第1話 補助精霊アリサ!
僕は死ねない……死ぬわけには…いかない…
芽結を死なせない…
母さんを一人にしない…
僕は死ぬわけにはいかない。
死ねない。
死にたく、ない。
朦朧とした頭でそう願っていた千彩都の意識はそこまで考え、覚醒した。
…ここは…どこだ…何も…見えない…体が…だるい…
なんだ。僕は眠っていたのか。
僕は…僕と芽結はどうなった。
僕と…芽結は…確か…鎧に…殺されたはず。…
なぜ意識がある。…肺を刺され助かるような怪我でもなかったのに。…
これは…どういうことなんだ…
一体ここは…どこなんだ…。
千彩都は目覚めて間もないぼやける頭で必死に考えていた。
まずは…状況を確認したい…目を開かなければ…
目が開けば状況を把握できる。…それに
…芽結も同じように助かっているかもしれない。
千彩都は芽結も自分と同じように生きているという一縷の望みにかけ、目を開けようと万力の力を振り絞り、むりやりまぶたをこじ開けた。
ガバァと目が開き、周りの状況を確認する。
そこは薄い膜の中だった。
今千彩都は、半径1m半ほどの赤みがかった半円球の膜の中にいる。
膜の中は白濁色の液体で満杯になっており、千彩都の体はその液体に揺られゆらゆらと揺れ動いていた。
ここは…どこだ…水の中?…
やはりここは病院ではないらしい。
最新の延命装置か何かか?…
芽結はどこにいるのだろう。
この膜らしきもののせいで外がよく見えない。
それに液体に入っているためか、目がぼやけて見えづらい。
ひとまずこの膜を破って外に出よう。
と千彩都は膜を破るために膜に手を伸ばした。
だがその膜に伸びた手は、明らかに人間のものではなかった。ぼやけた目でわかるほどはっきりと。
それは赤黒い色をした、吸盤の無いタコの足のような形をしてウネウネと蠢いていた。
人間の手ではない。それは触手だった。
手が…ない?
代わりに触手のようなものがある。
何だこれは…僕の手は…どこへいった。
なんだ…これは悪い夢か…?
あまりに非現実的な自体だ。悪い夢でも見ているのかと疑う事は仕方が無いだろう。
だがこれは夢では無い。
れっきとした現実なのだ…
…まぁ、いい…なんにせよ外に出れば何かはわかる。
はずだ。
まずはこの膜を破ろう。
千彩都はわからないことは後回しにし、とりあえずこの膜からの脱出を最優先にすることに決めた。
それでは、と千彩都は触手を思い切り膜に叩きつけた。
膜がボヨンと少し揺れまた元の形に戻る。
困った。どうやら僕は予想していたよりもはるかに力が弱いようだ。
今度は発想を変え叩くのではなく触手を膜にこすり合わせ、膜をうちから剥がすことに決めた。
触手と膜がこすり合わさる。
しばらく膜に触手をこすり合わせていると、急に目に前に [腕力1>1.5] という少し青みがかった半透明のパネルのようなものが現れ、5秒ほどたち消えた。
なんだ…今の…腕力?
腕力があがったのはわかる。ずっと触手を膜にこすり合わせていたからな。
だが今のパネルのようなものはなんだ?ゲームでもあるまいし…
一体なぜあんな表記が出てきたのだろう…
…まぁ腕が触手に変わってしまったことに比べれば些細なことだ。考えてもわからなそうだし、今はとりあえずこの膜を壊すことに専念しよう。
わからないことはほっといて、と千彩都はまた膜を擦り始める。
その時腕力が上がったおかげか、やっとのこと努力が実ったのか。
ぶしゃぁという音がなり、膜が破れる。
膜はどんどん出てくる液体の水圧により、穴が空いたところを中心に崩れていく。
10秒後元々膜があった場所には、膜の残骸と、今生まれてきたばかりの触手だけになっていた。
やったー膜からの脱出成功だー
と一時の喜びを噛み締め状況確認のためだんだん良くなってきた目を使い周りを見渡し絶望した。
そこは地下の洞窟だった。
その洞窟は明らかに地球の景色ではなかった。
まずそこらかしこに光る青紫色の鉱石があり洞窟の一部を妖しくを照らしている。
それに洞窟を形成している石の色も少し変だ。光沢がなく黒みがかっているが、所々に鋭利な割れ目が見える。
黒曜石のようなものかとも思ったが少し違いどちらかといえば花崗岩などの石に近い質感をしている。
洞窟?なぜ?ここは日本じゃないのか?
というかここは本当に前いた世界なのか?
起きたら触手になっている、腕力上がるとなんか出てくるし、見たこと無い鉱石がいっぱいあるし。
ここは…どこなんだ…?
天国にしては殺風景だし僕は天国なんて信じるほど信仰心は高くない。
なにか情報が得られると思って外に出てみたが、外から得られる情報はどうやらここは日本ではないし、元いた世界でも無いかもしれないという曖昧なものだけだった。
千彩都がここはどこだと頭を捻らせていると急に、
[おはよ〜千彩都〜〜]
とすこし機械的な明るい女性の声が脳内に直接聞こえてきた。
〈え、なに…だれ…更にわからないことが増えそうだからできればもう意味のわからない現象は起きてほしくなかったんだけど。〉
[意味のわからない現象か… まぁそうだよね。 まずは説明をしようかな。 私は補助精霊先代のマスターにはアリサって呼ばせてた。 私はこの名前をなかなか気に入ってるからこれからは私のことをアリサって呼んでほしいかな。]
〈…考えていたことが読まれた…一体何なんだ…アリス?先代のマスター?なおさらわからなくなってきた。〉
[まぁ…そうだよね…わからないよね……………覚えてるわけ、ないよね…ハハ
まぁ、いいや。先代から録音されたメッセージがあるから今から流すね。]
少し悲しそうな諦めたような笑いをし、アリスはそのメッセージとやらを流し始めた。
『あ〜あーぁー
聞こえてるか?よし。
あーーー…これを聞いているってことは起きたんだな千彩都。
…どうも不思議な感じだな。いつも見てたやつがこの録音を聞いているのか。
あぁー時間がない。簡潔に話そう。
まず。お前と彼女の芽結ちゃんは一度死んだ。死にかけの武神によって殺された。
じゃあなぜ今自分は生きているのかと思うだろう。
だが焦らずに聞いてくれ。おまえはいわゆる 異世界転生 をした。
異世界転生といっても漫画やラノベのように神の慈悲によって転生したわけじゃないし、人間に転生できたわけでもない
人為的に、というか俺に触手に転生させられた。
だが勘違いしないでくれお前を殺したのは俺じゃない。
まずお前と芽結ちゃんは一度死んだ。
その際に前前世のせいか、魂がこの世界に戻ってきた。
俺レベルになれば魂があれば死霊魔法を使い、俺や死体のような魂のないもの器に魂を入れ新たな生命として誕生させることはできる。
だがお前の魂は一度使われた魂の抜け殻には入れることはできなかった。
だから俺の召喚魔術で生み出したテンタクルの中にお前の魂を入れた。
召喚魔術は召喚に時間をかければかけるほど空気中の神気を吸い込み成長上限が上がっていく。
だからできる限り時間をかけた。俺の神気で引き伸ばせる最大限の時間分。約2000年分お前を成長させた。
今お前はこの世界で最も潜在能力の高い生物だろう。
だが強いと言ってもそれは潜在能力の話だ。生まれたばかりのお前はまだ右も左も分からない弱い触手。だから俺の補助精霊 アリサ をつけた。
すこしうるさいがまぁ静かな洞窟ではそれが丁度いいだろう。
あぁそれと安心しろ芽結ちゃんもきちんと転生させてある。おまえとだいたい同時期に起きるだろう。
まずいなもう時間がない。あぁそれとアリサに命令して録音はもう何回か流れるようにしておいた。それじゃさらばだ頑張って生き延びろ。』
その先代のマスターとやらは早口でまくし立てるように、要件だけを伝え、そのまま録音は終了した。
〈あれは…誰だ。
いや、今はそんな事はいい。
どうやら僕と芽結は異世界転生をしたらしい。
しかも触手で。
芽結はだいたい同時期に起きると言っていた。僕のように膜の中から触手としてうまれてくるのだろうか…
でも、それとは別に気になる問題がある。僕はどうやら触手に転生させられ2000年近く眠っていたようだ。
そうなると元の世界の母さんはどうなる2000年もたっているのだ。母さんは死んでいるのだろうか。
いや…死んでいるだろう。
ではどうする。方法は一つこの魔法の世界で時間を戻し、元の世界に戻る。それしか無いだろう。〉
と千彩都が考えていると。
[いやぁ、この世界とオリジナルワールドでは時間の流れ?が違うらしい。あと時間だけじゃなく、世界の法則、存在している物質、存在している生物全てがオリジナルワールドとこの世界では違う。
って先代が言ってたから多分だけど帰る方法を見つければ時間は死んだその時に戻ると思うよ。]
とアリサが解説してくれた。
〈つまりこの世界から元の世界…オリジナルワールド?に戻る際にはこっちで経過していた時間は関係ないということか?〉
[まぁそうだね。こっちの世界からオリジナルワールドへ帰る方法があるとすればの話だけど…]
と希望がありそうであまりなさそうな返事が帰ってきた。
〈そうか…つまりこの世界から元の世界へ帰る方法は知らないが、もし帰れたとするのならじかんはたっていないということだな?〉
[うんまぁ一様]
とやはりやはり希望はうすそうな返事が帰ってくる。
それにしても転生の特典が補助精霊はとにかく潜在能力が高いというのはなんというかしょっぱい。
思ってはいけないのだろうがこの転生はどうにもしょぼい。