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ぶかぶかの服に細くて長い手足。
綺麗な手。
幼さの残る顔立ち。
大きな目をぱちぱちさせるなど、少し子供っぽい仕草をする。
年齢は、……十六歳か十七歳くらいかな?
そこまでの思考を星は一瞬で終わらせた。
目の前の少年からはよこしまな感じはまったく伝わってこない。ひとけのないこの閉鎖的な空間の中で、安心感を持っているということはとても大きなことだった。
「えっと、さっきはごめんなさい。ちょっと僕、人違いをしてしまったみたいで……」
頭を掻きながら頬を赤く染める少年。どうやら星とは違う誰かが門の外に立っていると考えていたようだ。
「別に構いません。間違いは誰にでもありますから」
星はにっこりと外向けの笑顔を作る。そんな星の様子を見て、魚はやれやれといった感じで暗い世界の奥に引っ込んでいった。
「私、本田星って言います。あの、失礼ですけど、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「僕? 僕は葉山澄って言います」
「はやま、すみさん……、ですね。よろしくお願いします、澄さん」
「澄でいいよ、星さん」
澄は少し照れくさいようだが、それでもきちんと星に微笑みを返してくれた。
澄のその笑顔には星のような作り物の笑顔ではなく本当の笑みが宿っていた。それを目の当たりにして星の笑顔もだんだんと本当の笑顔に近づいていく。