表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

19、タイガー

少年は空っぽの袋を背負い、ナイフを腰に差した。そして弾けんばかりの笑顔で言う。


「それじゃあ先生、行ってきます!」


応じる青年は苦悶の表情だ。


「マルコ君、本当に1人で行くつもりですか? あと数日待ってくれれば、私も都合が合うんですよ」


「希少な魔族が出たんです、このチャンスを逃しちゃダメですよ!」


「あなたはそそっかしいから、何かトラブルを起こさないか心配で」


「先生、僕はもう1人で大丈夫です! ガーゴイルの巣も、トロルの廃村でも採集できましたし!」


「いずれも辛うじて、でしたね。ガーゴイルは怒らせて、廃村では呪いの木馬に追い回されて。私の到着が間に合ったから良いものの」


「とにかく何とかしますから! それじゃあ!」


マルコは逃げるようにして出発した。


目指すは嘆きの谷――希少種の魔族ゲイルタイガーが出現したと、冒険者より知らされた。その魔族の持つ白銀毛は、錬金素材として最高品質だ。


(先生にプレゼントするんだ。仕事も捗るに違いないや)


一昼夜過ぎた頃、件の谷に辿り着いた。姿は見えなくとも、響き渡る唸声が腹に伝わるようだった。そして静かすぎた。鳥も虫も、声を殺しているのだ。


「あれが、ゲイルタイガー!」


崖から谷底を覗けば、巨体が寝そべる姿が見えた。今なら先手をとれる。慎重に崖を滑り落ちていった。


白銀毛は、腹の方にあると聞いた。眠りこけている今が絶好のチャンスだ。しかし腹ばいになっていた。


「この態勢じゃ無理だ。起きた瞬間に手早く奪うか……」


マルコは岩陰に身を潜めつつ、小石をなげつけた。大きな鼻に当たる。しかし、かすかに身じろぐだけだ。


「もっと刺激を与えなきゃダメ?」


細心の注意を払いつつ、より大きな石を投げた。またもや起きない。今度は手法を変えて、野草で鼻をくすぐってみる。爆風のようなクシャミが起きたが、眠ったままだ。


思い切って、バケモノの口の端をナイフで切ってみた。次は、崖の上から大岩を落として命中させた「ビンゴ!」


それでも目覚めないのを見て、マルコはだんだん関心が強くなった。瞳も爛々と輝いている。


「ええ〜〜コイツやばいやん。あとは何を試そうかな」


次なる施策を鼻歌交じりに検討した。


マルコの不運は、ここでゲイルタイガーに背を向けたことだ。背中に生臭い風を浴びた。鼻息だと気づいたマルコは、硬直しつつも振り返る。ついにその時を迎えたと知った。


――憤りつつ立ち上がるゲイルタイガー、ひどく眠たいが。



ー完ー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ