第二話「期待外れ」
俺とロザリーは、エルフの村に流れる妖精が居そうなファンタジー溢れる綺麗な小川にやってきた。
そして、俺は今、下半身丸出しでパンツを洗っている。ロザリーに見つめられながら。
「ふむ。平均より少し小さめか?ダイナマイトかと期待したんだが……ぷっ、とんだ期待外れだな」
「何で見てるの!?それは今何メモしているの!?」
俺はロザリーを誤解していた。ずっと村の外れに住む変人だと思っていた。
だが、そうじゃなかった。こいつは変態だった。今も「6センチメートル笑」とか言ってる。平和主義の俺は殺意をギリギリ抑え込み、ビチョビチョのパンツを履いた。
「それで、何で俺のこと知ってるんだ……いや、待て。質問を変える。何で笑ってるんだ?」
真面目な俺に対して、ロザリーは『クックック』と笑いながら腹を押さえている。
「いやあ、悪い悪い。ビッチョビチョのパンツを穿いてシリアスな顔をする姿がシュールでな。まあ、『鉄仮面』と呼ばれていた私を笑わせたんだ。誇るといい」
今すぐこいつを爆破したい。俺は心が暴発しそうになるのを抑え、仕切り直して本題を切り出した。
「………。改めて聞くぞ。何で俺がアルフレッド・ノーベルだと分かったんだ」
「簡単な話だよ」
ロザリーはメモ帳をしまい、初めてまともな顔をした。
「私もお前と同じ、地球からの転生者だからさ。……地球では、お前が死んでから24年後に生まれたんだよ。ダイナマイトち◯ち◯の、ノーベル君?」
「年下かーい!もっと年上に敬意を払おうよ。泣くよ?いいの?泣いちゃうよ?これでも前世は有名人だよ?お金持ちだよ?」
転生?そうか俺は転生したのか……だが俺はそれよりも大事なこと…なけなしのプライドでロザリーに抗議した。
「年上?この世界に私が転生したのは千年、いや三千年くらい前だぞ。この世界では、私の方が君より少しばかり年上になるわけだ」
「俺、この世界では二十歳何だけど少……何でもありません」
「年齢に拘るのは非合理的だよ。アル」
ロザリーの静かな圧に負け俺は黙った。
余談だが前世で包丁を手にした母に言われた事がある。『女に歳を聞くのは自殺と同義だよ。死ぬかい?』俺は母の年齢を知らずに死んだ。
「ところでアル。お前は閻魔大王に会ったかい?」
「閻魔大王?誰だそれ?」
「死後の世界に行かなかったかい?閻魔大王は東洋で知られる冥界の裁判官さ」
あいつか。ロザリーに俺は答えた。
「会った。超ヘタレなやつだろ?」
「そいつだ」
ロザリーが続けて聞いてきた。
「スキルは貰ったか?」
「スキル?グリーンウッドさんが使う【微光】みたいなのか?俺はさっきの爆発で転生を思い出したばかりで……まだ記憶が混乱しているけど……貰ってないと思うぞ」
ロザリーの目が細くなり
「【鑑定】させてもらうよ」
と言いながら、険しい顔で俺を見てきた。
そして……
「あのヘタレ。よし、行くよ」
「どこに?」
「墓場だ」
――――――――――――――――――――
村外れの墓場は、夕暮れ時になると薄青い光がぼんやりと漂う、いかにも何か出そうな場所だった。そして、何か出た。
墓石の隙間から這い出てきたのは、黒いローブを纏い、眼窩に青白い炎を宿した最高位の死霊――アークリッチだ。村人たちが夜に近づかない理由がこれだ。俺も実物を初めて見た。
そんなアークリッチの胸ぐらを、ロザリーは躊躇なく掴んだ。え?死霊って物理的に掴めるの!?
「閻魔大王に繋げ」
アークリッチが怯えたように震えている。
パァン。パァン。パァン。パァン。
「まだ往復ビンタされたいのかい?」
……最高位の死霊?が、頷いた。何で!?
俺の驚きは直後にかき消された。
アークリッチを通じて、記憶にあるあの低い声が響いたからだ。
『……貴様か、ロザリンド。何の用だ』
「用件は一つだ。アルフレッド・ノーベルにスキルを渡し忘れてるぞ」
『忘れてない。貴様の時みたいに、誰にでもやるものじゃない。スキルは相応の者にのみ与えられる』
「ふーん。あっそ」
『……え?』
ロザリーはアークリッチに「通話終了だ」と言いながら胸ぐらを掴み直した。
「良し、次はオシリアに繋げ」
パァン。パァン。パァン。パァン。
「早く繋げないと――」
その瞬間、墓場の空気が一変した。
黒い靄が凝縮し、光が走り、巨大な転移門が開いた。そこから現れたのは、あの偉丈夫。
「ま、待て待て待ってくれロザリンド!! オシリアはダメだ!ガチで辞めて!する。何でもする!話を聞く!スキルも考える!だから頼む!!」
閻魔大王は、墓場の地面に額を擦り付けていた。綺麗な土下座だ。
「ふむ」
ロザリーはアークリッチを解放し、腕を組んだ。
「最初からそう言えば良いものを。非効率的だな」
ロザリーは、額を地面に擦り付ける閻魔大王を見下ろしながら、無慈悲に告げた。
「ふむ、余計な手間をかけられたからな。要求を三つ飲んで貰おうか」
冥界の裁判官に審判を下すロザリーを見て、俺は何故か震えた。未来の自分を見ているようで。
血の涙を流す閻魔大王。彼とはいい友になれそうだ。
名前:ロザリンド・フランクリン
生没年:1920年 − 1958年(享年37)
出身:イギリス
職業:化学者/X線結晶学者
知力:★★★★★
分子構造の研究に優れた科学者。
分析力:★★★★★
X線回折を使いDNA構造研究の重要データを取得。
研究貢献度:★★★★★
DNAの二重らせん構造解明につながる資料を残した。
評価(生前):★★★☆☆
当時は功績が十分に認められなかった。
影響力(現在):★★★★★
DNA研究の重要人物として世界的に再評価されている。
特殊スキル:
「フォト51」
DNA構造解明の大きな手がかりとなったX線写真。




