影十字
「ほら、あそこに鉄塔があるでしょ。」
C子ちゃんは右手で電波塔を指さした。その薬指にキラキラとした銀色の指輪が光っている。
なんでも誕生日に買ってもらったとかで、いつも付けていて時々先生に怒られている。
クラスで時々怖い話が出る。
C子ちゃんが指さした電波塔の影が、架空水路の影と交わって夕暮れ時に十字型の影を作る時がある。それが水路の下を通る道路の十字路に重なると、あの世からお迎えが来ると言う怖い話だ。
私は信じなかったけど、クラスのみんなは気味悪がって夕暮れ時はそこを通るのを避けるようになっていた。
でも、残念ながら私たちの通学路はここを通るのである。
いつもここを通って帰るのだけれど、十字路に十字の影がぴったりと重なる事なんて見たことが無い。
夏のある日。
C子ちゃんがキャンプ場でいなくなった。
村の人は大騒ぎになって、毎日のようにテレビの人たちが大勢来て報道していた。
でも何日も経つとテレビの人も来なくなり、消防団の人や警察の人たちも少しずついなくなった。
秋のある日。
C子ちゃんがいなくなってから、一人で学校から帰る帰り道の事だった。
その日は晴れていて、夕焼けが赤く染まって地面まで紅色に染まっていた。
私はいつものようにあの十字路に差し掛かると、なぜか十字路が暗く陰っている。
「あっ!」
十字路に十字の影が被さっていた。
なんだか足がすくんでそれ以上進むことが出来なかった。
ふと、十字路の真ん中に何か小さなモノが動いていた。
それは小さな真っ黒い手のようで、私を手招きしている。
・・・指の小さな指輪がキラキラと光っていた。