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内山、部活やめるってよ  作者: 北塚欅
2/5

永田叶恵

内山くんが剣道部を辞めたって話は、実は私が一番最初に知った。

昨日の放課後、体育館への渡り廊下で、剣道部の顧問の田村先生とすれ違ったとき、先生が誰かと電話してたのが聞こえた。

「ええ、内山くんが辞めたいと。はい、昨日相談を受けまして」

そのとき、ああ、と思った。

内山くん、辞めるんだ。

別に驚きはしなかった。なんとなく、そんな気がしてた。


今朝、教室に入ったとき、内山くんの席を見た。誰もいなかった。

ああ、休んでる。

そう思った瞬間、なんか、納得した。

部活辞めた次の日、学校休むんだ。

内山くんらしいな、って。

いや、内山くんのこと、別によく知ってるわけじゃないんだけど。

朝のホームルームが終わって、隣の高橋さんと田村さんに、昨日聞いた話をした。

「え、マジで? 内山くんが?」

高橋さんが驚いた顔をした。

「うん。先生が電話で話してるの聞こえちゃって」

「でもさ、なんで中3で入ったんだろうね」

高橋さんが首を傾げる。

「急に運動したくなったとか?」

「それで10ヶ月で辞めるの? なんか変じゃない?」

そこに前の席の木村くんが振り返ってきて、話に加わった。

私は木村くんに聞いてみた。

「木村くん、内山くんと仲良いの?」

木村くんは首を振った。

「いや、全然。同じクラスなだけ」

「そっかー。でもさ、なんで中3で剣道部入ったんだろうね」

「さあ?」


うちのクラス、男子が十数人しかいないから、男子は男子で固まってる。でも内山くんは、その輪にもあんまり入ってない感じ。

休み時間、いつも一人で本読んでる。

何読んでるのかな、って思って、一度遠くから見たことがある。

ふつうの文庫本だった。タイトルまでは見えなかったけど。

1時間目の授業が始まる前、私は内山くんの席をもう一度見た。

窓際の一番後ろ。

机の上には何もない。椅子もきちんと入ってる。

きれいに片付けられた席。

まるで、最初から誰もいなかったみたいに。


国語の授業中、先生が『源氏物語』の話をしてた。

光源氏が紫の上と出会う場面。

「ここで光源氏は、紫の上の中に、亡き藤壺の面影を見るわけですね」

先生の声が教室に響く。

私はノートに板書を写しながら、なんとなく、ぼーっとしてた。

紫の上と藤壺。

似てるけど、違う人。

代わりにはならない。

ふと、内山くんのことを思った。

内山くんは、剣道部で、誰かの代わりになろうとしてたのかな。

いや、違うか。

何を考えてるんだろう、私。

変なこと。

窓の外を見た。曇り空。今日は雨が降るかもしれない。


2時間目が終わって、休み時間。

高橋さんが「ねえ、購買行かない?」って言った。

「行く行く」

私たちは廊下に出た。

階段を降りながら、高橋さんが言った。

「叶恵さ、内山くんのこと、気になってんの?」

「え?」

「だって朝からずっと内山くんの話してるじゃん」

「してないよ」

「してなくてもぼーっとしてる。朝も昼も」

「それは...」

確かに。

言われてみれば、今日一日、内山くんのことばっかり考えてる気がする。

なんでだろう。

「別に気になってるわけじゃないけど」

「ふーん」

高橋さんは意味ありげに笑った。

「違うって! ただ、なんか、不思議だなって思っただけ」

「何が?」

「中3で部活入って、10ヶ月で辞めるって」

「まあ、確かに珍しいよね」

購買に着いた。今日はクロワッサンサンドが売ってる。私の好物。

列に並びながら、私は内山くんのことを考え続けていた。


内山くん。

同じクラスにほぼ一年間いるけど、ちゃんと話したことがない。

いつから同じクラスだっけ。

中3になってから。

中1中2は、確か違うクラスだった。

でも、存在は知ってた。何回か頭がいいって聞いたことがあるから、顔と名前は一致する。

内山くん。

静かな人。

でも、暗いわけじゃない。

ただ、一人でいることが多い人。

グループワークとかで一緒になったこと、あったかな。

あった気がする。

でも、何を話したか、覚えてない。

きっと、課題のこととか、そういう話だけだったんだろうな。


クロワッサンサンドを買って、教室に戻った。

席に座って、包装を開ける。

サクサクのクロワッサンに、ハムとチーズが挟まってる。

おいしい。

幸せ。

ふと、内山くんの席を見た。

やっぱり、誰もいない。

内山くんは、今、何してるんだろう。

家にいるのかな。

布団に入って、休んでるのかな。

それとも、起きて、何か別のことしてるのかな。

本を読んでたりして。

そんな気がする。

内山くんって、本当に本が好きそう。

いつも読んでるもん。

私も本は好きだけど、内山くんほどじゃない。

最近読んだのは、友達に勧められた恋愛小説。

タイトル忘れた。

そういえば、内山くん、どんな本読んでるんだろう。

今度、聞いてみようかな。

いや、でも、急に話しかけたら変かな。

一年間、ほとんど喋ったことないのに。

でも、話しかけてみたい。

なんでだろう。


昼休み、お弁当を食べた。

今日は母が作ったオムライス弁当。ケチャップでハートが描いてある。

恥ずかしい。

でも、おいしい。

「叶恵、それかわいい」

高橋さんが覗き込んできた。

「お母さんが作ったの」

「いいなー。うちなんて、適当に詰めただけだよ」

高橋さんの弁当を見ると、確かに、おかずがぎゅうぎゅうに詰まってた。

「でも、おいしそうじゃん」

「まあね」

二人で笑った。

お弁当を食べ終わって、麦茶を飲む。

窓の外を見た。

雨が降り始めてた。

小雨。

しとしとと、静かに降ってる。


午後の授業。

5時間目は英語。

私の得意科目。

先生がリスニングの音声を流す。

私はシャーペンを持って、問題用紙に目を通す。

集中。

音声が流れる。

イギリス英語。

ちょっと聞き取りづらい。

でも、何とかついていく。

問題を解く。

たぶん、全部正解できた。

やった。


授業が終わって、放課後。

バドミントン部の練習がある。

更衣室で部服に着替える。

「永田、今日調子良さそうだね」

同じ部の先輩が言った。

「そうですか?」

「うん。なんか、いい顔してる」

「ありがとうございます」


体育館に向かう。

廊下を歩きながら、ふと、剣道部の方を見た。

食堂の上の剣道場。

そこで剣道部が練習してる。

中から、竹刀を打ち合う音が聞こえる。

「面!」

気合の声。

内山くんも、あの中にいたんだな。

昨日まで。

どんな気持ちで、練習してたんだろう。

楽しかったのかな。

それとも、つらかったのかな。


体育館に入る。

ネットが張ってある。

部員たちが、もうウォーミングアップを始めてた。

「永田、早く!」

「はーい!」

私も輪に加わる。

ラケットを握る。

シャトルを打つ。

パコーン、って音が響く。

気持ちいい。

バドミントン、好きだ。

部活、楽しい。

みんなで一緒に汗を流して、笑って。

こういう時間が、好き。

内山くんは、剣道部で、こういう時間を過ごせたのかな。

また、そんなことを考えてた。

練習が終わって、片付け。

ネットを畳んで、シャトルを数えて、ラケットを片付ける。


「お疲れ様でした!」

みんなで声を揃える。

更衣室に戻って、着替える。

「永田、明日も頑張ろうね」

先輩が声をかけてくれた。

「はい!」

私は笑顔で答えた。

でも、心の中では、まだ内山くんのことを考えてた。


校舎を出る。

雨は止んでた。

でも、地面はまだ濡れてる。

空気が冷たい。

真冬の匂いがする。

家に帰る道。

スマホを見ながら歩く。

LINEに、バドミントン部のグループから通知が来てた。

明日の練習メニューについて。

私は「了解です!」ってスタンプを送った。

そして、ふと、思った。

内山くんって、LINEやってるのかな。

クラスのグループには入ってる。

でも、一度も発言してるの見たことない。

既読はついてるから、見てはいるんだろうけど。

内山くんのアカウント、検索してみようかな。

いや、やめとこう。

変だよね。

でも、気になる。

なんで、こんなに気になるんだろう。

昨日まで、ほとんど意識したこともなかったのに。


家に着いた。

「ただいま」

「おかえり。お風呂沸いてるよ」

母の声。

私は部屋に上がって、カバンを置いた。

制服を脱いで、普段着に着替える。

鏡を見た。

髪がぼさぼさだ。

お風呂入ろう。

湯船に浸かりながら、また考えた。

内山くん。

明日、学校来るのかな。

来るよね、たぶん。

内山くんって、あんまり休まないイメージ。

真面目だから。

明日、話しかけてみようかな。

「内山くん、昨日どうしたの?」とか。

いや、それ変かな。

「体調大丈夫?」とか。

うーん。

どうしよう。


お風呂から上がって、ドライヤーで髪を乾かした。

夕飯は、カレー。

私の好物。

「おいしい」

「良かった」

母が笑った。


食べ終わって、自分の部屋に戻る。

宿題をする。

数学のプリント。

難しい。

全然分からない。

内山くんなら、すぐ解けるんだろうな。

数学も得意だったはず。

いいなあ。

私、数学苦手なんだよね。

明日、内山くんに聞いてみようかな。

「この問題、教えて」って。

それなら、自然に話しかけられる。

いや、でも、そんなために話しかけるのも変かな。

うーん。

悩む。

結局、宿題は半分くらいしかできなかった。

明日、誰かに聞こう。


ベッドに入る。

天井を見た。

白い天井。

何もない。

スマホを手に取る。

LINEを開く。

クラスのグループを見る。

誰かが明日の時間割の確認をしてた。

ふと、内山くんのアカウントを検索した。

あった。

プロフィール画像は、デフォルトの灰色のアイコン。

ステータスメッセージは、何も書いてない。

タイムラインも、何も投稿してない。

そっか。

内山くんって、SNSとかあんまりやらないタイプなのかも。

私は、スマホを置いた。

目を閉じる。

明日。

内山くん、来るかな。

来たら、話しかけてみよう。

勇気を出して。

そう思って、眠りについた。

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