絶望のアンコール、命のプラグ
アンダンテの街を飲み込んだのは、音のない嵐だった。
空に浮かぶのは、ディソナンスさえも踏み台にした真の元凶――沈黙の化身『アブソリュート・ゼロ』。奴が指を鳴らすたび、世界の「音」が文字通り消し飛ばされ、存在そのものが希薄になっていく。
「……っ、体が、動かない……!」
俺とリフレインは、広場の中央で膝をついていた。
奴の放つ「絶対静止」の波動は、空気の振動さえも許さない。声を出すことすら、喉を焼かれるような苦痛を伴う。
「クソッ……ゼノ! 目を覚ませ! このままじゃ全滅だぞ!」
俺は必死に赤いシールドを心臓に押し当てる。だが、シールドは氷のように冷たいまま。ゼノの意識は、あまりに強大すぎる「無」の圧力に抑え込まれ、浮上してこない。
その時だった。
アブソリュート・ゼロが、漆黒の指揮棒を俺たちに向けて振り下ろした。
放たれたのは、因果を断絶する「無音の衝撃波」。
「危ない……っ!」
ドン、と横から突き飛ばされた。
地面に転がった俺の視界で、スローモーションのようにリフレインの体が宙を舞う。
「……え?」
衝撃波を真っ向から浴びたリフレインが、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
彼女の胸元からは、命の輝きである「音の魔力」が、砂のようにさらさらと零れ落ちていく。
「リフレイン! おい、しっかりしろ! リフレイン!!」
俺は彼女を抱き起こした。温かかった彼女の手が、急速に冷たくなっていく。
「奏……様……。よかっ、た……。あな、たが……無事で……」
「喋るな! 今、今すぐ助けるから! ゼノ、おいゼノ! 何してんだよ! 出てこいよ!!」
叫んでも、世界は静まり返ったままだ。
リフレインの瞳から光が消える。彼女の心拍が、俺の腕の中で止まった。
「……あ。……あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
喉が裂けるような絶叫。
絶望が、俺の中の何かを壊した。
リフレインがいない世界に、俺の命なんて必要ない。
俺の心臓なんて、彼女を動かすための「ゼンマイ」でいい。
「……ゼノ。……聞こえるか。俺の命、全部やる」
俺は震える手で、赤いシールドのプラグを握りしめた。
これまでのように「接続」するんじゃない。**「融合」**させるんだ。
俺はプラグを、自分の心臓の奥深くまで、限界を超えて叩き込んだ。
「俺を殺していい! だから……リフレインを、返せぇぇぇぇぇ!!!」
ドクン!!
心臓が、爆発したような錯覚。
奏の意識が、真っ白な閃光の中に消えていく。
代わって溢れ出したのは、これまでの比ではない、暗黒と灼熱が混ざり合った「暴力的なまでの音圧」。
「――ハッ。……全くだ。お節介がすぎるぜ、相棒」
ゆっくりと立ち上がったのは、奏の姿をした「完全覚醒」のゼノだった。
その瞳には、かつてない怒りの炎が宿り、手にしたテレキャスターからは、空間を削り取るような低周波の雷鳴が轟いていた。
奏の命を燃料にして、伝説の破壊神が、今、真に降臨した。




