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第二章 ちぐはぐの才能

入学式が終わった日の夜、アリア魔法学院の学院長であるグルド・オスマン・ボイドは学院長室で頭を丸め、立派な髭を揺らしながらチェリーで製造されたシックな椅子に座り、本日入学した一年生の名簿を軽く眺めていた。

「クラウド家…ロレーヌ家…おお、ベジット家までいるのか」

毎年この時期になるとグルドは名簿を見て入学してくる有名貴族をチェックすることを楽しみにしている。今は仕事終わりにそれを嗜んでいるところだ。

「今年は侯爵以上の家系が多い気がするのぉ。豊作豊作」

「その言葉を毎年言っていますが、特に去年と変わりないですよ。ミスタ・グルド」

独り言を呟くと後ろに立っていた秘書である中性的な顔立ちが凛々しく真面目さを感じさせるミス・ルキアが言った。

「そうだったかの。全く、まだボケたくないわ」

自分の老いを感じて悲壮感を出しながら手にしていた名簿を机に置く。

「名簿を見て、例年より1番変わったものがあるでしょう」

「はて、なにかね。確かに今年は公爵家の子女が入学するビッグニュースがあったが…」

「そこではありません。今年の入学生に一人、今までに例を見ない生徒がいるでしょう。平民の出の、生徒が一人」

グルドはうむと咳払いして背もたれに深くもたれる。

「面白いじゃないか」

「平民が弊学の入学試験を突破したんですよ?異常なことだと思わないんですか」

「異常なことだから、なんだ。世界中どこか探せば文字が読めて魔法に通ずる平民が一人はいるじゃろうて。それがたまたま彼だったんじゃ」

「平民でも文字が読める文民は一定数存在しますが、魔法学に通じている平民なんてあり得ないでしょう!どこぞの貴族が何か企てとして平民を騙り送り出した可能性だってあります」

いつも以上にかっかとしているミス・ルキアの顔を見て、そんな怒ってばかりではせっかくの綺麗なお顔も台無しだぞと心の中で呟きため息をつく。

「そんなに彼の正体が気になるかね」

「気になりますね。どうやって、どこで平民が魔法学を学んできたのか」

「…はぁ。そんなに言うのなら、教えてやる。彼は、わしの友人の息子でね」

学院長の友人、その息子、異例の入学というワードを聞いてミス・ルキアの頭が周りすぐさま推論をだす。

「まさかミスタ・グルド、本来入れる実力もない生徒を友人の息子だからって入学試験を都合の良いようにはからったんですか?」

「ち、違う。点数の工作は一切行っていない」

グルドは慌てふためきながらかけられた容疑を否定し、ハンカチで汗を拭う。

「そもそも、貴族であるあなたが平民と友人関係だったというとこから私からしたら怪しいのですが」

「私はその平民が命の恩人なのじゃ」

「というと?」

「今から20年前の、まだ体も頭の衰えも今ほどない歳にワシは山や森の中を散策するのが趣味でな。森を歩いているとゴブリンの群れに襲われたんじゃ。ワシだって若い頃は戦地の最前線に次々と乗り込み武功を挙げたウィザードじゃ、歳を食って前線から離れたとてゴブリンなどに遅れをとるわけはなかった。だがゴブリンを倒したはいいものの、そこで油断したのがダメじゃった。ゴブリンを一掃して一息つくとすぐ間も無くトロールが現れたのだ。完全に不意をつかれたワシは魔法が一瞬遅れ、その隙にトロールの投石で握っていた杖が吹っ飛ばされてしまった」

「だいぶ絶望的な状況ですが、それを平民が打開したのですか」

「まぁ話は最後まで聞かんか。杖を落としたウィーザードなど、ただの人に過ぎぬ。走ってて逃げることもできずワシはここで一生を終えるのかと思った。その時じゃ、ワシの友人が現れたのじゃ。彼はみたこともない銃を構えると、なんと弾を詰め替えもせず二、三発連射して弾丸に貫かれたトロールはその場に倒れ伏した」

「連射できる銃、今でこそリボルバーなるものがありますがあれはまだ暴発や不具合が多く実用的ではないはず、なにより10年前には…魔法の見間違えでは?」

「それはないな、その後に彼がこれは銃だと言っていたのでな。そこから知り合い、交流しているうちに命の恩人でありながら、非常に馬の合う友人にもなれた。彼は遥か遠い国から来たらしく、その国にあるここでは聞きなれない文化などの話を聞くのがとても楽しかったものだ。だが、ある時彼は病気で床に伏したのだ。周りから平民に深く肩入れするなという声を無視してワシは自分の館に運び込んでまで看病をしたのだ。しかし回復の兆しは見えず…」

「…亡くなられたんですか」

グルドは言葉にせず頷いて話を続ける。

「彼はワシを救ったのに、ワシは彼を助けられないのかと自分の甲斐性のなさを嘆いていると彼はこうワシにお願いをしてきた。「俺の妻がカイトを産んだ時に死んでしまったのは知ってるだろう。俺が死んでもカイトが一人にならないように自立できるまで見守って…できることなら、魔法を教えてやってくれないか。俺は魔法に興味があったが、ウィザードの友人である貴方に会うまで生憎魔法に触れられるご身分じゃなかったからな。彼は小さい頃から魔法に強い関心があるんだ、身分の差で自分の好きな事を諦めてほしくないんだ。頼む…」と。一言一句覚えておるわい」

「そうして、彼を引き取ったと?」

「平民の子供をいきなり館に住まわすのは流石にまずかったのでな。木造のこじんまりとした家を与え、生活費などの支援をしながら約束通り魔法の勉強ができるように魔法学の書物も与えたのだ」

「魔法学の教育者なしで、書物による勉強のみでここまで?」

ここまでというの言うのは、カイトの筆記試験満点のことである。

「そうじゃ、もちろん絶え間ない努力あってものだが、彼はとんでもない魔法学の天才じゃった…。あとは彼が、貴族の血を引いていたならば…。血統だけは平民で生まれてしまった以上どんな豪運があったとしても努力の天才でもどうしようもならん」

魔法学の才能を与えておきながら、魔法を扱える血統のもとに生誕させなかった神を何度恨んだ事か。

「そんなこともあって、彼には期待しているのだよ。魔法を扱う才がなくても魔法学の学者などになってくれれば私としては報われるよ」

「...なるほど、作り話にも思えないので、貴方の言葉を信じますよ。ミスタ・グルド」

「ああ」

ひとしきり昔話をグルドは机に置いてあった名簿を机の引き出しにしまい「眠くなった。帰るとする」と言って学院長室を退室した。

◇◇◇

カイトは入学式があった翌日、朝食を食べるべく昨日言っていた刀を背に掛け、銃を懐に携えて寮棟の中にある食堂に向かう。昨日はカイトが寝落ちしてしまったので行けなかったが本来魔法学院の生徒は朝昼晩の食事を食堂で取る。100人ほどが座れるほど巨大な長机が食堂には三卓、学年分配置してあった。寮室もそうだったが、この学校の設備はすべて貴族仕様である、そのテーブルは大理石で掘り出したもので卓上には綺麗な花などで飾られている。これから毎日こんなところでご飯を食べられるのだと思うとカイトは機嫌が上場してきた。すでに座っている生徒の隣に座るとまた平民がなんだの言いがかりをつけられるは分かっていたので両隣が空いている椅子に腰を掛けた。机の上にはローストビーフやピザ、ケーキなど朝食とは思えないほど豪華な品が並んでおり昨日夕食を口にしていないカイトは思わず舌鼓をうつ。して、カイトは早めに食堂に足を運んだのを後悔した。定刻になり生徒が揃い食事をとる際に神に感謝の意を示す「祈り」を唱えるまで食事を口にすることはできない。この状況はまさに待てを喰らっている犬状態である。空腹に耐えてようやく祈りを終えて食べれる頃になっても、結局カイトの両隣に誰かが座ることなく食事が始まった。寂しさもあるがグチグチと言われながら食べるよりはずっとマシなので気にせずにカイトは目の前に置かれた食事に齧りついた。


開始は皆揃ってだが、退席は食事が終わり次第各自でする。カイトはデザートのケーキを食べ終え満足するとふぅと息をつき少し休んでから教室に向かおうと考えた。

「(貴族のみんなは食べる行儀がお上品だな)」

今、どれくらいの人が食べ終わっているかを見るために首を動かして辺りを見渡していて、ふと思った感想であった。カイトもこの場にふさわしいように平民ながら食べる行儀に気を払ったが、そんな付け焼き刃は本物の貴族たちと比べるとあってないようなものだった。

「(あ、昨日のあいつ)」

見渡している最中に、昨日偶然隣の席になり平民がっと突っかかってきた少女、シーナを見つけた。友達だろうか、隣の貴族の女の子と談笑しながら食事を取っていた。

「(遠目に見ている分にはすげー可愛いんだけどなぁ)」

気が強くて、内面に関しては可愛くないと言わざるを得ないが外見に関して果てしなく可愛いというのはカイトも認めるところである。スラリとした体躯、細い足首で肌は陽の光に当たったことがないのかと思わせるほど雪のように白く美しい。昨日見た感じでは身長は百五十くらいだろうか、平均より小さいくらいの身長も彼女の顔立ちにあっており可愛さを引き立てる。あまりジロジロ見ているとやがて視線に気づかれてしまう、見てるのがバレてまた面倒くさいことになるのは御免なので程々にして視線を外し退席するために椅子から立ち上がった。食堂を出る扉まで歩いていると途中で前日絡まれていた所に助け舟を出してくれた人、今現在この学院で唯一対等に扱ってくれている人、そして魔法学院の生徒会長であるアテネと遭遇した。

「おはようございます」

「おはよう」

カイトの挨拶に、アテネはにこやかな笑顔で返す。

「学院で一日経ってどう?うまくやっていけそう?」

自分の身を心配してくれているアテネになんだか申し訳なさを感じ言いづらそうにカイトが口を開く。

「いやぁまぁ、まだ何ともって感じですね。やっぱりなんだか疎外感を強く感じるというか」

「うーん、貴族は全体的にみんなプライドが高いからね...打ち解けることさえできればよい子はたくさんいると思うのだけれど」

「はは...まぁなんとかやってきますよ。友達いなくとも学校の勉強に支障はないので...」

なんとも悲しい事を言うカイトに返す言葉が見つからずアテネは苦笑いを浮かべる。そうして歩いているうちに食堂の扉を通る。

「じゃあ私こっちだから。じゃあ、また」

「はい、また」

そうしてアテネとカイトは分かれ道で分かれて歩き始める。寮は女子寮、男子寮で分かれており寮棟の東館が男子寮、西館が女子寮と分かれている。カイトは先程の会話の中でアテネに言われた言葉を思い出す。

「打ち解ければ...ねぇ」

反りが合う合わないの問題ならば、なんとかこちらで取り繕うことはできる。だが平民だからと見下されて接触を回避されてはそれどころではない。

「...やってけんのかなぁ、俺」

◇◇◇

朝食を食べた後は普通そのまま教室に向かうのだが、部屋に忘れ物をしたカイトは一度部屋に戻っていったので食べ終わるのが遅かった組と同タイミングくらいに教室に付いた、見渡すともうすでに大半の席が埋まっていた。教室に入った瞬間生徒たちが一斉に振り向いてきたがそれを無視しカイトはそのまま教室を歩き空いている適当な席につく。隣に座られた生徒は一瞬渋い顔をしたが、それに気づかないふりをしているとじきにその生徒は前を向いた。

「(変に喧嘩吹っ掛けられるよりは、無視されるほうが良い)」

そう前向きに考えていると、またカイトが教室に入ってきた時と同様に皆が教室のドアに向かって振り向いたのでカイトも思わず振り向く。するとそこにはシーナがいた。公爵家の娘と言うのは、やはり同じ貴族の中でも一目置かれる存在なのだろう。魔法学院では「学内では、爵位の違い関係なく生徒全員が平等となる」とされており例えば五爵の序列最下位である男爵が自分より身分が上の子爵、伯爵に砕けた口調で話しかけても問題は無いことになる。しかし公爵家はやはり別格なので、校則があると分かっていてもどうしても自身と平等の存在として認識して接するのは抵抗があるという生徒が多い。どうやら、シーナがこの教室に最後に来た生徒のようだった。そして食堂と違い教室は生徒分しか席は置かれておらず、空いているのはカイトの隣だけ。シーナは不機嫌なことを隠しもしない表情を浮かべて重い足取りでカイトの隣に座り、睨む。

「なんで、こうなるのかしら」

「知らん、遅く来たのが悪い」

全く、見下してる態度ちっとは隠そうとしろよなと思っているとシーナの視線が自分の背中に掛けてある刀に引きつけられているのに気づく。

「あんた、平民だけどここに入れたって事は仮にもウィザードなんでしょ?なんで剣なんか持ってんのよ。しかも変な形の」

ウィザードは剣よりも銃よりも強い杖を持っているので、懐に忍ばせておけるナイフならまだしも重くて場所を取る剣などを持つことはほぼない。刀を、父の形見を変な形呼ばわりだが自分も初めて刀を見た時そう思ったのではそれはまぁ許すとした。

「父さんから貰った大事な形見なんだよ。刀っつー遠い国の剣らしい」

「ふーん、こんな刀身が細い剣がとてもブレードより強いとは思えないけど」

「互いに鎧姿の騎士の決闘だったらな。対ウィザードならどちらも対して変わらないし、なんならブレードより軽いぶんこっちの方がいい」

「考える必要ないこと深く考えてるのね。あんたそれ形見だから持ってるんでしょ。いざ戦うとなれば使うのは杖なんだからそんなの真面目に想定しなくていいじゃない」

言い返された瞬間、マズいと思った。カイトはうっかりウィザードの立場では本来矛盾する魔法を使えない立場での見解を述べてしまった。シーナにただでさえ平民ってことで見下されている現在、ろくすっぽ魔法も使えずにここに入学してきたことがバレるとさらに面倒だ。

「ちょっと、考えてみただけだ」

「へんなの。平民の考えることはわかんないわ」

「別に今の発言に平民要素なかっただろ」

話してるとつくづく、鼻につくやつだ。だが、こんな可愛い(容姿だけだが)女の子と会話のキャッチボールができるというのは悪い気分ではない。本当に、男というのは単純で自分が嫌になる。結局ここの学院に来てまともに会話をしたのはアテネと、シーナの二人だけなのでなんだかんだ人と話せて嬉しかったのかもしれない、と自己分析する。

「ほら、んなこと言ってるうちに」

カイトは顎で教壇をさす、どうやら話しているうちに教師が来たようだ。中年の女性の先生で身に纏っているローブは赤紫、優しそうな風貌からおばあちゃんみを感じさせる教師だった。

「みなさん、入学してから初めての授業はわたくし、ティファが担当します。さっそく張り切っていきましょう」

待ちに待った魔法学院の授業、今まで魔法学を自学自習してきたカイトにとって誰かに魔法を教わるというのは初めてのもので、とっても期待していた。

「私はね、この代の生徒にとても期待しているのですよ。なんたってこの代は前代未聞、入学試験の筆記を満点で突破したとんでもない生徒がいるんですよ。名前はちょっと、その驚いた衝撃で忘れてしまいましたが...」

ティファの一言で教室一体がざわめいた。魔法学院の筆記試験は数々の有名なウィザードが作問に携わっており難易度が高く、特にアリア王国魔法学院の問題は数ある魔法学院の試験問題の中で最難関とされている。魔法学と一言に言っても魔法工学、魔法史学、魔法理論など様々な分野から出題されるので一分野を専門家級に鍛えたところで満点は取れない。しばらくざわめきが続いた後生徒たちがシーナの方をちらちらと見る。カイトは平民なので耳には入ってこなかったが、貴族の間でシーナはノアルエール家の中でも歴代で屈指の才女として名が知られている。満点を取った生徒がいるならば、そのノアルエール家の彼女ではないかと皆が期待を寄せている目だった。その視線に気づいたシーナは一瞬苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべた。

「悔しいけど違うわよ!私だって満点取れる自信はあったけど結果は九割弱...私の方が一番その満点取った奴を知りたいわよ!この反応だとうちのクラスには居なさそうだし...一体どんな奴なのかしら」

九割弱だって、その年の入試で一人も取れなかった年の方が多いほどの高得点である。満点は取れなくとも当然学年一位と思っていた中で突き付けられた二位と言う結果は、プライドの高いシーナにとっては

とても衝撃的であった。

「(おいおい、メンドクサイ因縁は勘弁だぞ)」

そのシーナが報復に燃えている仇はすぐ隣にいるのだが、俺がその人ですと言ってやる義理はない。ここは黙るのが吉だ。

「まぁまぁ、その生徒の事は後々機会がある時に話しましょう。まず私が担当している授業で教える系統は風ですね。さて、ここで初歩的な知識の確認といきましょうか。魔法には五大属性というもので系統分けされていますが、ではシーナさんお答えください」

ティファさきほどの叫び共に席から立ち上がっていたシーナを当てた。シーナは思わず立ち上がっていたことに恥ずかしがりながら答える。

「はい。火、水、風、土、雷です」

「その通りです。補足までに系統魔法を超越する強大な魔法を万能魔法と言いますが、伝説の域を出ずに実在しているかは不明です。」

万能魔法、人間の身にして神の奇跡と同等の現象を起こせると言い伝えられている伝説の魔法である。どのような条件で使えるのか、どのような種類があるのかそもそも存在しているのかと分からないことだらけなので魔法の歴史を学ぶ魔法史学以外で話題に上がることはほぼない。

「風属性は、攻撃と防御その両方を兼ね備えている属性だと私は考えています。物を浮かす、吹き飛ばす、切断するなど出来ることの多さはシングルマジックの中では屈指です」

一種類の属性だけを使った魔法をシングルマジックといい、二属性でデュアルマジック、三属性でトリプルマジックと増えていく。殆どの現象はトリプルまでで引き起こせるので、四属性以上を足すのはあまり意味がないとされておりクアッドマジックと技術して存在してはいるが難易度の割にできる幅がトリプルとほぼ変わらず実用性はない。

「そうですねぇ…では隣に行きましょう。ミス・ノアルエールの隣にいるその珍しい黒い髪を持つ貴方、今前に来て風魔法でこのペンを浮かせてごらんなさい」

「え、俺ですか?」

「はい、そこの貴方ですよ」

「いやでも」

「なぁに、この魔法学院の試験を突破したのならすぐにできる事ですよ。さぁ」

終わった、カイトはその瞬間に強く思った。これでは自分から「私は魔法を一切扱えないです」と晒し者になりに行くのと同じである。いつしかある実践授業でいつかバレる事はそれにしても心の準備というものがある。しかし、教師の指名を断るわけにもいかないので背中の刀を椅子に置いて、教室の前へとぼとぼと歩く。教卓の前に着き、教師含む教室にいる人物全員からの視線を集める。

「?貴方、マントは?忘れたの?」

「いや、違います。ないんです」

「...?!平民でここに入学した生徒がいると聞きましたがそれが貴方ですか?!」

「まぁ一応」

「それは、実に興味深いですね。ぜひ貴方の魔法を見てみたいわ」

「は、はは...」

要らぬ期待をかけられ、カイトはついに観念した。

「(ああもう、どうとでもなりやがれ)」

カイトは杖を取り出しスペルを唱え、振り落とす。…当然、結果は沈黙。ペンは浮かないどころか微動だにしていない。

「ま、誰にも初歩的なミスはありますからね。もう一度してみましょう」

ティファもまさかペンを浮かすという簡単な課題で引っ掛かるとは思っていなかったので、顔を引きつらせながら再度チャレンジを促す。

「あ、はい...」

どうせ何度やっても結果は同じだ、と心の中で愚痴りながら先ほどと全く同じ工程を繰り返す。スペルは完璧であった、スペルだけは。当然ながら何も起きない。席の方をちらっと見ると自分の事をクスクス笑う者、なんでこいつが学院に入れてるんだと怒る者、そもそもカイトに興味がなくよそ見をしている者。いずれにしてもカイトにとって気分のいいものではない。カイトはちらっとシーナの方を見る。もう、表情だけでなんて思っているかが分かった。「所詮、平民ね」と鼻で笑っている、実際に口には出ていないはずなのにカイトにはそうはっきりと聞こえていた。

「(クソがあいつ...)」

「...はぁ、なんで、こうなんですか」

後ろからティファの呆れるため息が聞こえてくる。先ほどまで今世代の生徒たちへの気体を熱弁した直後にこれでは、呆れても仕方ないというものである。

「アリア魔法学院の生徒がこんな初歩の初歩で躓いてどうするのですか。どうやってこんなのもできずに受かったのですか」

「うぅ、すみません」

「もう、貴方名前は?」

「か、カイト・アレクサンダーです」

「今後、魔法により一層励みなさい。その名前は、覚えておき...ん?何処かで見聞きしたような、カイト・アレクサンダー...カイト...あっ!」

ティファが何かに気が付いた声を出す。もうその次の瞬間に、カイトはティファが何を叫ぶのかが予感できて思わず冷や汗が流れる

「いや、まっ」

「今思い出した、カイト・アレクサンダー!あなたね!アリア魔法学院史上初の筆記試験満点合格者!」

突然のティファの絶叫に一同困惑し、発した言葉の意味を理解するのに数秒かかる。しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。

「ええええええええええ!」


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