2話
人見知りだけど頑張っちゃう女の子、満月と
暴言と課題の多さで学生から避けられがちな鏑木教授の甘キュンストーリーです。
(ああもう、最悪)
心理学の授業は、1年生の間は学部の4人の教授が週替わりで担当する。入学早々に体調を崩して休んでしまったせいで機会を逃していたから、やっと鏑木教授の講義が受けられると楽しみにしていたのに。
がっかりしながら筆記用具とテキストをまとめていると、隣に座っていた男子学生がさっさと席を立った。
「3限つぶれてラッキーじゃん。4限、東さんって俺と同じコマだよね? それまで一緒に時間潰そうよ」
嬉しそうに誘ってくる様子から見て、先ほどの一件を反省している様子はなさそうだった。
(しかも、次も同じとか何で知ってるわけ)
急に距離を縮めてこようとする感覚が怖い。でも、どうやって角が立たずに断れるのかも分からない。
冷たくあしらって、「何か勘違いしてない? ぼっちだから声かけてあげただけじゃん」などと言われてしまったらどうしよう。
それでも、本能的な忌避感が迷いをほんの少し上回ってくれた。
「ごめん、ちょっと用事があるから」
(断り方ヘタクソか!)
自分にダメだししておいて、満月はそそくさと机の上のものをリュックに詰め込み、立ち上がった。幸い、男子学生は追いかけてくることはなく、内心で胸をなで下ろす。
――ああ、やだな。
優柔不断な自分が嫌だ。すっぱり「話しかけないで」と言える強さが、自分にあればよかったのに。
自信が欲しくて努力してきたはずが、不快な目にばかり遭うのはどうしてなんだろう。
一瞬だけ「これがいわゆるモテ期というやつかな」と考えはしたけれど、求めていたのとは何かが違う。こんな思いをするくらいなら、いっそひとりの方がマシだ。
そこに強がりが混ざっていることを意識しながら、満月はため息をついた。
――そして、土曜日。
重い気分を引きずりつつ、満月は指示された教室に向かった。
あれから、例の男子学生は頻繁に声をかけてきて、断り切れずにSNSのアカウントを交換するはめになっていた。
昨夜もゲームで通信対戦をしようと持ちかけてきて、仕方なしに応じたら「あーそこ、違うんだよな」「もうちょっと早く反応できない?」などとマウントを取ってきた。
普段遊んでいないゲームだったから、そう断ったのに。
更には、明日は補講だよねと投げかけたチャットはスルーされる始末。そもそも彼は、心理学以外の授業でも真面目に聞いている素振りはなかったが。
(私、同類だと思われてるのかなあ)
重苦しい気持ちを抱えたまま、満月は教室の最前列に席を取る。今度こそはと一計を講じ、左右の席にそれぞれリュックと手提げを置いて空間を確保した。
ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを装備して、テキストを持てば完璧だ。話しかけられても、気づかないふりを装える。鏑木教授が来たら、すばやくイヤホンを外せばいい。
(この作戦がうまくいったら、月曜から使っていこう)
だが、検証はできなかった。
この日、補講に参加したのは満月だけだったからだ。
読んでいただきありがとうございます。
いいね、ブックマークなどしていただけると創作の励みになります!
皆さまのお気に入りになりますように。