第六話「忘れられない問い」
「マリー案内を頼めるか」
『勿論ですわ』
ロザリーの知的好奇心から俺たちは、すぐ出発することにした。「情報収集は早いほど良い」とさっさと立ち上がったので、逆らう気が起きなかった。
森には魔物がでる。人さらいも潜んでいるかも知れない。両親が遺した、弓と剣を俺は装備した。ロザリーは…手ぶらだ。
「ロザリー、弓がもう一式あるぞ。使うか?」
「ありがとう。だが私は弓は使えんよ。それに―――」
ドーン!!
ロザリーの人差し指が光ったと思ったら庭の木に大きな穴が空いた。
「私は魔法が得意でな。こうみえて強いぞ」
ニヤリと笑うロザリーを見て閻魔大王の情けない顔を思い出した。どこも妻は強いんだな。
三人で森に入って、十五分ほど歩いただろうか。
「……アル」
前を歩いてたロザリーが立ち止まり振り向いた。
「どうしたんだ?」
「研究に使える植物を見つけた。採取したいから先に行ってくれ」
「は?今じゃなきゃダメなのか?」
「場所を見失いたくないからな。それに、エルダートレントに三人で会いに行く必要もないだろ?」
……まあ、確かに。
「それとも旦那様は私の側から離れたくない、さみしん坊なのかい?」
「わかったよ、先に行って待ってるぞ。魔物に食べられるなよ」
「ああ、旦那様に食べられる前に魔物なんぞに食べられやしないさ」
ロザリーを残して俺はマリーと二人で先へ進んだ。
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ロザリー視点
「ふむ、行ったか」
二人の気配が遠ざかったのを確認して、私は静かに指を鳴らした。
「スキル【索敵】」
感覚が広がる。木々を透かすように熱源を拾う。……いた。東。五十メートル先。複数。焚き火の熱。鎧の金属。
私はゆっくりと、音を立てずに目的の集団に近づいた。
木陰から覗くと、男が十数人、焚き火を囲んでいた。揃いの鎧に鉄の武器。暇そうに座り込んでいる。脇には簡素な作りの荷台が牢の馬車。中には4人のエルフ……これが、村の若者をさらった連中か。
「スキル【鑑定】」
ふむ、オルドヴィア帝国の偵察部隊か。10年前のお仕置きじゃ分からなかったのか。懲りない奴らだ。
ロザリーは木陰から一歩、踏み出した。
「やあ。貴様らが人さらいか。ピチピチエルフが来てやったぞ」
男たちが一斉に振り返った。
「あ?……なんだ、エルフじゃないか」
「そうだ。で、どうする」
男たちは顔を見合わせた。それから、じわじわと笑みが広がっていった。
「ははっ、何だこいつ。自分から捕まりに来たのか。お利口さんなエルフだ」
「御託はいい。早く案内しろ」
部隊長か豚か分からん男が部下に指示をだす。
「おいお前ら。これで5人だ。本国に連れて帰って任務完了だ。捕らえて牢に入れろ」
牢に入り先客の4人に小声で話かけた。
「安心しろ。助けに来たぞ」
「「「「ひっ!?村外れの変人」」」」
ふむ、やはり見捨てるか?
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アル視点
ロザリーと別れて1時間ほどしてようやくマリーの足が止まった。
結界らしき薄い膜をくぐると、それは現れた。
「……でかい」
思わず声が出た。高さは家が五軒分は積み上げられるだろうか。幹の太さは、エルフ十人が手を繋いでも足りなそうだ。表皮は苔むし、無数の根が大地を掴んでいる。洞の奥は昼間でも暗く沈んでいた。
これがエルダートレントか。魔物には見えないな。
マリーが俺を見て、メモをさらさらと書いた。
『あの方がエルダートレントのジュディさんですわ。ちなみに今朝の紅茶はジュディさんの葉っぱですわ』
それは聞きたく無かったよ。飲みにくくなるわ。が今は挨拶が先だな。
「こんにちは。突然お邪魔してすみません。エルフの村に住む者で、アルと申します」
森が静まり返り――妙齢の女性の優しげな声が頭に直接響いた。
『……珍しいお客様ですね。マリーのお友達かしら』
「はい、マリーとは昨日からの友です。今日はお願いがあって来ました」
『アルでしたね。…あなたからは、親愛なるオシリア様の力を感じます。話を聞きましょう』
俺はジュディに、事情を説明し協力を仰いだ。すると突然空気がかわり、あの時と同じ花の香りがした。
『オシリア様』
閻魔大王の妻で上司のオシリアさんが虚空から姿を見せたのだ。同時にジュディが色めき立つのが分かる。桜に似た花が満開に咲きほこった。
「ジュディ、私この子に興味があるのよ。わざわざ夫に伝えてこの世界に転生させたのも―――今する話しじゃないわね」
オシリアさんはそう言うと、俺とジュディを交互に見て続けた。
「とにかく、ジュディはエルフを助けて上げなさい。それと、……今はノーベル?で良いのかしら?」
「オシリアさん。俺のことはアルと呼んでください」
前世の記憶も今世の記憶もちゃんとある。
俺は、
【アルフレッド・ベルンハルド・ノーベル】であり
【アルフェリウス・テルクァロール】でもある。
どちらも大事な名前だ。だからアルでいい。
「ではアル。あなたに一つ大事な事を言います。――あなたの前世の発明は多くを殺しました。しかし多くを生かしました」
オシリアさんが俺の心を見透かすような目で見てくる。
「技術が人を殺すのであれば、それは技術そのものの罪か、あるいはそれを使う人間の罪か。この問いの答え――――あなたは知っているはずですよ」
オシリアさんは俺に二つの疑問を残した。この世界に転生させた理由と……俺が前世から忘れられない問いを。
そして、更に爆弾発言をする。
「まあ今は早く戻りなさい。アルの奥さん、さらわれたみたいよ?」
「は!?」
名前:ジュディ(エルダートレント)
別名:世界樹/森の柱
樹齢:不明(この森より古いとも言われる)
出典:ポルターレの森 深奥
安定性:★★★★★
嵐が来ても、戦争が来ても、ここに在り続けた。
記憶力:★★★★★
この森で起きた全てを根に刻んでいる。
復活力:★★★★★
一度朽ちても、また芽吹く。何度でも。
神秘性:★★★★★
北欧にもエジプトにも、「それ」に似た存在の伝説がある。
特殊スキル:
「ジェドの柱(Djed)」
オシリスの背骨とも呼ばれる永続と復活の象徴。
この世界に根を張る限り、森は倒れない。




