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「なんでなんだろう? 星はどう思う?」
星は目を開ける。
「雨が降る理由?」
「そう。森に雨がよく降る理由」
「そんなの、わかんないわ」星は自分の頭を澄くんの体に預けた。(不思議と青猫が澄くんの腕の中にいても平気だった。それくらい私は眠かったのかもしれない)
「興味ない?」
「うーん、どっちかっていうと、ないかな?」
……自然な答え。……自然な会話。なんだろう? とても懐かしい感じがする。……そう、この感じだ。海だ。まるで海と話をしているような感じがする。
やっぱり澄くんは海に似ている。
……すごいや。海にいている人が、この世界のどこかにはちゃんといるんだ。(……そして、そんな人に私は出会うことができたんだ)
そんなことを星はとても不思議に思う。
「雨は好き?」
澄くんが聞く。それが如何にも海が言いそうな言い回しだったので、星は思わず嬉しくて傘の下で吹き出しそうになってしまう。
「私、雨は嫌い」
星は本当のことを答える。
「どうして?」
「雨が降ると、外、走れないから」
もちろん、走ろうと思えば雨でも外を走ることはできるし、体育館の中とか、学院の校内であれば雨に濡れることなく走ることもできる。……でも、星はそれが嫌だった。星は別に走ることを競技として捉えているわけではないし、(それほどタイムが良いわけでもない)そもそも星が走るのは自由を感じるためだった。
星は走るという行為に開放感を(そして青空と透明な風を)求めていたのである。