7話
人見知りだけど頑張っちゃう女の子、満月と
暴言と課題の多さで学生から避けられがちな鏑木教授の甘キュンストーリーです。
「ええと……」
しまった。つい口が滑ってしまった。
鏑木教授はファンも多い。近寄りがたいが顔が好きという女子学生なら掃いて捨てるほどいる。
希は、間違いなくそのタイプだ。
「実は気になってたんだよね、その痛バ! どうしたのそれ、作ったの!?」
「あ、あいつが寄ってきて困ってたら、鏑木教授がくれ……」
気圧されて素直に言いかけ――ハッとして口をつぐんだがもう遅い。
(バカ正直に言う必要ないだろこのバカって、心の中のリトル教授が言ってるー!!)
毒舌を吐かれすぎて、容易に想像がつくようになってしまった。
動揺する満月とは裏腹に、希の目は痛バに釘付けだ。ずらりと並んだ教授推しバッジを眺めては、きらきらと顔を輝かせている。
「ウチ、お姉ちゃんが同じ大学なんだけどさ。鏑木教授に目をつけられると、卒業論文の担当になるって噂があるんだよね」
だからあいつ逃げたんだよと、希は1人で頷いている。どうやら満月が缶バッジを貰ったことについては、特に異論はないらしい。
「どんな成績でも修士レベルのレポートを提出しないと、認められないんだって。あいつも、その話を誰かから聞いたんじゃない?」
なるほど、サボりまくってる人間がクリアするにはかなり高い壁だ。だから、不真面目な学生は鏑木教授に目をつけられないように、身を潜めるのか。
ひとつ謎が解けて、満月はスッキリした。希も、中庭のベンチに伸び伸びと腰を下ろす。
「あたしは院に進みたい派だから、むしろお願いしたいけどね。可愛がられてる満月が羨ましいよ」
にこにこと告げられて、満月は最初何を言われているのか理解できなかった。
「別に、可愛がられてるわけじゃ……いっつも叱られてるし、雑用押し付けられるし」
「そーかなぁ。だって、虫除けのためにわざわざこんなバッジ作ってくれたんでしょ? もしかしたらコレかもよー?」
からかうように笑った希が、両手の指でハートマークを作る。
「ち……違う違う、困ってたから助けてくれただけだって! そうだ、このバッジ希にあげるよ! また絡まれちゃうかもしれないから」
聞きたくなくて、満月はそう口走っていた。慌てたのは希だ。
「何言ってんの! 満月だって困ってたじゃん!」
「大丈夫、もう寄って来ないって」
バッジを留めていたシートをバッグから引き抜き、希に押し付ける。そのまま走り出して、帰宅するために構内のバス停に向かった。
(期待しちゃダメ)
教授の、裏表がない暴言を聞くのが、本当は心地よかった。
本当は、時々「もしかして」って思ったりした。
だって私の知る教授は、学生を特別扱いできる人じゃない。
でも、必死になって否定してた。
失うくらいなら、最初から手を伸ばしたくない。
このままではいつまでたっても満たされないと、分かっていても。
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