第4話 ウェポンドール?
ボコボコボコ 体がお湯が沸騰した時のような音を立てながら、再生していく。
切り落とされた足、えぐり取られた目、傷ついた歯、それぞれの傷ついた箇所がスキル(再生)を使い、新たな体を形作っていた。
〈う、うぅぅ、疲れたぁ。怖かったぁ〉
僕は溜まっていた恐怖や疲れをどっとアリサに吐き出す。
[よしよし、千彩都はよく頑張った。偉いぞ。初戦闘であのレベル30モンスターを倒したんだ。もうどんなモンスターが来ても撃退できるさ。]
今の疲れた体と心には、アリサの子供へ向けるような褒め言葉でもしみる。
もし、アリサが僕の頭の中に話しかけてくるタイプじゃなく、実体があるタイプだったなら迷わずその胸に飛び込んでいたことだろう。
〈うん。僕。頑張った。〉
つい幼児化してしまったのは、アリサのよしよしの効果だろうか。
それに気のせいかもしれないけど体の回復速度が前より上がった気がする。
よしよし効果恐ろしい…
[それにしても、千彩都本当によく頑張ったね。最初レベル13だったのにレベル15だよ。一気に2レベアップ。これはすごいことだよ。]
アリサのべた褒めを聞き、疲れた心もどっと休まる。
[これは、ステータスが気になる所。一気に2レベだ。今までの特訓よりも遥かにステータスの伸びはいいはずだよ。]
ありさはそう言うとヴオンという音と共に目の前にステータスを出現させる。
【個体名 夜野千彩都
種族 テンタクル
レベル15
ステータス
Hp:215/231 神気:59/164 体力:483/645 攻撃力:95 防御力:56 速力:421 腕力:53
所持スキル
(補助精霊ⅰ)(吸血ⅶ)(再生ⅵ)(伸縮ⅶ) sp 198
称号
(高速の触手)】
[お、おぉーースキルが全体的に格段に上がってる。いつもより回復が早かったのは回復6の効果か…すごいな…]
どうやら回復速度が上がったというのは気の所為ではなかったがよしよし効果でもなかったようだ。
でも確かにステータスもスキルも目に見えて上がっている。
特にHPと防御力の上がり方がすごい。
なぜここまで上がったのかということについて思い当たる節が無いわけじゃないけど…
なにせ体穴ぼこだらけにされてたもんね。
〈確かにこれならそこらへんのモンスターとも戦えそうだね。それに僕ってほんとに速力化け物だったんだね。〉
再確認するが確かに僕の速力は異常なようだ。
なにせあの顔面八つ裂きモンスターの約20倍は速い。
あのモンスターが攻撃特化だったとしてもこの速度は異常だ。
わかりやすいように例を出して例えると。
あの顔面八つ裂きモンスターを仮に ウサイン・○ルト とすると僕はその20倍の速度で走っているためだいたい600kmの速度で走っていることになる。
わかりやすく言うと、化け物。
[だから行ったでしょほんとに千彩都の速力は化け物なんだって。でもあれは相手が悪かったね。速度があっても避け用のない毒霧をスキルに持ってたんだから。]
確かにそうだろう。顔面八つ裂きモンスターは自分で自分に毒霧を吹きかけていたからそこまで長く毒霧が続かなかったけど正直あのまま吸血の回復無しで毒ダメージをもろに食らい続けていたら正直かなりまずかった。
そこまで考え、ふとあることが引っかかった。
あれ?でもなんで八つ裂きモンスター約してヤツモンは自分で自分に毒霧を吹きかけるなんて言う馬鹿な真似をしたんだ?
モンスターがスキルを使う理由…。
スキル…攻撃…敵
そこで一つのある仮説を思いつく。
〈まずいな…。ごめんアリサもっとゆっくり勝利の感想を語り合いたいんだけど。どうやらそうは行かなくなった。〉
僕の立てた仮説はこうだ。
まずヤツモンは僕が来る前に何者かと戦っていた。
そこで何かしらがあり毒霧を使わざるを得ない状況に陥った。
そこで毒霧を使ったが逃げられ自分だけが毒ダメージを食らった。
なぜ相手が逃げたかと言い切れるのか。それはこの場にその相手の死体がないからだ。
この世界ではRPGのように死んだモンスターはそのまま消え、ドロップアイテムが落ちるという方式ではない。
この世界では生物は死んだらそのまま死体となり、腐って微生物の栄養になるまできちんと骨まで残る。
そのため、今この場にその相手の死体が無いと言うことは毒霧が届かない範囲に逃げた。
ということになる。そのため、毒霧が引き、ヤツモンの声が聞こえなくなった今。
正体不明の敵はとどめを刺すまたは死亡確認のためにこの場に戻ってくる可能性が高い。
今の神気もオーバーヒート気味でHPも回復仕切っていないこの状態では戦うにも部が悪い。
これら全ては根拠の無い仮説にすぎず。実際はアホなヤツモンちゃんが毒霧を誤発動して苦しんでた。とかかもしれないが、念の為今は逃げる。
戦略的撤退と言うやつだ。
再生仕切っていない触手の足を必死に動かしながら、この円形の空間の出口を目指す。
まずいな…ここは出入り口が一つしか無い。出入り口で正体不明の敵に待ち伏せされていたら完全に袋のネズミだ。
[え、え、え?なんで急に走りだすの。そうはいかなくなったってどういう事?!ねぇちょっと。千彩都!!]
脳内が五月蝿い。
アリサにはすまないけど、今は説明している余裕はない。
僕は自慢の速力で一瞬で出入り口に到着し、その勢いのまま洞窟から飛び出た。
はずだった。次の瞬間勢いをつけた僕の体は ボグォ という鈍い音とともに地面にふっ飛ばされていた。
[千彩都!!?]
突然のことに呆然したアリサの声が脳に響く。
くそ、くそ、くそ。
やっぱり待ち伏せされていた。
なんとか伸縮をうまく使って衝撃を殺したからよかったけど。
もしうまく受け身を取れず勢いそのまま地面に突っ込んでいたら、死ぬ。とまではいかないけれどかなりHPを削られていたことだろう。
それにしてもなんだ。一体何が僕を弾き飛ばしたんだ。
触手についている大きな目を洞窟の出入り口へと向ける。
目が大きいとこういう時わざわざ顔をそんなに動かさなくても物が見えるので便利だ。
そこには、上半身が人間のような形をし、下半身から無数の虫の足のようなものをはやした、黒いモンスターが3匹佇んでいた。
上半身が人形。と言っても顔に目や鼻はなく、口のような穴が一つ空いているだけだ。その穴は時折振動し、その生物が空気を吸っているということがわかる。
それにそれぞれ3匹の両手は棍棒や戦斧、剣ハンマーなどの形をその黒い体で形作っていた。
なんだ…こいつら…手が、武器?
じゃあ、さっきの衝撃はおそらく棍棒やハンマーなどの打撃系の武器による攻撃か?
たぶん、そうだろう。
もし。剣や斧で攻撃されていたら僕は勢いそのままスパッと2つに切られていただろうし。
[え…なんでこいつらがここに…おかしい。そうか。だから。モンスターが一匹も…]
僕が一人思考している中ありさも同じく何かを考えているのかブツブツと呟いていた。
おかしい?でも。まぁさっきアリサも[もう大抵のモンスターは倒せるよ。]って言ってたし。
戦ってもまぁそこまで問題はないだろう。
うん。きっと大丈夫。
モンスターはなぜかさっきから入り口から一歩も動こうとせず。ただ3匹でじっと僕のことを見てくるだけだった。恐らくこっちから動かなければアイツラが攻撃してくることはないだろう。
〈ね、ねぇアリサこいつらって戦った場合僕が勝つような弱いモンスター?〉
自己暗示をかけ恐怖をごまかしていたが、さっきからずっとブツブツと呟いてるアリサの姿を見て急に不安になってきた。
もし。これが倒せないような強敵だった場合は全力で逃げよう。
[あ。あぁ千彩都。ごめん少し考えごとをしてたよ。う〜んどうだろう。でもどうやらあいつらは千彩都をこの洞窟から逃さないようにしているからこっちの準備が終わらないうちに襲いかかってくるって事は無いんじゃない?多分千彩都の最初の動きを見て逃げられることを警戒してるんだよ。]
良かった。張り詰めていた気持ちが少し楽になる。
[まぁ、それはさておきまずはあいつ等のステータスを見ないと勝てそうかどうかもわからない。それに…もしかしたら似てるだけの別種かもしれないし。]
アリサが最後にボソッと呟く。
なんか複雑な事情がありそうだな。
僕がそんな事を考えていると目の前に鑑定の結果が出現した。
【個体名 なし
種族 ウェポンドール
レベル8
ステータス
Hp:95/95 神気:32/56 体力:123/154 攻撃力:69 防御力:24 速力:82 腕力:24
所持スキル
(身体武器化ⅲ)(再生ⅱ) sp 94
身体武器化
戦斧・戦斧】
【個体名 なし
種族 ウェポンドール
レベル10
ステータス
Hp:64/105 神気:45/62 体力:156/173 攻撃力:83 防御力:32 速力:92 腕力:41
所持スキル
(身体武器化ⅲ)(再生ⅲ) sp 121
身体武器化
剣・剣
状態
毒ⅰ】
【個体名 なし
種族 ウェポンドール
レベル6
ステータス
Hp:69/71 神気:35/48 体力:67/94 攻撃力:53 防御力:32 速力:78 腕力:35
所持スキル
(身体武器化ⅱ)(再生ⅱ) sp 94
身体武器化
ハンマー・棍棒】
[やっぱりか…でも。どうして…]
アリサが重い空気をまといながらブツブツとなにかを呟く。
やっぱり?何がやっぱり?
なんかさっきから独り言が多くて怖い。
どうやらこの事態はアリサも予想できていなかったぽいし。
もしかしてあのモンスターめちゃくちゃ強いとかかな。
もしそうなら体も再生でほとんど治ったし全力で逃げよう。
〈ねぇ、アリサあのモンスターって何?さっきから一人で何を呟いてるの?〉
返答次第によってはすぐにでも離脱できるように足に力を込めながら恐る恐るアリサに聞く。
[あぁ〜説明が難しいな。…できれば混乱させないように順を追って説明したいし…でもまぁ。うん。
そうだね。あのモンスターはウェポンドール。ウェポンドールは本来この洞窟には出現しないはずのモンスターだ。あ、でも勘違いしないで。けっして勝てない相手じゃない。ねぇちょっと。腕伸ばさないで!]
それを聞き今すぐにでも離脱しようと伸縮を使い伸ばしていた触手を縮める。
だって怖いじゃん本来この洞窟に出現しないはずのモンスターなんて。
なんか見た目も真っ黒で怖いし…
仕方ないし…
[うん。あぁ〜それでウェポンドールは、まぁとあるモンスターの操り人形?っていう言い方のほうががわかりやすいか。うんまぁそんな感じのやつで、全体の大雑把な指揮はそのとあるモンスターが出しているからさっきは逃げれていた。あと恐らくだけどあの3ひきが動こうとせず入り口を守っているのはとあるモンスターがそう指示を出したからだろうね。まぁ指示って言ってもほんとに大雑把なものらしいから戦闘の際はそこまで起点を利かせられる奴らじゃないよ。まぁ千彩都なら倒せると思う。]
よかった。どうやらそこまで強いモンスターではなさそうだ。
それにしてもさっきからちょくちょく何かを隠しているような言動をしているけどなんだろう。
う〜んまぁ、気にしても仕方ないか。今はとにかくあいつらをどうにかすることを優先しよう。
そうと決まれば先手必勝。相手は指示待ち人間。まぁ正確には指示待ち人形か。だ
先手を取ることなど容易い。
足に力を込め。両手が剣になっている人形へと飛び、吸血を使い人形の胸を思い切り噛む。
バズッ という鈍い音とともに人形が後ろへ4メートルほど飛んだ。
ブシューと言う空気の抜けるような音とともに人形の体から赤黒い血液のようなものが流れ出る。
正直これを飲むのは気が引けるけど、でもまぁ触手って味とか感じないし、まぁ良いか。
そんな事を思いながらも伸縮を使い、その人形に腕をぐるぐると巻き付け、しがみつく。
ジタバタと虫のような足を気持ち悪く動かしながらもそのモンスターは必死に腕を振りほどこうともがいている。
そんなことは気にもとめず吸血を使い血をどんどん吸っていく。
味方がぼこぼこにされている中。他の仲間も流石にこれはまずいと思ったのか。はたまた「とあるモンスター」にそうするよう指示をもらったのか、その体を動かしだす。
距離は5メートル程離れていたがさすがの高速力。足をワシャワシャと動かし一瞬で僕のところまでたどり着く。
たどり着いた人形2体はその勢いのままそれぞれ戦斧とハンマーを振りかざし、思い切り僕に振り下ろす。
だけど、遅いね。高速の触手。舐めるんじゃない。
シュッと音とともに触手の体が人形の上から消える。
直後 ズシャァァ という音とともに2体の武器が倒れていた人形を打ちのめす。
ビクンビクンと人形の体が動きそのまま動かなくなる。
[うわぁ。千彩都戦略最悪。]
というアリサの引き気味な声が聞こえた気がするけど無視だ無視。
一方消えた僕の体は人形たちの上にいた。
急遽伸縮を使い数本の腕を地面方向に伸ばし、上に飛んだのだ。
これは縮める時ほどではないが人形たちの視界から消えるほどなら飛べる。
これはレベル上げをしていたときに、どうしたら素早く飛べるかという実験をしていたときに生み出した移動方法だ。
だが、汎用性があまりなく、使い所がなかったので使っていなかった。
まさかこんなところで役立つとは。
上から自由落下し、味方に斧を指したまま呆然としている人形の頭目掛けて吸血を使う。
グシャァ人形の頭骨のような物が割れる音と共に人形の頭からどす黒い血が流れ出る。
[ひっ]
今度はアリサの引きつった声が聞こえた気がするけどうんまぁ…いっか。
それに頭に降りたのは吸血をするためだけじゃない。
そう頭に降りたのは吸血をするためだけじゃない。
必死に斧を頭の上にいる僕に当てようと横ぶりをしている人形とどうしたら良いかわかっていなさそうな人形を横目にするすると首を降り、
伸縮を使い頭から血を流している人形の首を2本の触手で締める。
その後他の数本の触手を伸ばし、地面を掴む。
〈そうれっ〉
という掛け声と共に全ての触手を思い切り縮め、首を締めていた手を離す。
すごい勢いで人形の体が宙を舞い、 バゴーーーン と言う音とともに近くにあった壁にぶつかる。
ドシャッという音とともに人形の体が地面に落ちた。
すごい勢いで飛ばした人形は顔ごと体がひしゃげ、体中からどす黒い血を流しながら息絶えていた。
[えぇ…]
もはや何も感じていなさそうなアリサの声が脳に響く。
…今回の戦闘でアリサの中の僕の株が大暴落している気がするのは、まぁ気のせいだ。そう信じよう。
そんな事を思っていると目の前に
[レベル15>16
(吸血ⅷ)(伸縮ⅷ)(再生ⅶ)会得]
という表記が現れる。
やったねレベルアップだ。代償としてアリサからかなり引かれた気がするけど。ハハハ
まぁ、なにはともあれレベルも上がり人形ももうあと1体しかいない。
〈ふっ勝ったな。〉
とフラグ臭いセリフを放ち、
恐らく僕を最初に弾き飛ばしたであろう人形へとツッコむ。
勢いそのまま今度はその人形の足を伸縮を使い数本の腕で握る。
そのまま残った触手を使い走り出す。
さっきから、ずっとボーッとしていた人形も流石にまずいと思ったのか足を引きずられながらも、
腕をむちゃくちゃに振り始める。
そんな事をしても意味はないというのに…哀れ
ある程度勢いがついたところで少しジャンプし伸縮を使い走っていた足で近くの岩のてっぺんを掴む。
そのまま勢いがついた人形は岩を軸に一回転し、近くにあったもう一つの岩に上半身を思い切りぶつけた。
ボグショォという音がして握っていた足が少し軽くなる。
その後足を握ったまま数回回転し、ゆっくりと地面に降り立ち、握っていた足を見る。
足は予想通り上半身が吹き飛んでおり。大量の虫の足のような下半身だけが残っており、そこから血が吹き出ている。
なぜわざわざこんな方法を取り、下半身だけをもぎ取ったのか。
これは、さっきヤツモンの首からちを吸っているときにふと思いついた方法だ。
まず、僕の持っているスキル吸血はモンスターや人間のちを吸うことで体力を回復するというスキルだ。
そのため、そこそこのピンチに陥っても血さえあれば回復できる。
この回復は再生とは違い神気を使用せず。
そして回復速度もそこそこに速い。
そのため戦闘の際に血が必要になった時用の臨時の非常食としてこれを用いる。
それと。なぜ人形を下半身だけにしたかと言うと、こっちのほうが運びやすく非常食として優秀だからだ。
非常食として持ってきた死体が重くて戦闘に不利になるなんて本末転倒。そのため軽く、突起が多く、持ち運びのしやすい虫の足だけをとり、非常食にした。
我ながらなかなかに良いアイデアだと思う。
そんな自画自賛をしていると脳内に
[ねぇ]
といういつもより少し低いアリサの声が響き渡った。
まずい…アリサがいる事忘れてた…
ただでさえ戦闘で引かれてたのに更にこれは非常食です。なんて言えない。
[それ。何に使うの。]
すごい圧をかけながらもアリサがおどろどろしく聞いてくる。
ひえぇ。
〈いや…あの非常食にでもと…思いまして…はい。〉
アリサの圧に負け、するすると言葉が口をついて出てくる。
怖い。あまりに怖い。
最初に味わったヤツモンと戦う前の恐怖がぼやけて見えるほど怖い。
なんで声だけでそこまで人間を威圧できるの…
僕人間じゃないけど…
多分アリサはスキル憑依を使うまでもなく声の圧だけで相手のことを操れると思う。
恐怖のあまり自分でも意味がわからないような事を考えていると。
[置け。]
アリサの静かだけれど芯の通った声が脳に響く。
〈ひゃい。〉
もうそこには敵はいないはずなになぜか敵と退治している時以上の緊張感がその場を包み込んでいた。