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異世界短編シリーズ

<異世界短編> 剣士が雇われて

作者: moco

ここは魔法が存在する西洋ファンタジー的な世界。これはそこで暮らす、とある職業人の物語である。


「う~ん、これにするか」


そう呟きながら若者は掲示板に貼られた依頼票を手に取った。

若者の名はオズワルトといい、職業は剣士である。

この世界では魔法が使える者が重宝されているが、その数は少なく魔法が使えない者が圧倒数である。


そんな中で剣士は兵士や貴族の警護、さらに魔物の駆除などで需要も多く、冒険者の中でも人気の職業であった。彼もその一人であり、ある流派の剣術を修行した経験を活かして冒険者となって早一年が経つ。

冒険者はパーティーを組んで行動するものだが、彼はある事情によりソロで活動していた。そんな彼が手に取った依頼票は、


『助太刀求む』


というものだった。


「あなたが依頼を受けて下さったオズワルトさんですか。私はイーネと申します。どうぞよろしくお願いします」


深々とお辞儀をしたのは今回の依頼主だ。年は十代後半であろうと思われる髪の長い綺麗な女性だ。


「こちらこそよろしくお願いします。して、助太刀とありましたが一体どのような内容でしょうか?」


依頼主が美人だったこともあり、彼は少々気合が入っていた。


「はい、実は父の無念を晴らしたいのです。私の父は串焼きの露店を開いていたのですが、ある日二人組の冒険者から因縁をつけられ、そこで色々とありまして・・・その・・・でも、最後には命を落としてしまったのです。父はいずれ自分の店を持つのが夢でしたから、あんな風に夢半ばで倒れたのはさぞかし悔しかったでしょう。相手はわかったのですが私一人では何も出来なくて。そこで一緒に相手を捕らえ、それ相応の罰を負わせたいのです!」


「なるほど・・・」


女性の言いように少し違和感を覚えたが、彼はさほど気にしなかった。

この世界は未だ封建制度であり、犯罪者を取り締まるのは領主の責務となっているが、ほとんどあてにならなかった。そのため庶民は伝手や冒険者ギルドを頼って自分の力で相手を罰する、いわゆる私刑を行うことが往々にしてあった。


「という事は、命まで取るつもりはないという理解でよろしいですか?」


「はい」


この言葉に若者剣士は小さく安堵の息を漏らす。いくら仕事とはいえ、人の命を奪うことはなるべく避けたい。

そうして若者剣士は依頼人と一緒に相手がよく通るという街道脇で待ち伏せをしていた。


「あ、あれです! あの二人組で間違いありません!」


「あれですか・・・、い!?」


若者剣士は大いに驚いてしまった。相手の二人組のうち片方は彼の知り合い、というか剣術の元師匠だったのだ。


「? オズワルトさん?」


「い、いえ、何でも。・・・とりあえず呼び止めましょう」


オズワルトは動揺しつつも二人組の前に飛び出し、行く手を遮った。


「待て!」


「「なんだあ? お前は?」」


顔の下半分を布で隠したお陰か、元師匠は彼に気付いていないようだった。次いで依頼主も飛び出してきた。


「あなた方はソデスとブリテンですね! 先日、串焼きの店で狼藉を働いたでしょう! 私はそこの店主の娘です。大人しく罪を償ってください!」


二人組はたじろいでいたが、元師匠の連れがいきなり槍を構え襲いかかって来る。


「う、うるせえ!」


しかし若者剣士が前に立ちはだかると、あっという間に相手の槍を弾き、返す動作で頭を叩き気絶させた。なかなかの腕前であった。

うろたえる元師匠に若者剣士は続けて斬りかかるが相手も防ぎ、つばぜり合いの様相となる。


「(一体、何やらかしてんですか、師匠!)」


「(うん? そ、その声はオズワルトか?! お前が相手だったのか!)」


若者剣士のフラッシュトークに、元師匠も相手が誰か気付いたようだった。


「(最低ですよ! 酒と女にだらしないのは知ってましたが、何の罪もない人に危害を加えるなんて! それでもルーフェン流の当主ですか!)」


ルーフェン流とは古くから伝わる剣術の流派で、オズワルトが修行した流派である。一時期は隆盛を極めたのだが今ではすっかり衰退してしまっていた。


「(ま、待て! 俺は何もしていない!)」


「(じゃあもう一人がやったって事ですか!? だったら何で止めなかったんですか!)」


依頼主のイーネはオズワルトが相手と話をしている事に気付かず、斬り合いをしているのだと思って後方ではらはらとしている。


「(違うって! 理由を聞いてくれ! うちらは普通に買い食いしようとしてたんだよ。そしたら金が足りない事に気付いたんで、悪いとは思ったが逃げたんだよ! そしたら店主が追いかけてきて、途中で落ちてたバナナの皮で滑って転んで、そのまま頭をぶつけて死んじゃったんだよ~~)」


「(そんな馬鹿な話ある訳ないじゃないですか! 嘘をつくならもう少しまともな嘘を付いてください!)」


「(だから皆そうやって信じてくれないから、逃げ回ってるんじゃないか~。頼む、見逃してくれ! こんな理由で牢屋になんて入りたくない!)」


涙目になって訴えてくる元師匠。そう言えばとオズワルトは思い返す。

師匠は生活能力ゼロのだらしない人ではあったが、嘘を付いた事はなかった。


(もしかして・・・ホント?)


後ろを見ると、イーネが目に涙を浮かべてこちらを見ていた。


(期待してる・・・よな?)


昔そこそこ世話になった師匠の恩義を取るべきか、依頼人かつ美人の期待に応えるべきか・・・

迷った末にオズワルトが下した結論は、


「(わかりました、見逃しましょう。但し! 究極奥儀の書をください。師匠が持ってるんですよね?)」


と、バーター取引を持ち掛けたのだった。取引を持ち掛けたのには理由があった。


彼が修行した流派・ルーフェン流では剣技を繰り出す際、『その技名を叫ぶ』のが決まりとされていた。だが、技名は何とも恥ずかしいものが多く、『銀河崩壊斬』とか『()釈迦(しゃか)払い斬り』などセンスがまるで感じられない。


とは言え技名を叫ばないと何故か威力が半減してしまうので、ここぞという時には叫ばざるを得なかった。

そんな決まりのせいで彼には心に深い傷があった。


帰郷した際に気になっていた幼なじみとデートをした時のこと。上手くいきそうな時に限って魔物に襲われてしまう。彼は幼なじみを守りながら魔物を撃退したのだが、その時に『昇竜剣』という技を放った。その技は片手を腰に当て、もう片方は剣を持ちながらジャンプしつつ切り上げるどこかのゲームに出てきそうな技で、端から見ると(この人大丈夫?)という動きにしか見えなかった。


結果、幼なじみは感謝の言葉を述べてはいたが、明らかにドン引きした様子で逃げるように去ってしまい恋は成就しなかった。

他にも冒険初心者の頃にパーティーを組んだ際、『超絶獄炎斬』という技名で魔物にトドメを刺したところ、仲間に「燃えてねえじゃねえか」と大爆笑されたこともあった。

そんな事が繰り返された為、いつしか彼はソロの冒険者として活動するようになったのだった。


「(あ、あれをか?)」


「(ええ、いいでしょう!?)」


迷う元師匠に彼は尚も詰め寄る。彼が究極奥儀に固執する理由は、その究極奥儀が『無詠唱』だと聞いていたからだった。


「(お、お前・・・本気か?)」


「(当たり前です! ずっと探し求めていたものなんですよ!)」


元師匠が驚く理由がわからなかったが、彼は必死の形相で迫っていく。


「(そ、そうなのか・・・。わかった、お前に渡そう)」


これで交渉成立。つばぜり合いのまま、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、元師匠は冊子を依頼人には見えないようにオズワルトへと渡した。受け取った瞬間、彼は心の中で歓喜の声を上げた。


「(じゃあ、後は私が技を繰り出しますから、やられた振りして逃げてください)」


そう囁くと、少し距離を取って剣を大上段に構える。


「えーい、往生際が悪い。 これでも食らえ! 『天上天下唯我独尊斬りぃ!!』」


大袈裟な技名を叫ぶが何てことはない、ただの剣の振り下ろしである。


「う、腕がぁ~~~、た、助けてくれ~~」


元師匠はやられた振りをし、元気にどこかへと走り去っていった。


(ああ・・・これでやっと、この恥ずかしい剣技から解放される)


オズワルトは一人、感慨にふけっていた。


----------------------

「一人逃げてしまいましたが、もう一人はこの通り捕まえられましたね、イーネさん」


「は・・・はい・・・。父も、喜ぶと・・・思います」


イーネは礼を言っているが目を合わせてこない。明らかにドン引きしているのが伝わってくる。


(耐えるんだ、俺。こういうのもこれで最後だ)


オズワルトは心の中で泣いていたが、顔には出さず微かに笑っていた。


捕まえた一人を牢屋へ引き渡した後、イーネは報酬を渡すとそそくさと立ち去っていった。

オズワルトは若干空しさを感じたが気を取り直し、究極奥儀の冊子を開く。前半にはルーフェン流の発端や歴史が記載され、読み進んでいくとお目当ての文言が出てきた。


『我が流派の究極にして最大の奥儀。その名も・・・』


(キタ~~~~!! そ、その名は?)


無影(むえい)・SHOW!』


(は?)


一瞬理解が出来ず、オズワルトは読み進めていく。


『影が生まれないほどに素早く、かつ躍動しながら斬るのだ! 無論、この技名は力強く叫ぶのだ! 鼓膜が破れるほどに! 血管がはちきれるほどに!! フォ~~~~~~!!!』


そこには恥ずかしい説明文とともに、奥儀の動きを示したとても人前でするのは憚れるような珍妙な絵が紹介されていた。


(・・・・・・)


彼は冊子を持ったまま膝から崩れ落ち、しばしの間動く事が出来なかった。


おわり


現在、連載小説「隻眼浪人と茶髪娘、江戸を翔ける!」も手掛けています。

こちらもぜひご覧になってください。(ブックマークやコメントをもらえると励みになります。)


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