに余談ですが、今作は2,500字ぴったりです。『それでも、鰯は群れを成す』が30,000字で読了目安が60分だったから……今作は目安5分ですね!過去最短記録。
それではまた、どこかでお会いしましょう。




