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息抜き  作者: hagisiri
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営業兼案内人

新卒でとある会社に入社した二人の青年がいました。その二人をA、Bと呼ぶ事にします。

彼らの仕事は大型健康器具の営業。街中にいる不健康な人のために自社の商品を売り込んでいました。

二人の営業スタイルは対照的です。

Aは少しでも会社の商品に興味を持った客に狙いを定め、相手が根負けして「買う」と言うまで離れる事はありませんでした。一方Bは街中を走り回り幼稚園から老人ホーム、農家からIT企業までありとあらゆる団体に商品を紹介して回りました。

Aは一度目をつけた顧客を絶対に離さない貪欲な営業スタイルでまるでティッシュ配りの如く商品を売り、わずか二年弱で社内のエースになりました。その功績と売り上げへの執着心から畏怖の念を込めて「アリゲーター」と呼ばれるようになりました。

これはそんな同期を持ってしまった非才 B の話です。


Bは今日も朝一番に出社してホワイトボードに貼られた売上表を見ます。自分の売上のグラフはコンビニのサンドイッチに挟まるハムのように薄く、その横にあるAのグラフは天井をつき抜けるほどに高く聳え立っています。

Bは一度、深呼吸をして自分のデスクに座ります。「お客様に正直に」と付箋の貼られた手帳を開き、今日の予定を確認します。

9:00~12:00 内勤

13:00~ 外回り

午前に雑用をやって午後を丸々使い仕事を探しに行く。こんな単純で分かりやすいスケジュールを組める社会人は凡そまともではありません。会社から期待されず仕事を任されないが、少しでも人の役に立とうと努力する人間のスケジュールです。Bはこのスケジュールを一年以上も続けていました。


12:00を過ぎると彼はオフィスを出て近くの定食屋に行きます。

Bはサラリーマンが数人いる店内で仲間意識を感じながら入り口近くの空いている席に座ります。

机の横に重なっている半透明の茶色いコップを一つ取り水を注いでいるとエプロンを着たおばちゃんが近づいてきます。

「今日も豚カツ定食でいいかい?」

「はい。お願いします」

Bは注文を終えると、この後向かう企業のために作った資料を読み直します。


資料を一通り読み終えた頃、Bが勤めている会社の女性社員二人が話しながら店に入ってきました。

「先週の土曜日Aさん駅で綺麗な女の人と二人で歩いてた」

「え。私狙ってたのに」

「アレはモテるでしょ。仕事もできて口も上手いんだから」

「そりゃそっか」

二人は楽しそうに談笑を続けていました。


「ご馳走様でした」

Bは店を出てバス停に向かいます。予定時間の30分前に目的地に着く余裕を持った時間設定です。

しかしバス停に向かう途中、道端で大きな声で叫びながら暴れている高齢のおじいさんを発見してします。Bは腕時計で時間を確認しておじさんに近づきました。

「どうかしましたか?」

「車が行ってしまった」おじいさんは泣きながら頭をぐしゃぐしゃと掻きむしります

「なんの車ですか?」Bは落ち着いて状況を聞きます

「孫を乗せて行ってしまったんじゃ」おじさんは取り乱しています

「誘拐ですか?」Bは驚いて聞きます

「孫が勝手に乗ったことに運転手が気づかなかった」会話ができる程度には落ち着いてきました

「えっと…とりあえず警察に連絡しましょう」Bは複雑な状況に頭が混乱します

「あぁ」生気が抜けたおじさんをBは交番に連れて行きました。

五分もすると交番に到着したので連絡先だけ渡して後のことは警察に任せることにしました。


 

 次の日の朝、やはりBは誰よりの早く出社します。昨日行った取引先でもBは値段のことや商品の欠点などを洗いざらい吐いてしまい契約をする事は出来ませんでした。

 Aのデスクに置かれている可愛く赤いリボンで飾られたワニのぬいぐるみが嘲笑うようにBを見つめます。BはAが仕事に不要な物を会社に持ってこないことを知ってたので、誰かがAにプレゼントしたものだとすぐに理解しました。いつかは自分もこんな物もらってみたいな。と少し嫉ましく思います。

 それでもBは午前の仕事を終わらせると会社を出て取引先を探しに行きます。しかしもう近くにある施設は全て訪問してしまいました。そこでBは車に乗り込み、活動範囲を広げることにしました。「その前に腹拵えをしなくては」と、いつもの定食屋さんに向かいました。

 店に入り、やはりサラリーマンの多い店内を歩いて奥の席に座ります。座っていつも通り水をコップに注いでいると「今日も豚カツ定食でいいかい?」とおばちゃんが注文を取りきます。「お願いします。」と言って今日使う資料を見返し始めました。


「ご馳走様でした」

いつもはこのままバス停に向かいますが、今日は車を使うため一度会社に戻ります。

会社まで歩いている最中「家どこ?」と涙まじりの声が聞こえます。声が聞こえる方を向くと、まだ歯も生え変わっていなさそうな小さな女の子が立っていました。

Bは近づいて声を掛けます「大丈夫?」

子供は泣きながら言います「お家無くなっちゃった」

Bは取引先に事情があり遅れる、と連絡して子供に目線を合わせるためにしゃがみます「どっちからきたかわかる?」

子供は「わかんない」と涙を堪えながら言います

Bは家の場所を特定できないか試みます「お家の近くに何かあったりしない?コンビニとかさ」

子供は答えます「赤いポストと鏡がある」子供の目から涙が一滴こぼれます

Bは鏡をカーブミラーと予測して質問を続けます「よく遊ぶ公園とかある?」

子供は答えます「タコの滑り台あるところ」

Bはこの三つの情報から大体の場所を把握します。取引先に迷惑をかける事は承知で子供をその周辺に送るために手を握りました。

するとその直後ピーポーピーポーとパトカーが叫びながらこちらに向かって走ってきます。パトカーはBの真横で停車し、中からは警察が二人降りてきました。

警察は鋭い目を向けてBに質問します「今、何をされていましたか?」

Bは家の周辺の情報を聞き出していたことで、誘拐を疑われたとすぐに勘付いたので慌てて答えます「すいません。この子迷子みたいで」

警察はBを一瞥して質問を続けます「その子とはどのようなご関係ですか?」

Bは疑われていることにひどく傷心しながら答えます「さっき声を掛けられて」

警察はまだ冷たい口調で話します「ここからは私たちが対応しますので」

Bはこの後の予定のことも考え、不満を残しながらも子供を警察に渡します「聞いた話から考えるとおそらくタコ公園とコンビニの間くらいだと思います」

警察は最後にBの連絡先を聞いて去って行きました。


Bは昨日の営業は少し手応えを感じていました。いつも通り他社と比較して、自社を選ぶメリットとデメリットを話した結果、取引先に見事に噛み合っていたからです。Bはその時した先方との会話を夢に見るほど嬉しく思っていました。

今日もBは一番早くに出社します。ご機嫌に鼻歌を歌いながら手帳を開きます。

今日は何度か訪問している営業先に新しい商品を紹介しに行く予定がありました。

 長期的にお世話になる取引先から信用を失うのは最もまずいことだと理解していたBは遅刻しないようにいつもより三十分早く会社を出る予定を立ててアラームをセットしました。

 

 午前中の作業をしているとアラームが鳴ります。Bはもうこんな時間かと立ち上がりいつもの定食屋に向かいます。

定食屋が見えてきた時、薄いピンク色の髪の毛を持った若い女性が声をかけてきました。

「あのここからT大学まで三十分で行けますか?」と眉を八の字に傾けます。

「バスとか電車は厳しいと思います。タクシーなら何とか間に合うかもしれません」Bはその大学が昨日の取引先の近くにあることを知っていたので、バスや電車で行くと時間がかかることを親切に教えます。

「すみませんお金無くて。単位もヤバくて。あっ。すいませんありがとうございます」狼狽するように女性は涙を浮かべた後、Bの存在を思い出したように謝罪とお礼を言います。

Bは腕時計を見て「うーん」と悩んだ後「もし良ければ送っていきましょうか?」と提案しました

「本当ですか?」女性は希望を見つけた良いうに顔を上げます。

「はい。今車取ってくるので待っててください」Bは女性の反応に相当な余裕のなさを感じたので、急いで社用車を取りに会社に戻りました。


 車を取ってきたBは窓を開け、女性に声をかけます「どうぞ乗ってください」

「ありがとうございます」と女性は急いで車に乗り込んだ後「道わかりますか?」と尋ねます

「はい。この間ちょうど近くに用事があったので」黄色信号が見えたのでブレーキを踏みながら伝えます

「…すみません。会社の車ですよねこれ。大丈夫ですか?」女性は気まずそうに聞きます

「大丈夫ですよ。事情を知ったらみんな納得してくれると思います」Bは内心不安でしたがただでさえ余裕のない女性に気を遣わせるの紳士的ではないと思い笑顔で答えます


大学について女性を下ろします。女性は「本当にありがとうございました」と一言残し大学の方へ走っていきました。

Bが時計を確認すると取引先との約束時間の一時間前になっていました。お昼ご飯は食べられないな、と諦めて急いで車を会社に戻し、バス停に走ります。


 やはり今日もBはいちばんに出社します。しかしBは珍しく落ち込んでいました。なんと昨日の訪問で五分遅刻してしまったのです。

 取引先の方は「Bさんが遅刻なんて珍しいですね」と笑って許してくれましたが、Bは真面目さと根性のない自分などAの完全な劣化になると恐れ、焦りました。

 Bも馬鹿ではありません。もちろん理不尽や不満を感じます。女性を無視していれば、黄色信号を無理やり渡っていれば、もっと自分に営業の才能や強欲さがあってAの様に淡々と仕事をこなせていれば。そう思うと毎日酷使して溜まっていた膝の疲労が一気に押し寄せてきます。

 そういえば今日は新規に営業だな。とBはぼんやりと思います。営業先には車で行けるから身体は疲れないな、と無気力に考えながらダラダラと午前の仕事を始めました。


 正午になります。このままでは何も解決しないと空元気で背筋を伸ばし、いつもの定食屋でご飯を食べて営業先へ向かいます。

 しかし人にはとことん調子の乗らない日があるようです。予定時間の十五分前に営業先に着き、受付に確認すると「明日のご予定ではないでしょうか?」と言われてしまいました。Bが焦って手帳を確認するとこの会社は確かに明日の予定でした。

 悪運は数珠の様に長く連なっています。ズレたこの予定に何が入っているのか?最悪なことに他の取引先との商談が記されていました。

 その取引先との待ち合わせまで残り時間は十分。急いでも到底間に合いません。

 Bは営業の才能がない分、せめて多く回ろうと努めてきました。自分はそうやって会社に貢献しようと考えていたからです。しかしその努力も裏目に出てしまい、胸の何かがスッと消えてしまいます。

 落胆という感覚を遥かに超え、絶望したBは遂に取引先との予定をすっぽかしました。


 Bは右に回り続ける腕時計の針を無視して車を運転します。

 会社に着くと上司が駆け寄ってきます「B大丈夫か?」上司はBの頭から足元までを往復する様に見て言います。

 Bは「はい。すみません」と無気力に答えます。

「本当に大丈夫か?『取引先から約束時間になってもこない』と連絡があってな。説明は良い。今日は帰って休みなさい」上司はBにタクシー代の一万円札を渡し、背中を軽く叩きました。


 揺れるタクシーの中、クビになるんだろうなと公園のベンチいるホームレスを見て思います。

 Bが住んでいるアパートの前でタクシーは止まりBを下ろします。タクシーからアパートまでの数メートルに歩くBに女子高生が話しかけます。

「あのすみません。ここからいちばん近い駅ってどこですかね?」

「あっちの方だと思います」Bは気だるげに指を指します

「あ、あっちですね。ありがとうございます」女子高生は困惑したような、訝しんだような顔で形式的なお礼を言ってBが指を指した方向に歩き始めました。

 女子高生の背中が見えなくなりかけた時、Bは駅に向かうバス停が指差した方向とは逆側にあったことを思い出します。

 Bは考えます。この事を伝えるべきか、このまま家に帰るべきか。この後予定があるわけでもないので伝えに行く事にデメリットはありません。しかし伝える事にメリットもありません。

 Bはとりあえず女子高生の後ろを歩いて追いかけながら考えます。

 最初は後期高齢者の様な歩みでした、しかしその速度は徐々に速くなります。歩幅は広くなり、足は早く回転し始めます。

「あの、すみません」Bは息を切らしながら女子高生に声をかけます。

「わぁ。どうしたんですか?」女子高生は驚いて振り返ります。女子高生は不審者に絡まれたように身構え、怯えていました。

「すみません。バス乗るなら、この先の大通りに出て右側です」と汗をハンカチで拭きながら答えます。

「わざわざ伝えにきてくれたんですか?ありがとうございます」さっきまでの警戒した表情とは一転して女子高生は満面の笑みでお礼を言います。

「いえ。それでは」Bは「ありがとうございました」と頭を下げる背を向けて家に向かいました。

 Bは膝の疲労と共に「ありがとうございました」と言われた時の自己有用感を思い出します。おそらく都合の悪いことを隠して、罪悪感を感じながらでは得ることの出来なかった背徳感の一切ない快感。

 Bはこれを求めていたのだと強く自覚します。自分の快楽ために人の喜ぶ姿を見たい。自分がただの善人ではない事を思い出しました。どうせ全て自己完結しているのだからとBはミスする事を恐れなくなりました。


 次の日、Bは誰よりも早く出社しました。

 Bは売上表に載っているAの名前の横に書かれたワニの絵を見ます。

 今まで全ての人を尊敬し生きてきたBが、こんな目に見える評価を気にするのか、(アリーゲーター)なんてダサい異名でいいのか。と今まで全ての人を尊敬して生きてきたBが、あろう事か万人が認める天才であるAを嘲笑しました。 もちろんこの瞬間だけ

 カバンを床に置いて仕事に取り掛かったと同時にデスクの横に置いてある固定電話が鳴りました。

 Bは急いで受話器を手に取り対応します。

「弊社のBです」

「Bさんならこの時間にいると思った。昨日の商談をする予定だった取引先の者です」電話相手は嬉しそうに笑いながら答えます。

「昨日は誠に申し訳ございませんでした」とBは怒られていると思い、冷や汗をかきながら必死に謝罪します。

「いやいや全然いいんですよ。Bさんがサボる事なんてなかったから心配で。お元気そうでよかったです」優しく話す取引先に安心します。

「ありがとうございます。それでご用件は?」

「この商談の振替日をご相談したくて」


「ではよろしくお願いいたします」商談の日が決まり受話器を置くと、寸秒もしないでまた電話が鳴り始めます。

Bは一瞬戸惑いましたが深呼吸し、受話器を再度持ち上げます。

「はい。弊社です」

「あの、すみません。先日そちらの会社の方に助けて頂いた者なんですが」無理やり敬語を使おうとしてしどろもどろに話す若い女性の声でした。

「なるほど。」Bは「ご用件は?」と聞くのは冷たい気がして中途半端に相槌を入れます。

「あの。大学まで送ってくれた方っていますかね?」女性は様子を伺う様に小さな声で言います。

「あ、あの時の。私です。わざわざ有難うございます」Bは状況をようやく理解します。

「あなたでしたか。その際は本当にありがとうございました。直接会社にかけるのは迷惑だとは思ったのですが、どうしてもお礼がしたくて」と気恥ずかしそうに女性はいいます。

「いえいえ。お気になさらず。ではお元気で」Bが電話を切ろうとすると「あの」と勢いのある声でBを呼び止め「ウチのお父さん会社経営してるんですけど今度営業に来ませんか?」と続けます。

 仕事の話と分かりBは真剣な顔つきになります「ご予定空いている時間などは有りますでしょうか?」

「後で父に掛け直させます。お忙しいところ有難うございました」女性は電話を切りました。


 紹介された会社に訪問した翌日の朝、Bは頭がぼんやりしていました。


 Bは昨日、娘を助けた恩がある分いつもより勝算があると期待して取引先へ向かいました。

 案内されたソファで姿勢よく座っていると、ドアの外からカツカツと足音が聞こえます。Bはそろそろ来ると思い、一度立ち上がります。

 Bは父親の会社と聞いていたので高齢の男性が話を聞いてくれると思っていたのですが、ドアが開き見えたのは若くて美しい女性でした。

 Bが見惚れてぼんやりしていると「大丈夫ですか?」と名刺を持った女性が顔を覗き込むように首を傾けます。

「すみません。弊社のBです」と慌てて名刺を差し出します。

「先日は妹が迷惑をかけてしまい申し訳ございません」と女性は頭を下げます。

「お姉様でしたか。迷惑だなんてとんでも無い。こうして御社と知り合えるきっかけにもなった事ですし」とBはわざとらしく媚を売るように言います。

 それからBが商品の説明をしているとドアが勢いよく開き「ママ見てー」と言って可愛らしく不細工な折り鶴を持った小さな女の子が女性に飛びつきます。

 Bは説明を一旦止め、その女の子を見るとその子がこの間迷子になっていた子供だと思い出します。

 女性は「可愛くできたね。ママお仕事中だから後でね。」この間Bはこの子供も助けた事があると言い出そうかと悩みましたが、恩着せがましくなると謙虚さを取り戻して親子の様子を黙って眺めていました。

「すいません。落ち着きが無くて」申し訳なさそうに女性は頭を下げます。

「子供は元気が一番です。可愛い娘さんですね。」と言ったものの内心ではこの女性に子供がいる事に少し落胆していました

「パパちょっとお願いね」と言って扉の奥に立っている白髪の生えた貫禄のあるお爺さんに女の子を預けます。

「会社に連れてきているんですね」Bが聞きます。

「すみません。お恥ずかしい話ですが私二年前に離婚していまして。近くの保育園もいっぱいで入園できなくて、留守番させていたら一人でどこか行って迷子になちゃって…あ。っすみません説明の途中に」女性は続けてくださいと言うように資料を眺めます。

「では続けさせていただいます。こちら…」Bは女性が離婚をした事実に上の空で仕事に身が入りませんでしたが、何百回と行ってきた説明なので体が覚えていました。


「本日はご足労いただきありがとうございました。検討の時間をいただいた上でまた後日連絡させてください」と女性が言います。

「こちらこそ御時間いただきありがとうございました。ご連絡お待ちしています」Bが立ち上がり帰ろうとすると、またドアが勢いよく開き女の子が入ってきます。

「終わった?見て」女の子が三匹鶴を増やして走ってきます。

「では失礼致します」Bが言うと「バイバーイ」女性抱えられた女の子がBに手を振ります。


会社からの帰り道Bは心ここに在らずで車窓を眺めていました。


 Bが家に帰り、風呂から上がると携帯電話に呼ばれている事に気が付きます。

 濡れた髪の毛のまま携帯を手に取り、画面を確認すると知らない番号からでした。警戒しながらもその電話に出てみるます。

「夜分遅くに申し訳ありません。本日商品の紹介をしていただいた者です」聞こえてきたのはさっきの綺麗なお姉さんの声でした。

「はい。弊社のBです」Bは何か粗相をしたのでは無いか、と最近の記憶をひっくり返しますがこれと言って思い当たることはありません。

「すみません。仕事の話とは別でお伺いしたいことがありまして」不安げな声が聞こえます。

「は、はい。なんでしょう…か?」仕事以外で人とあまり話さないBは仕事では無くなった瞬間、頼りなく狼狽します。

 女性は明らかに緊張しているBの声を聞いてふふっと笑い「小さな女の子を助けた事ありませんか?」と聞きます

「あ、あの、あります」Bは落ち着かないまま急いで返事をします。

「やっぱり!娘が迷子になった時警察さんから貰った電話番号と名刺に書いてある番号がが同じで」と少し興奮した様に言い「妹に加えて娘まで助けていただいてありがとうございます」と続けます。

「有難うございます。娘さんが無事でよかったです」と少し落ち着いたBが答えます。

「あの今度の日曜日…」



 数年経つと会社には二人の伝説が居たと語られます。

 どんな人間が相手でも一度目をつけた獲物は逃さず、魅力に欠ける平凡な商品を売り捌く。無名だった会社の売り上げを数年で数倍にし、会社を成長させた男。アリゲーター

 それともう一人。会社の利益を生み出さないし、周りから憧れられるような人間ではなかったが、「いつ」「どこで」「どんな」迷い方をしていても必ず目的地に辿り着かせる男。ナビゲーターがいたと。


 これは十数年後に入社した新入社員Cが聞いた話です。

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