6話
人見知りだけど頑張っちゃう女の子、満月と
暴言と課題の多さで学生から避けられがちな鏑木教授の甘キュンストーリーです。
――その日の夜。
案の定というべきか、マウント系男子からメッセージが届いた。
『鏑木教授の呼び出し、大丈夫だった?』
『困ったことがあるなら聞くよ』
連続して送られてきたそれに既読をつけないよう留意して、満月はそっとスマホを置いた。
(無視したら、親切にしてやったのにって言われるのかな)
(おまえが原因だよって言いたい)
そこへ、別の男子学生からDMが届いた。1回、授業で班を組んだ時にアカウントを交換しただけの間柄だ。ソシャゲの招待コードが貼られているから、誰彼かまわず送りまくってるのだろう。
(だめだ、もう全部投げ出したい……)
だが悲しいかな、それをしたらしたで、ウジウジと悩む未来が見えてしまう。
この特性と付き合って長いだけに、推測はおそらく正しい。
(結局、頼るしかないか……)
満月は、黙って通学リュックを引き寄せた。その中には、乱暴に突っ込まれた《鏑木教授推しバッジ》が入っている。
目立つ赤地に白い文字。
こんなの、全然自分の趣味じゃない。
せめて紫ならよかったのにな、と思いながら、満月はそれらを取り出して、明日の準備を始めた。
――結果をいえば、鏑木教授推しバッジの威力は絶大だった。
男子学生から声をかけられても、缶バッジを見せるだけで後退りして去っていく。
数日のうちに、授業を受ける時も、駅への往復バスでも声をかけられることはなくなり、こっそりミュートにしてあったSNSのアカウントはフォロワーから消えていた。
(めちゃくちゃ快適――!!)
ストレスの原因が消えて、心なしか肌の調子までいい。満月の教授への信頼度もV字回復するというものだ。
(そうだ、お礼しよう)
何がいいかなと考えながら、満月はキャンパス内を移動していた。第二外国語の教室は、全学部共通の棟にあるから少し遠いのだ。
「――あの、私急いでるので」
階段を下りようとしたところで、下の踊り場付近から声がすることに気づいた。
そっと覗き込むと、鏑木教授の授業を一緒に受けている同じクラスの女子だった。やっと最近、名前で呼び合う仲に進展した貴重な友人である。
一緒にいるのは、これまでしつこくつきまとって来ていた、あのマウント系男子。
(腕まで掴んで、完全にセクハラでしょ)
怖がりではあるが、人一倍正義感の強い満月は我慢ができなかった。勢いよく階段を降り、間に割って入る。
「希、探したよー、こんなとこにいたんだ。早く行こ!」
「満月!?」
「満月ちゃん!」
声をかけると、友人――希と、マウント男子が同時に満月を呼ぶ。
(は!? 「満月ちゃん」って何よ)
だが、ここで怯んだところを見せてはダメだ。教授の推しバッジを見せつけるようにすると、男子はぎくりと動きを止めた。
その隙を狙い、満月は希の腕を引っ張って残りの階段を駆け降りる。2人で息を切らせながら、身を隠すように中庭へと逃げた。
ここまで来れば安心だろう、というところで、ようやく立ち止まって相手を見る。
「ご……ごめんね、急に引っ張って」
「ううん、めっちゃ助かったよー! ありがとう」
希は首を振り、笑顔を見せてくれた。よかったと、満月もホッとする。
「逃げるの、女子トイレにすればよかったかなー。しつっこいんだもん!」
周囲を警戒しながら、希が嫌悪感を露わにした。だが、満月は首を横に振る。
「トイレはダメ。出入り口塞がれたら逃げられないし、密室になるからかえって危ないって鏑木教授が言ってた」
「えっ、そーなの!? てか、満月って鏑木教授と仲いいの!?」
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