不協和音の鎮魂歌
空を覆う漆黒の指揮棒が、ゼノに向けて更なる「静寂」を降り注ぐ。
だが、奏の命を燃料にして覚醒したゼノの周囲には、物理的な「音の障壁」が展開されていた。空間そのものを震わせ、静寂を拒絶する暴力的なノイズ。
「……ハッ。そんな静けさで、この俺を止められると思ったか?」
ゼノは歪んだ笑みを浮かべ、ボロボロになったテレキャスターを構えた。
奏の命を燃やしているという現実に、ゼノの怒りは頂点に達していた。それは、奏への呆れではなく、かけがえのないパートナーを失ったことへの、破壊神の怒り。
ゼノが弦を弾く。
それはただのノイズではない。奏が積み上げてきた「優しさ」と、ゼノの「破壊」が混ざり合い、破壊を目的としない、純粋な振動エネルギーとなっていた。
――ガァァァァァァン!!!!!
アブソリュート・ゼロの絶対静止空間にヒビが入る。
その瞬間、冷たくなったリフレインの身体から、微かな光が溢れ出した。彼女の強い祈りが、ゼノの不協和音と共鳴したのだ。
「……奏……様の……音……」
リフレインの意識が、光となってゼノのギターへと吸い込まれていく。
それはかつて、この世界にあった「美しい調和」の響き。
「……チッ。最後の最後まで、お節介な巫女だぜ」
ゼノは毒づきながらも、その力を受け入れた。
ゼノの激しい「破壊音」と、リフレインの穏やかな「祈りの旋律」。二つの力が混ざり合い、テレキャスターから放たれたのは、この世の全てを塗り替えるような**「調和の破壊音」**。
「――死ね、無の化身。――これが、俺たちのレクイエムだ!!」
ゼノが全霊を込めて、最後のダウンピッキングを放つ。
音波は光となり、アブソリュート・ゼロを貫いた。
その衝撃は、魔物を砂に還すのではなく、漆黒の空を晴らし、街の不協和音をすべて浄化し――、
空間を、真っ白な静寂へと塗り替えた。
光が収まると、そこには崩れ落ちるアブソリュート・ゼロと、力尽きて膝をつくゼノの姿があった。
シールドの赤い光が消え、ゼノの身体が淡く透けていく。
「……あ」
ゼノの視線の先には、奇跡的に息を吹き返し、呆然とゼノを見つめるリフレインがいた。
「……リフレイン。奏のやつ……お前に、これを渡したかったらしいぜ」
ゼノは自分の胸元、奏の心臓があった場所から、淡い光の粒子を取り出した。
それは、奏が最後に見ていた、リフレインの笑顔だった。
「奏……様……」
「……泣くんじゃねえ。……俺は、ずっと退屈してた。お前らとの旅は……少しは、悪くなかったぜ」
ゼノは最後にもう一度、不敵に笑うと、その身体を完全に光の粒子へと変えた。
その粒子は、リフレインを優しく包み込み、ゆっくりと、地面に倒れる奏の身体へと還っていった。
――もう二度と、ゼノは現れない。




