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あれはいわゆる神。

「日本と言えば何にでも神様がいるでしょ? 漫画にもいるんだよ」

「まんが…とはなんだ?」

「説明が難しいけど、君たちの世界の上に、もうひとつ世界があって、そこで読まれている書物の一種だね。君たちの世界にも物語くらいあるだろ?」

「へえ? 一つ上の世界っすか?」

「書物の一種と。春画や絵巻や噺はあるが……いいや、どうも掴めん」

「まあそうだよね。でも事実を伝えるとそういうこと。君たちは物語の登場人物で、ひとつ上の世界の人々がそれを読んでる。ええっと、これこれ」


編集の神と名乗る男が片手をお盆のようにすると本が現れた。


「手に取って見てみて」

十蔵と太平が覗き込むと、そこには自分たちが描かれていた。表紙には『火附盗賊改方 神室十蔵』とある。

「こりゃあ立派な絵師でさあ。代々の宝物になりますね旦那」


「それが漫画。君が主人公のね。で、こっちが…」

というと神を名乗る男の手にもう一冊、本が出てきた。『恋はミルキーようかんで』と書かれている。

「これはアマネが出てくる物語」

「これはいったい……」

神が手に持ってめくってみろ、という動作をするのでめくってみると、今までの自分たちが鮮明に描かれている。アマネの本も一緒だ。

「どういうことだ? 平賀屋の一件も、高田騒動も、俺の幼少時代も、全部描いてあるぞ」

「じゃあ、あっしらは、本当に絵巻の中のヒトってことですかぇ?」

「そ」

「それらを統べる神様が、我らに何か御用ということか」

「難しい顔しないでくれよ、手違いを謝ろうとしたんだって。ほらこの通り」

神は深々と頭を下げると二人を見据えた。

「君たちの世界と、アマネの世界が繋がってしまったんだ」

「どういうことだ、それは」

「難しいことは理解しないでいいけど、一応説明するね。君たちは紙に書かれて生まれ・時を刻んでいく。でも、とある編集部で間違いがあった」

「ほう」

「『ミルキーようかん』と『神室十蔵』の原稿が混ざっちゃったの。それも、君らが夜道を歩いているページと、アマネが想い人を待つページが重なっちゃったんだ」

「何を言っているか、さっぱりだ」

「そうだろうね。でも事実だ。現代の漫画ってのは精巧に出来てて、ひとつの世界が簡単に出来あがり、登場人物たちに命が芽吹いてしまう。だから不用意に原稿用紙が混ざると、世界も混ざっちゃうわけ。本当はこんな初歩的なミス、もうないはずなんだけどね」

「つまりつまり! あっしらはどうなるんでさぁ!?」

「これから元の江戸の町に戻してあげるよ」

「なんでぇ脅かしやがって!」

「でも問題が残った。神室十蔵。キミ、本気でアマネが気になったね?」

「……!」

「旦那やっぱり」

「うるさいぞ太平!」

「いや仕方ないよ。幼少から武芸一本の堅物、道なんて選んでない」

「ほらね旦那やっぱり」

「太平!」

「そこに別の世界から同じ考えの女の子がやって来て、君と楽しくお茶をしたんだから、相手のことが気になっちゃうのはしょうがない。29歳と言っても男の子だからね」

「でもそれの何が問題なんでさぁ」

「問題も問題。十蔵君がアマネを気に入り、アマネも想い人はいるがまんざらでもない」

「旦那、耳が赤いですけど」

「それによって、もうひとつの物語が生まれそうになってしまった。二つは違う物語だ。混じり合うことは許されない」

「ふん。……そういう理もあろうな…」

神はクルリと一周回るステップを踏むと十蔵を指さした。

「ズバリ、神室十蔵。彼女を諦めて残りの二話を生き抜け!」

「に、二話だと?」

「弐鉄って言えばわかるよね」

「なに…! なぜその名前を!」

「そりゃ編集の神だからね。君の作品『神室十蔵』は、あと二話で最終回なんだ」

「それってあっしらの世界が終わるってことっすか?」

「いや、通常、最終回を迎えたマンガ世界は『上の人たち』が見えないところで続いていくよ」

「ひゃあ良かったぁあ」

「十蔵君は人生を通して、親を殺し、師匠を貶め、江戸を荒らしまわる弐鉄を追ってるんだろ?」

「ああ……あやつだけは、許せん」

「大丈夫、討てることになってるから。『上の人たち』はそこまでを物語として見る。その後、君たちの江戸は平和なまま、ずっと暮らせるよ」

「良かったじゃないっすか旦那」

「そうそう、そうなってくれればアマネの世界を壊さずに済むしね」

「アマネ殿の世界を……?」

「さっきから言ってるでしょ? 二つの世界は別の物語でないといけない。このまま君がアマネに未練を持っていると弐鉄を討つ目的を見失いかねないし、アマネの世界に行こうものなら、アマネの話も同時に拗れちゃう。合わさるのも駄目、惹かれ合っても良くない。二つの世界は別々の運命を全うすべし。だから彼女を諦めて?って話をするために呼んだんだ」

「このまま…引き下がれば……アマネ殿は想い人と結ばれて幸福なのだな……それであれば…」


「いや。結ばれないよ」


「なんと言った……」

「彼女、スタメンだけどモブだし」

「すため……も…ぶ?」

「こんぶじゃないんですけ?」

「えっとね、モブって言うのは……彼女は物語に登場するけど、盛り上げるための人物であって、想い人の健吾とは恋仲にならないの」

「ひっでぇや!」

「そういう物語なんだよ。『ミルキーようかん』はね、あのお店を切り盛りする女の子たち数人の中から、健吾がひとりを選ぶラブストーリーなの。でもね、アマネは選ばれない。健吾は別の女の子とくっ付いて、アメリカでケーキ屋さんを開く。その後味の切なさが30代のOLにバチッと刺さるの」

「アマネ殿は…アマネ殿はどうなるのだ!」

「あのまま御婆さんの残したお店を続けていくと思うよ。『上の人たち』が見る物語から先は、僕も予知できない自然任せだ」

「許せん…許せん許せん! あの洋館はアマネの祖母のもの、みるきぃようかんもアマネが作ったものだろう! みるきぃようかんの物語だというのに、そんな不条理は許されん!」

「だから面白いんだろ?」

「おも、しろい……だと?」

「そうだよ、君たちだって物語は驚く展開のほうが好きだろ? ミルキーようかんも一緒さ。登場人物たちそれぞれがあの喫茶店を舞台に健吾の愛を勝ち取るために奮闘して、たぶんアマネとくっつくだろうな~と展開させたあと、実は彼が別の人を選ぶ。『上の人たち』にはそれがウケるんだ」

「解せぬ、解せぬ解せぬ!!」

「旦那、落ち着いてくだせえって。あっしらだって不条理の中に生きてるじゃないですか……」

「お前はアマネ殿に幸せになってほしくはないのか!?」

「そ、そりゃあ、あっしだって、アマネに幸せになってほしいですけど、それが物語だってんなら……」

「十蔵君。会って数時間も経たない人間を相手に、よくそこまで想いを持ったね。それは君がキャラクターとして完成している証拠だ。編集の神として嬉しく思う」


「しかし君が弐鉄を討つのと同様、アマネの世界にはアマネの世界の運命があるんだよ」

十蔵は肩を落とし、遠い目をした。

「承った。本分を全うしよう」

「分かってくれてよかった。ああ、湯豆腐のページに戻してあげよう。おいしそうに描けていて、僕もお腹が減ったよ~~」


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