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『わかった。なら、木の枝を折っておこう』しばらくして魚は星にそう話しかけた。
「うん。じゃあ、そうする」
星は魚の忠告通り、分かれ道の真ん中にある木の枝を手で一本へし折った。
「まあ、確かになにもしないよりはましかな?」
『それどうするの? 持っていく?』魚は星が手に持っている木の枝のことを言っている。
「持っていかない。邪魔になるだけ」
『武器になるかもよ?』
「そんなもの私には必要ない」
そう言って星はぽいっと木の枝を森の中に捨ててしまった。
「さぁ、行きましょ、魚。この先で海が私のことを待ってるんだからね」
本田星はそう言って、何事もなかったかのように平然と右の道の上を歩き出した。
なにもかもが未体験のはずのこの状況の中で星は失敗するということをまるで恐れていなかった。むしろその図々しくも堂々とした星の姿勢は、たとえそれが虚勢であったとしても、この状況を楽しんでいるようにすら魚には思えていた。そんな星の態度を魚はとても高く評価していた。
『君はいつも自信満々だね。なにか理由でもあるの?』
「秘密よ、秘密」
星はそんな魚の言葉を軽くいなすと、組んだ両腕を空に向かって高く突き出しながらにっこりと笑った。