5話
人見知りだけど頑張っちゃう女の子、満月と
暴言と課題の多さで学生から避けられがちな鏑木教授の甘キュンストーリーです。
いや、求められていることは推測できる。でも納得はできない。
「何で私がこれを付けて歩かなきゃいけないんですか」
どう考えたって目立つ。絶対に勘弁してほしい。
「俺を推してると知ったら変なのは寄ってこないだろ」
「……いいんですか、それで。心理学の講義、鏑木教授の週だけ欠席率かなり高いですよね」
毒舌もさることながら、鏑木教授は課題の量が半端じゃない。成績には影響はないと言われるが、達成していない学生には容赦ない叱責が飛ぶのだ。
故に、鏑木教授の授業を進んで受けているのは満月と、国家資格を目指して院へ進むような数名だけとなっている。
「俺の講義の価値が分からんバカに、わざわざ教えてやる必要があるか?」
ふん、と教授は鼻を鳴らした。
「アカハラですよ」
他に誰もいないとはいえ、周りに聞こえていないかと満月はヒヤヒヤする。歯に衣着せぬ物言いが問題にならないのが、不思議なくらいなのだ。
「おまえは口が堅いから平気だろ」
「黙ってろってことですね」
これでも、時と場所は弁えていると言いたいのだろう――そうは思えなかったが。
でも、ほんの少し羨ましくも思ったりする。
後先のことを考えず、嫌なことは嫌だと伝えられたら。
そう考えたら、心配しているのがなんだかバカバカしくなってきてしまった。
「バレて怒られても知りませんからね」
困った人だなあと思いながら笑う。すると、それを目の前で見ていた教授が、形容しがたい表情で固まってしまった。
驚いたような、焦るような――一瞬だけ、別の人に見えるほどの。
(知らない、男の人みたい)
しかし、教授は片手で顔を押さえ、さらに背けて表情を隠していた。いくらなんでも失礼だろうと満月は苦情を呈する。
「何が言いたいんですか」
教授は大きく息を吐いてから、こちらを見た。何だか顔が赤いし、いやに疲れ切った表情をしている。
「あ――……おまえ、他のやつの前でその顔するなよ」
意味がわからない。とりあえず、言葉のとおり2度と見せないと決めた。
「教授の前では笑いません」
「……ったく、こういうところだけ鈍すぎだ」
「は?」
思わずジト目で聞き返したら、不機嫌そうに顔を背けられ、シッシッと手で追い払われてしまう。
「帰れ。ついでにそこの手紙を事務室に出してこい。いいか、まっすぐ帰れよ。寄り道するなよ」
(いや子供じゃないんだから!)
ムッとしたが、生憎とバイトの時間が迫ってきていた。仕方なく追求を諦め、満月は学舎を後にしたのだった。
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