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第5話 瀬名の失踪

 次の日、瀬名が失踪(しっそう)した。


「藍果先輩……っ」


 歩道橋のすぐそばにある、小さな公園の屋根の下。そこのベンチに腰掛けて、(わたし)はびしょ()れの靴から垂れる水滴をじっと見つめていた。傘の柄を握りしめ、新聞部の後輩——アヤが駆け寄ってくる。私の前で足を止めると、息せき切って顔を上げた。


「やっぱり、見つかりませんでした」

「……っ、そっか……」


 瀬名は、一時間目が過ぎても登校してこなかった。朝、家を出た後に消息を絶ったらしく、先生たちも捜索にあたったが、今も変わらず行方不明(ゆくえふめい)のままだ。大雨警報が出たこともあって、学校は十一時前には切り上げられた。


 それから、アヤとも手分けして瀬名を探し始め、早くも一時間半だ。瀬名が通っている塾や、よく行っている本屋。私もその近辺を探してみたが、足取りはつかめないままだった。


「……先輩、一回(あきら)めて帰りましょう。雨だって午後からもっとひどくなるみたいですし……学校からも外出は自粛(じしゅく)するように言われてるんですから。私たちまで事故にあったりしたら手間が増えます」

「分かってる、分かってるけど……」

「藍果、アヤの言うとおりだ。ここは一旦引こう」


 瀬名の失踪に、例の化け(づた)を差し向けてくる犯人が絡んでいないとも言い切れない。それもあって、弓丸も捜索(そうさく)手伝(てつだ)ってくれていたのだが。


「確かに、瀬名の失踪が〈化生のモノ〉や禍者によるものだったら、それは辿(たど)るべき手がかりにもなる。でも、そろそろ探し始めて半刻(はんとき)以上は()ってるんだ。ここは相手の出方を(うかが)った方がいい」


 私は、口を引き結んでアヤの顔を見上げた。アヤに弓丸は見えていない。雨風に乱れたショートカットの髪が、白い頬にはりついている。アヤはそれをうっとうしそうに指で払って、私から目をそらした。


「瀬名先輩と、ケンカでもしたんですか」

「……そういうわけじゃ」

「さては図星ですね。困りますよ、仲良くしといてくれないと」


 アヤは、こんなときも冷静沈着だ。合理的に状況を判断して、私たちが取るべき行動を示してくれている。私なんかより、ずっと頼りがいがあって、しっかり者で。


「……アヤちゃん。こんなに雨もひどいのに、瀬名のこと、探すの手伝ってくれてありがとう」

「いえ、別に気にしないで」


「付き合わせちゃってごめん」


 アヤは、いい子だ。悪口は言わないし、お願いした作業は快く引き受けてくれる。今日(きょう)だってわざわざ私のいる教室まで来て、「瀬名先輩のこと、探すの手伝いましょうか」って。


 けれど、最近気づいたことがある。アヤは、私たちと話しながら、いつも何か別のことを考えている。部活が終われば一分一秒を惜しむように学校を飛び出す理由も、そこにあるような気がしていた。


「ほんとは、帰ってしたいことがあるんじゃない? それなら、無理しなくてもいいよ」

「……藍果先輩」


 なんだか、瀬名のことも私のことも、ぞんざいに扱われているようで。普段なら、何も気にしなかったと思う。けれど、今は。


「私、もう少し探してみる。アヤちゃんは、先に帰ってて」

「……分かりました」


 そう言って、アヤはその傘を手前側に傾けた。激しく(たた)きつける雨、次から次へと伝い落ちる水の滴で、すりガラスのようになったビニール傘が私とアヤとをさえぎる。


 不意に、雨が()んだ。


 あれほどひどく降りしきっていた雨粒が、今や一滴も落ちてこない。それなのに、相変わらず空は暗くて、じっとりと墨を吸ったような雲が垂れこめている。急な静寂が辺りを包み、張り詰めた糸のような高音が耳の奥で響いた。


「あれ、雨……」


 アヤはそう(つぶや)きながら、傘をずらして空を見上げる。

 次の瞬間、土砂崩れのような轟音(ごうおん)(はじ)け、アヤの背後、約二メートル後方の地面が割れた。土塊(つちくれ)が飛び散り、砂が舞い、巨大な蔦が地中から飛び出す。バネのように伸び上がり、アヤを覆い尽くそうと襲いかかった。


「こいつか!」


 弓丸が叫び、流れるような動作で腰の太刀(たち)を抜き去った。(とげ)のついた蔦は、支柱を探り当てたかのようにアヤの手足へと巻きついて、地の割れ目へと引き込む。


「ア、ヤちゃ……っ」


 呼びかけようにも声がかすれる。アヤは呆然(ぼうぜん)と目を見開いて、ビニール傘を取り落とした。弓丸が太刀を振りかぶり、蔦に向かって跳びかかる。


「せ、せんぱ……」


 大量の蔦が(おお)いかぶさり、亀裂の奥へとアヤの体が飲み込まれた。ざん、と地面に突き刺さった太刀の刃先が蔦の一部を断ち切るが、仕留めるには到底及ばない。ビニール傘が地面に落ちて、その透明な表面を泥水が汚す。


 ほんの一瞬の出来事だった。

〈あとがき〉

戸浦みなもです。ここまでお読みくださった皆様、大変ありがとうございます!

「続きが気になる」「面白い!」と感じていただければ、いいねやフォローなどしてもらえますと力になります(๑>◡<๑)今後ともよろしくお願いいたします。

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