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第七章 人の価値

あの後、近衛(このえ)の騎士から注意されたレオはようやくシーナとのお喋りを切り上げ白馬に乗って帰っていった。いつの間にか俺の心の中で皇太子も敬称も付けずに呼び捨てになったが、なんだか癪なので是正はしない。シーナがレオの後ろ姿をしばらく見たあと、上機嫌でこちらに駆け戻ってきた。

「あらどうしたのカイト、そんなしけた顔して」

「いやまぁ、ちょっとびっくりしただけだ。お前あい...皇太子とはどんな関係だよ」

「どんなって、公爵家はよく宮殿に呼ばれたりするから昔からその時によく顔を合わせてて...」

「ふぅん、お前意外と顔が広いんだな」

「...なんでちょっと不機嫌なのよ?」

「別にそんなことねぇよ?てか、王族たちの行進も終わったんだしさっさと露店やら出店やら見てみようぜ」

パレードの最後尾になったレオが過ぎてから周りの人々はまばらに分かれ、道の側にある屋台やらパレード記念と銘打って特売してる商店を回っている。

「なんだか釈然としないけど、まぁいいわ。そうと決まれば早く行きましょ!」

「ああ、じゃあアテネ先輩、今日はここらで。また」

「ええ。カイト君、頑張ってね」

「頑張るって、なんですか?」

「シーナとのデートの事よっ、それじゃあね~♪」

「デっ、デデデデデートっ....!?」

デートっていう単語を聞いた瞬間にシーナの顔がすぐさま赤面しちまった。俺も言い返そうとしたが、ちょっとま、と言い終わる前に先輩は踵を返してしまった。まったく何がデートだよ、俺とシーナに限ってそんなことはない。

「...カイト!」

さっきまで赤面して俯いたまま固まっていたシーナが大きい声で俺の名前を呼ぶ。

「な、なんだよ」

「べっ、別にあんたがどう考えてるかは知らないし、どう捉えてたっていいんだけど、私はデ、デートだなんて思ってないんだからね!本当に、本当によ!だから勘違いしないでよねっ!」

「お、俺だってそうだ。これはデートなんかじゃねぇ、たまたま互いに予定が合ったからこうなっただけだ」

「そ、そうよ、そういうこと」

俺たち二人は自分らにそう言い聞かせるように言いながら、その場を後にする。アテネ先輩も、なにを言ってるのだか。デートっつーのは、付き合っている恋人同士がやるもんだろ。それを俺とシーナに当てはめて言うだなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ。


アテネ先輩の爆弾発言あと、しばらくは俺達の気まずい空気が漂っていたが街を歩いている内にシーナの顔にワクワクが取り戻される。

「ねぇカイト、アンタ行きたいな思ってる所はあるの?」

「なんか露店で、珍しくて惹かれるものがあったら買うくらいだな。特にこれといったものは考えてない。お前は?」

「私も、特に」

なんと両者とも目的のものがない状態でここまで来てしまったらしい。しょうがない、場当たり的だが歩いていたらそのうち目に留まるものがあるだろと言ってあちこちをうろつく。しばらくすると、どうやらシーナの興味を引く出店が見つかったようだ。シーナに早く早くと腕を引っ張られてその店の前まで連れてかれる。

「なんだこれ?」

「射的って言うらしいわ」

初めて聞いた言葉に俺は思わず眉をひそめる。先客たちの様子を見てみると...

「は、ピストル?」

その手にはピストルが握られていた。こんなところでピストルを売るとは思えないし...どういうことだ?

屋台の奥には棚があってその上にはぬいぐるみやらなにやらの小物が置かれている。

「なぁシーナ、この屋台は一体何なんだ」

「私も見るのは初めてなんだけどね、奥のあれを倒すとそれがもらえるの。あっ、分かってると思うけど実銃じゃないわよ」

シーナがそう言うと、客が持っているピストルに弾を込めているのが見えた。見たところ、客が握っている銃はコルクを弾丸に使うコルク銃だ。なるほど、普通の平民にとって銃は高価で持ってる人が限られてる中、銃をかたどったおもちゃが使えるだけである程度の魅力があるし、その上で景品もゲットできる、というわけか。初めて見たが面白い形式だな。先客は結局一発も当てられずに去っていったが、この客も射的は初めての経験だったのかどこか満足そうだ。

「次、私がやるわ」

「おや、可愛い嬢ちゃんが来たもんだ。本来なら五発で5ルークスのとこ、おまけでもう一発つけてあげよう」

コイツ、貴族に対して接客態度平民と変わんねぇのかよ。平民の俺と仲良くなったからこそ今のシーナは平民に対して柔和になったが、入学前のシーナなら消し炭だぞ。

「本当?ありがとう」

態度はともかく、気前がいい店主らしい。シーナの弾が一つ増えた。この世の中可愛いと色々得するもんだなと思いながらシーナの射撃を見守る。シーナは数ある景品の中で、小さな小箱には入っている赤い花の綺麗な髪飾りに目を付けたようだ。シーナは初めて握るであろう銃(コルク銃だが)を握り引き金を引く。いざ見てみれば惨憺(さんたん)なものだった。シーナは外す、外す、また外す。惜しいとかではなく、当たる気配が全くない。おいおい、闇雲にやっても当たるもんじゃねーぞ。おじさんの好意で増やしてもらった弾が、30秒も経たずに全て打ち尽くした。シーナはぐぅと自分の不甲斐なさに怒っているのか唸り声に近いものをあげており、もっかいやると言って店主に金を突き出す。今度出てきた弾数は五発、またしても全弾外す。今度は無言で金を突き出しもう一度チャレンジした。そしたら今度は掠る、掠っただけで転倒はしてない。

「なんでよっー!」

「逆ギレすんな落ち着けバカ!もうどけ」

もう見ていられない。コイツ、負けず嫌いにも程がある。そのままほったらかしておいたら幾ら溶かすか想像もつかん。しょうがねぇ、俺が何とかしてやる。俺は財布を取り出してお願いしますと5ルークスを店主に手渡す。

「お兄さん、彼女連れの手前いいとこ見せてくれよ」

店主のおじさんを無視して俺は銃にコルクを込める。後ろからはシーナの「取れなかったら絶対に許さないからね、そん時は魔法で焼き殺すわよ!」という言われかねんほどの理不尽な圧を感じる。まぁ安心しておけ、俺がこの距離で、しかも動かない的を外すわけがない。銃の種類は違えど、俺は小さい頃から父さんに森へ連れられて、射撃の練習だとか言われて拳銃ですばしっこく動く獣たちを撃ってきた。射撃の腕には中々自信があるぞ。俺は銃を両手で握り射撃体勢に移行する。シーナのお目当てである髪飾り…ではなくその隣に置いてあるくまのぬいぐるみを手始めに狙う。父の形見の銃よりか照星で狙いが付けづらいが問題ない、俺は狙いを定めて引き金を迷わず引く。コルク弾は見事にくまのぬいぐるみ頭部に着弾し、バランスを崩したぬいぐるみは後ろに倒れて落ちる。シーナはえっという表情だが、後ろで見ていた他の人は一発で仕留めた俺に対しおおっと声をあげた。俺はその調子でペンケース、スカーフ、ポーチなどの景品を次々と撃ち落とす。最後の一弾になった時にシーナが「さ、最後の最後に外さないわよね?」と心配そうに聞いてきた。今までコイツに振り回されることが多かったから、今回くらい俺の方からからかってやろう。俺はシーナの不安を煽るために、片手射撃の体勢を取った。俺の四連続的中を見ていた周りの客からおおっという声が聞こえてくる、悪くない気分だ。俺はそのまま片手で引き金を引き髪飾りが入った小箱を難なく撃ち落とす、これにて全弾命中のパーフェクトスコアだ。周りの客の拍手に包まれながら、俺は格好つけて銃を掌でクルクルと回し銃口から出てもいない煙をフッと吹くパフォーマンスをしてやる。店主は参ったよ言い苦笑いで手渡された、俺が撃ち落とした景品全てが入った紙袋を受け取る。店主の「もう一回は勘弁な」という耳打ちも添えられて。安心しろよおっさん、屋台荒らしなんてこたぁしねぇよ。髪飾り以外にも色々撃ち落としたが特に俺が欲しい景品もなかったので、全部シーナにあげる事にした。

「ほら、全部やるよ」

「えっ、いいのっ?!」

髪飾り以外は貰えると思ってなかったであろうシーナが目を輝かせて伺ってくる。そんな子供っぽい仕草でも、悔しいがとても可愛く映る。元からあげるつもりだったけど、もしもあげないつもりだったとしてもそんな顔されて「やらん」と俺にはとても言えねぇよ。

「別にいいよ、欲しいもん入ってないし」

俺が差し出した紙袋を受け取ったシーナは早速髪飾りを取り出して自分の頭につけ始めた。別に花に関して博識でもない為、その髪飾りが何の花を型取ったものか分からないがシーナの明黄色(カナリア)に赤い花が非常に似合っている。

「どう?」

「...いいんじゃねーの」

素直に可愛いという言葉は気恥ずかしくて俺には言えなかった。直視するのが恥ずかしくて目線を斜め上に飛ばしているとシーナがまた紙袋の中から何かを取り出そうとしている。

「なに出そうとしてんだ?」

「んしょ…これ」

紙袋から取り出された撃ち落とした景品の一つ、青いスカーフだった。

「これ、あげるわ。本来ならこれ全部私のものじゃないし、これは私よりアンタの方が似合うと思う」

シーナからスカーフを受け取る。このまま手で持ち歩くのもなんなので俺もシーナのようにその場で首につける。

「どうだ?」

俺は巻いたスカーフが見やすいように首を横に向く。

「うん、やっぱり似合うわね」

シーナは自分監修のコーディネートの出来に満足してふんと鼻を鳴らす。女子に似合うと言われて気分が悪い男などいない、俺も例外ではない。気分を良くしているとまだシーナがこちらをみつめてくるものだから、流石に不審に思う。するとうっとりしているとも見える表情のまま一言...

「カッコいい...」

「...はっ?!」

予想にもできなかった言葉がシーナの口から飛び出してきて俺は固まってしまう。しばらくして自分が今さっき何を言ったのか思い出したのか口をもごもごさせながら急速に顔が赤くなっていく。人のことを言っているが多分、いや絶対俺も顔が赤くなっている。

「ーーーー違うからっ、そのスカーフは男が付けたらカッコよく映るってだけで、別にアンタ個人のことをカッコいいって言ったわけじゃないんだから!」

そうだよな、シーナがそんな事言うわけないよな。シーナみたいな美少女から見たら俺がイケメンになるわけないし...自分で否定するのは悲しい所だけどな。つーか、間違っていたとしてもそんなすごい勢いで否定しなくてもいいじゃねぇか...俺はいまだ真っ赤になりながら慌ててるシーナを横目に深いため息をつく。

「...なんだか釈然としねぇな」

屋台の近くでずっと立ち話も他の客の邪魔なので、シーナの腕を無理やり引っ張ってその場を後にした。



先程まで真っ赤だったシーナだったが、コイツの性格上切り替えも早かった。歩き回ってお腹すいたとシーナがいい、俺もお腹が空いてるのは同じくだったので適当に目が付いたクレープ屋でご飯の代わりになる大きな奴を買い、近くのベンチで食う事にした。

「なんか今日は初めて見る、初めてすることだらけでもう疲れたぜ...」

「対してなんもしてないでしょ」

隣にいるシーナさんはそんな俺の泣き言を一刀両断する。やけに素っ気ない返しだなと思って横に座るシーナを見てみるとクレープに大きな口開けて(それでも男の俺から見れば可愛い大きさだが)かぶりついている。どうやら、クレープに夢中で会話を楽しんでいる暇はないらしい。

「…」

会話が一瞬で途切れてしまったので、仕方なくクレープ片手に人々がせわしなく行き交う街並みを何も考えずに見ていると...

「ほんと仲良しね、あなた達」

流れていく人の流れの中から方向転換をして、こちら側に歩いてきたのはシーナのお友達であるジェシカとパトラの二人組だった。その仲良しの二人、さっき会話が爆速で終わったんですが。

「ジェシカか…パトラも一緒か?」

俺の頭の中ではジェシカとパトラはセットのイメージなので問い掛けてみるとジェシカの後ろからひょこっとパトラが「いっるよー!」とテンション高めで後ろから飛び出てきた。するとクレープを食べていたシーナがビクゥ!と身を震わす。どうした、そんな悪事してる所がバレた猫みたいな反応して。パトラはにやーっとした顔でなぜか赤面しているシーナに悪戯な目線で見つめる。

「シーナ、魔法学院に入学したらようやくこのパレードに行けるって入学前はあんなに楽しみにしてたのに、いざ今年誘ってみたら「私はいい」って断られて変だなと思ったら、こういうことかー。チビ娘のくせに色気付いちゃって!」

「色気付いてなんかない!それとチビ娘言うな!自分もチビなくせに!」

シーナが食い気味に言い返す。確かにパトラだって平均より少し小さいがそれ以上に小さいお前が言える筋ではないぞ。それと色気、というシーナに似つかわしくない言葉が聞こえた気がするが指摘すると怒鳴られそうなのでやめておこう。

「パトラとジェシカは毎年このパレードに来てんのか?」

「うん、シーナは親がお堅くて誘っても中々来れなかったんだよね」

マジか、そんなにシーナの親は厳しいのか。魔法学院は原則寮での一人暮らしで親の監視の目からも外れるから、今年からパレードとかあちこちに出かけられるようになったということだろうか?

「大変だったなそりゃ」

まだ大人でもない自分が言うのはなんだが、多感な時期に外に気軽出れないというのは相当なストレスだったろうからな。そんな念願のお出かけのお供が、俺なんかで本当に楽しめているのだろうか...

「そうだ。ここでたまたま会ったし、午後は俺たちと回ろうぜ」

「えっ?」

ジェシカとパトラが若干困惑気味で俺を見てくる。

「お前ら毎年来てるって事はここに出てる美味しい出店だったり、面白い出し物やってるとこ知ってるんだろ?俺もシーナと同じくここに来るの初めてだからそういうの全然分かんねぇからさ、色々教えてくれよ。シーナもそっちのがいいだろ?」

「ふえっ?!えっと、それは確かにどこがオススメとかは分からないけど...」

「そういう事だからさ、お願いできるか?」

2人より4人、しかもシーナも親友と回った方が楽しいだろうと思って俺はお願いする。

「うーん、言い出してる事は鈍チンすぎるけどシーナの事を思って100%善意の行動だから断りずらい...」

「私たちはいいんだけど...シーナはどう?」

「...うん、私も回りたい。始めは断っちゃったけどあなた達と回るのを楽しみにしてたのは本当だし、カイトもおススメのところとか回りたいだろうしね」

シーナ、俺の事も考えてくれたのか。子供っぽいけど根は良いやつなんだよな、確かに。

「よし、そう決まったら早速行こーう!毎年面白い物売ってる商人知ってるんだよね♪」

とジェシカが早速行こうとしたが、俺とシーナはまだ巨大クレープを片手にしていたためしばし待ってもらう事になる。俺は「やっぱりスイーツは昼飯にはならねぇな」と思いながらも早く食べるためにクレープをほぼ飲むようなスピードで早食いして、普段慣れない急に甘いものを大量に食ったせいで回りに出た最初の数十分は気持ち悪かった。




結局あの後は人込みに揉まれながら、色々なところを回った。異国の物珍しい魔宝具は高すぎて手が出せないが見ているだけでも楽しかったし、王宮の演奏隊による演奏も聞けた。十分に充実したいい日だったな、1日丸ごと遊んだのは久々だった。パレード自体は日が暮れる前に終わったのだが、街まで来たのに学院に帰っていつもの晩飯を食うのも何なのでそこらの飲食店で済ませた。女子陣の食事しながらのお喋りがすっかり長引いてしまい今は完全に日が暮れた夜である。

「いやー、流石に1日中練り歩くと疲れる...」

俺がすでに重い足取りになっている中、女子3人は全く疲れが見えない様子で歩きながら話していた。

「(元気の塊か?いや、まぁ俺はこれがあるしな...)」

ほぼ手ぶらなシーナたちと違って、俺は腰に1キロちょっとの刀をかけているのでより一層足にかかる負担が大きいから、疲れてるのは当たり前か。俺はそう納得すると疲れからのため息をついた。ガールズトークに混ざることも当然できずに、やりようのない目を空にやる。雲一つない、良い夜空だ。星も月も良く見える。普通の人から見れば素晴らしいものだと思うが、俺とシーナにとってはそうとも言えない。あのゴーレムに襲われた時のことがちらつく、ちょうどあの日も似たように綺麗な夜空だったからだ。ちょっとトラウマだぜ。などと思ったらようやと学院の正門につく。ここまで来たらあと少しだと気が楽になる。

「え、どこいく?」

俺はてっきりこのままみんな寮にそのまま帰るものだと思ってたから寮棟とは反対の方向に歩みを進めたシーナたちを呼び止める。

「私たちは明後日に向けてちょっと演習場で練習してくの」

パトラが3人を代表するように俺に言う。練習というのは、魔法大祭に向けての事だろう。

「もう夜遅くになるのに、殊勝なことだな。今日はみんなパレードで疲れて練習してないから演習場もガラガラなんじゃないか?頑張れよ」

「アンタもどうせ帰っても寝るだけでしょ。ちょっと付き合いなさいよ」

とっとと帰って寝ようと考えて寮棟の方へ行こうとする俺にシーナが言う。

「付き合う?俺は出場選手でもないんだが?」

「アンタは、見てるだけでもいいから」

見てるだけでいい?俺がいないと何かできないことをするってならまだしもそれならやっぱり俺はいらないじゃないか。

「まぁカー君聞いてやりなよ、(いと)しのシーナからお願いだよ?」

「誰が誰の愛しだバカ」

いつもの調子のパトラにツッコミを入れつつ、どうしようかと思案する。そうだ、今日はいつもと違ってパトラとジェシカも一緒か。シーナの魔法は実践授業で何度も見ているがこの二人の魔法は一度も見たことがない気がする。シーナは流石に別格としてパトラは学年戦、ジェシカは総合戦に選出されている優秀なウィザードだ。この二人が魔法を使っているところを見てみたい気持ちも確かにある。

「...分かった分かった。行く」

そうして演習場に来たわけだが、予想通りガラ空きだった。練習熱心な奴が一人はいてもおかしくなくないと踏んでいたが、どうやらそうでもないらしい。俺は腰かけるのにちょうどいい大きさと形をした魔晶岩を見つけて座り、3人の様子を眺める。魔法大祭での魔法の競い方、それは魔法を使った模擬戦である。成績上位者なら魔法騎士志望でないやつも、女子も混合してやるのかよと初めて聞いたとき思ったが、どうやらアリア魔法学院の前身はそもそもウィザードでなく魔法騎士の確保を目的として設置された養成所であり、そのことの名残りらしい。試合の勝ち負けはどちらか一方が負けを認めるか、審判が戦闘続行不可能になったと判断した時。禁止事項としては殺しは勿論厳禁、殺傷力の高い一部魔法の禁止。直に殴りかかる、武器を使っての攻撃などの魔法以外による攻撃は認められていない。これら細かいレギュレーションを取っ払ったものを「決闘」というのだが、アリア魔法学院では(他の魔法学院ではどうか知らないが)喧嘩など話し合いでどうにもならない揉め事があった際に立会人を3人付けた上で行う事が許可されている(ほとんど場合殺しまでいくことはないが)。

「...パトラは水、ジェシカは風か」

俺は目の前に広がる水のアーチやら風によって石や草が巻き上がる光景を見て一人呟く。魔法にも人よって得意な系統苦手な系統が存在しており、自分の適性が分かったら一番得意な系統を専門に特化させるのが普通である。まぁシーナは規格外の天才すぎて、五系統全てを専門にしている一流ウィザード以上に使いこなせるが(本人もいまいち分かってないらしく、しいて言うなら雷属性じゃないかなと言っていた)

1時間ほど経った頃だろうか、ジェシカとパトラの魔力が尽きた事によって練習が終わった。

「今日は、このあたりでいいかしらね」

「ふー疲れた疲れた」

「うぅ、流石に出かけて疲れた日のうちに練習したのは体に応えるわね」

シーナ、パトラ、ジェシカの順に感想を呟きながら座っている俺の前に来る。俺も本当にただ見てるだけなのはあれなので、シーナたちが練習してる間に水の入ったスキットルを用意したのだ。俺はスキットルを三人に手渡し労いの言葉をかける。

「おつかれ。今日は疲れただろ、ゆっくり休みな」

俺は三人が飲み終わるまで岩に座って待つ。シーナは腰に手を当ててぐいぐいと、パトラは両手で握って可愛らしく、ジェシカが一番普通、お上品に飲んでいる。人によってこうも飲み方は変わるもんなんだと思っていると...

「...?」

今は夜遅くで、俺達の事は街灯の光が照らしている。当然俺達にはその光によって影ができている。しかし俺の眼は、明らかに異様なものを捉えていた。パトラの背後に写る影が()()()()()()()()()()()()()...?!

嫌な予感がすると同時に影から閃光が目を突き刺し、バチッっという音が耳を貫き続いて驚いたシーナとジェシカの悲鳴が上がる。問題のパトラは悲鳴を上げる間もなく気を失い倒れこんだ。

「パトラ!」

俺は座っている状態から飛び上がってパトラに急いで駆け寄るが、倒れた後も以前広がっている影から黒い手が伸びて影の端までパトラが引きづられていく。影の終点までパトラが引きづられると、影の中から人影が現れた。黒いロープに身を包み、夜ということこともあって街灯があってもフードに隠された顔はよく見えない。

「誰だお前は!」

俺が怒鳴るとその襲撃者はふんっと余裕そうに鼻を鳴らす。襲撃者は地べたに倒れてるパトラを持ち上げ、俺らに見えるように片手に持つナイフを首筋に当てる。

「俺はお前らも聞いたことがあるであろうレボルシオンの者だ」

聞いた瞬間背筋が凍る、まさかあのレボルシオン。思想を貫くためなら超過激な行動も厭わないテロ組織...!

「そこのノアルエール家の娘、やめておいた方がいい。お前は非常に優秀なウィザードだが、それでも魔法を発動するよりナイフがこいつの頸動脈切る方が早い」

密かに魔法を発動させようとしていたシーナが制される。

「(どうにかできないか...)」

俺は必死に頭を巡らせる。銃で不意打ち...無理だ、難易度が高過ぎる。コイツは今人質に取っているパトラを自分の盾にするように自分の体に重ね前に突き出している。不意打ちになる速度でパトラを避けて襲撃者だけを正確に早撃ちするなんてことできそうにない。

「...人質とって、なんの要件だ?」

俺は息を整えて、襲撃者に問いかける。変な刺激を与えて逆上してパトラを殺される事を考え、慎重に話を進める。

「コイツはマークィスの娘だ、コイツがいれば宮廷の方にもかなりの脅しになるだろう。が...」

ソイツは目線をシーナの方にやり、それに当てられたシーナは恐怖でビクッと身を震わせる。

「ノアルエール家のその娘の方は、その数倍も効くだろうな」

だったらなんで最初からシーナの方を狙わなかった、と考えたがそれはシーナの魔力感知の感度の高さ故だろう。シーナはまだ魔力が残っており気力ピンピン、自分にかけられた魔法に気づかないわけはない。それに対してパトラは魔力が切れた直後で、注意が散漫になったところをピンポイントで狙われた。

「その娘が人質になるのなら、こいつは解放してやってもいい」

パトラを解放する代わりに、シーナを差し出すだと...?ふざけやがって。

「俺だって人の心がないわけじゃない、決断の時間は少しくれてやるよ。だが、ここで気軽に待っていると誰か他の奴らがに見られるかも知れないからな、覚悟が決まったらここに来い」

感情が感じられない、無機質な声でそう吐き捨てると襲撃者はパトラを抱き込みながらその影に沈んでいき消え失せた。その襲撃者がいた場所には紙が一枚置かれていた。俺らは突然突きつけられた理不尽な現実に、しばらく立ち尽くすことしかできなかった。


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