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お化け退治

作者: すあま

お化けと聞いて思い浮かぶ季節を問えば、十中八九の人が夏と答えるに違いない。

しかし冬にしか出てこないお化けもいる。雪女や雪男が有名どころだろうか。


私の住む町でも、冬にお化けが出現する。

芯から冷えるような寒い夜に現れては小さな子供を連れ去ってしまう、とってもとっても怖いお化けだ。




そのお化けの存在を私が知ったのは、ユウくんという少年との会話がきっかけだった。


「この辺にお化けが出るんだって」


ユウくんはお母さんにしがみつきながら私に言った。まだ昼間だというのにお化けが出やしないかとびくびくしているのだ。


「だから黒木さん、僕を守ってね」



私はユウくんと約束した。

冬の間中、ユウくんは私に会う度に「お化けは捕まったか」と尋ねてきた。



「お化け、ねえ。俺は見たことないけどなあ」


そう言ったのは北風さん。最近はこの道がお気に入りのジョギングコースらしい。


「純粋な子供にしか見えないのかもな」

「それじゃあ待ち伏せしても無駄かしら」

「かもな」


北風さんは私の肩に積もった雪を叩き落とす。

今夜は雪。それも吹雪。

北風さんと私の他に外に出ているのは誰もいない。


「まあ、あまり無理はするな。君の綺麗な指だって、かじかんでいる」


ありがとうと告げるよりも早く北風さんは走り去ってしまう。あれで彼はなかなかの照れ屋なのだ。




今晩こそ会える、と私は思った。

星から霜が降りるような、凍てつく夜。

春が来るのが不思議なくらいの、寒い寒い冬の夜。


北風さんはもう私の前を通りすぎて行った。

しばらくの静寂を破り、夜空に足音が響く。


「もう怖くない」


やって来たのはユウくんだった。

危険だから帰りなさいと促しても全く聞く耳を持ってくれない。


ユウくんは口を開く。

白い息が闇夜に浮かぶ。



「だって黒木さん、あなたがお化けの正体だったんだ」



お化けは真っ黒な体をしているという。

それは冬に備えて樹皮を厚くした私の姿。


お化けは細長い指で子供を捕らえるのだという。

それは葉を落とした私の枝。


お化けが現れる時、ザワザワと不気味な音が響くという。

それは北風さんが私の枝を揺らす音。


「謝らないでよ、黒木さん。俺、もう行くよ」


十年前、私に助けを求めた少年は、一目散に夜の街に向かって駆け出す。


一歩も動けない私は、ただ彼の背中を見つめることしか出来なかった。



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