4話
人見知りだけど頑張っちゃう女の子、満月と
暴言と課題の多さで学生から避けられがちな鏑木教授の甘キュンストーリーです。
「バカかおまえは! 助けを呼べと言ったはずだ!」
「すいません……」
美形が怒ると、迫力があってなお怖い。
身をすくませつつ、満月は上目遣いで目の前に立つ鏑木教授を伺い見た。
「ああいうサカった猿にはな、ビシッと言ってやんなきゃ分からないんだ! 態度で通じると思うな」
「誰かに助けを求められるような状況じゃ……」
「その予兆はあったんだろうが! ギリギリで回避してるだけだと自分でも分かってただろ」
正論に、反論を封じられる。
教授の指摘は、すべて当たっていたからだ。
結局、例のゲームマウント系男子学生からの接触を、満月は避けられずにいた。
メッセージのやり取りは最低限にしていたが、ことあるごとに声をかけられ、隣の席に座らされる。
イヤホン作戦が功を奏したのは1日だけで、今日は相手が男友達を連れだっていたせいで逃げ場がなく。
ランチの時も張り付かれ、げっそりしていたところに鏑木教授から呼び出されていると言伝を貰った。
天の助けとばかりにゼミ室に逃げ込んだ満月だったが、待ち受けていた教授から雷を落とされた――というのが今の状況だった。
「おまえはちょっとした違いで相手の不快感を感じ取れるから分からんだろうが、そうじゃないやつの方が多いのを理解しろ!」
一息に説教を浴びせられ、満月はただただ小さくなる。
「はい……すいません……」
「今、「教授に呆れられてる、やっぱり自分はダメなんだ」って考えてるだろう」
(バレてる……)
まさにその通りだったので、満月はしおしおと頷いた。
「断るのが苦手なのは分かってる。しかし、ちょっとおまえは身の危険を軽んじすぎるな」
異性に対する警戒が薄いのだと、何回も指摘されている。だが、どこまでが適切な線引きなのか、満月にはよく分からない。
すると教授は、満月の前にあるものを差し出した。
「何ですかこれ……」
無理やり受け取らされたもののひとつを、満月はまじまじと眺める。
「『痛バ』ってのがあるんだろ? それだ」
なぜか得意げな教授に、満月は目を半眼にした。
先日、たまたま鏑木教授と話していた時のことだ。
同じ種類の缶バッジをいくつも付けたバッグを持って構内を闊歩していた女子学生が通りかかった。
教授から「あれは何だ」と聞かれたから、「推しを周囲にアピールして、認知してもらう為にやる推し活です」と答えた。
だがそれと、今持たされている大量の『鏑木教授推し』と書かれた缶バッジと、どう関係があるのか。
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