表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

8話

人見知りだけど頑張っちゃう女の子、満月みつき

暴言と課題の多さで学生から避けられがちな鏑木かぶらぎ教授の甘キュンストーリーです。

 バス停に着いた時、発車時刻まで少し余裕があった。半端な時間だからか、車内は座席が埋まる程度の乗車率だ。


 満月(みつき)は最後尾近くまで進み、吊り革を掴む。


「ねえ、東満月(あずまみつき)ちゃんだよね? 俺、2年なんだけどさぁ、割とバス一緒じゃん。覚えてる?」


 突然話しかけられて、思考が止まった。


「なーに固まってんの? 大丈夫だって、俺ら怖くないからさ」


 満月(みつき)に声をかけてきた先輩は、数人のグループであったらしい。


 同学年のマウント男子より怖い。手慣れた口調も、バスの中の見て見ぬふりをする空気も。


『どいつもこいつも、他人事だよな。我が身大事か』


 心の中の、リトル教授が毒づく。


(私だって、同じことをしますよ)


『しない。おまえは、困ってるやつを見捨てられない』


(断言しないでください。嫌なんです)


 その期待を裏切るのが。

 いつ、買いかぶりを悟られるのか、ビクビクしているんです。


『だけどおまえは、その理想の自分を求めてるんだろ』


 正しく、強く。

 自分の意見を主張できる人になりたいんだろ?


『自分の中の二面性、両方ともおまえだ。逃げる側の自分だけを見るな』


 リトル教授は、本当に容赦がない。

 逃げ場のない物言いに、満月(みつき)は怯えた。


(だけど、怖いんです! 私は教授とは違います)


 理想はあっても、直前で逃げ出したり投げ出したりしてしまうのが自分だ。


 弱さを目の当たりにするのが嫌で、ぐずぐずと迷う。


『バカだな』


 呆れたように笑う。そんな息遣いまで感じた。


『なりたい自分はずっとおまえの中にいる。おまえだけがその声を聞いてやれるんだぞ。そっちも大事にしてやれよ』


(もう、分かりましたよ!)


 しつこく言われ、満月(みつき)は心の中で叫び返す。そうして、自分の中の声に触れた。


(ごめんね、ずっと無視してきたね)


 ――私、仲間外れは嫌いなのにね。


(私、本当はどうしたい?)


「すいません、降ります」


 満月(みつき)はバスの運転手に声をかけ、先輩の横を通り過ぎようとした。すると、肩を強く掴んで引き止められる。


「ダメだよ、声かけてんのにどこ行くの」


「勝手に触らないでください。礼儀を習わなかったんですか?」


 平坦な声を作り、手を振り払う。反撃に出ると思っていなかったのか、先輩は怯んだ様子だった。


 おそらく、悪気はないのだろう。少しふざけているつもりの、タチが悪い人なだけ。


「な、何だよ、怖え女……喧嘩売ってんの?」


 なぁ、と、周囲に同意を求めているあたりが小心者の証しだろう。満月(みつき)は掴まれていた方の肩を払い、悠然と言い放った。



「さあ? 鏑木(かぶらぎ)教授の毒舌が移ったのかもしれません」



 作り物の笑顔を残して満月(みつき)はバスを降りる。車内の様子は、今は考えないという心の声に従った。

 向かう先は当然、鏑木(かぶらぎ)教授のゼミ室だ。


「教授!」

(あずま)!?」


 駆け寄った満月(みつき)を見て、教授は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。


「なんで泣いてる」

「泣いてません」

「じゃあその不細工な顔は生まれつきか。正直に言え」


 打ち明けない満月(みつき)に、教授は苛立っている。


 ――確かに口は悪いし、課題量は鬼だけど。


(でも、優しい人だって知ってる)


「教授のぬいぐるみ、作っていいですか」


 唐突な質問に、教授が訳がわからないという顔をした。


「誰がいるんだそんなもの」


 そう言うと思った。

 予想通りの展開に、満月(みつき)は満面の笑みを浮かべて答える。


「私です」

 ――毒舌教授の沼から、抜け出せそうにないので。

読んでいただきありがとうございます。

いいね、ブックマークなどしていただけると創作の励みになります!

皆さまのお気に入りになりますように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ